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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 21

「初めに行っておく。今から行くのは、あのパルノーバだ。普通なら一介の盗賊風情が攻めるどころか、近付くことさえ出来ない場所だ……だから、行きたくない奴はいかなくていい」


 出発前、アリアンナは手下を集めて話した。


「俺は残ります」


「俺も……」


 直ぐに十数人が不参加を申し出る。


「お前達! アリアンナ様が行くんだぞ!」


 当初からアリアンナの補佐をしていた年配の男が、鼻息も荒く声を上げた。


「ダンテ様が、抜けるんだ……俺達は付いて行きたい……その、アリアンナ様は、その、盗賊じゃないみたいで……俺は盗賊として……」


「お前達! アリアンナ様を裏切るつもりかっ!」


「分かった。それが普通の対応だ」


 また声を荒げる補佐の男を制し、アリアンナは穏やかに言った。


「しかし、アリアンナ様」


「お前達も無理しなくていい。もう、ラドロの支配下ではない……従わなくても、責めたりしない」


 アリアンナは残る手下にも、穏やかに言った。絶対服従、血の掟で縛られたラドロの時代とは、アリアンナの方針はまるで違っていた。それは悪く言えば多くの手下の増長を招き、求心力は低下していた。


 次々に手下達は離反した。見送るアリアンナの顔は何故か清々しく、唖然と見ていた補佐の男は思わず聞いた。


「アリアンナ様、あんなに離反が出たのに何だか嬉しそうですね」


「こんな私の我がままに付いてくるなんて、お前達はどうかしてる」


 残った百人近くの手下に向いて、アリアンナは微笑んだ。大半の手下が去った事より、百人近くの者が残ってくれた事が嬉しかった。


「私は、今は盗賊をやってますが元々は農民です……出来るなら農民に戻りたい」


 盗賊にしては穏やかな風体の手下は、思いを馳せる様に呟く。


「俺は商人だった……盗賊に襲われ、故郷も家族も失った……それが、今じゃ俺が盗賊だ……でも、本音は商人がいい……モノって奴は買ったり交換して手に入れるもんだ。奪い取るもんじゃねぇ、まして命を奪うなんて……もう沢山だ」


 元商人の手下は吐き捨てる様に言った。


「正規の騎士だった私も、今は落ちぶれ盗賊稼業です……だが、アリアンナ様の夢、私も御一緒します……戦いの無い世界……私も見てみたい」


 昔は正騎士だった手下は、自分の錆びた剣とアリアンナを見比べながら言う。


「俺も見てみたい!」


「俺もその方がいい!」


「平和な世の中……戦いもない、盗賊もいない世界……安心して暮らせる世界……もし、実現するなら命を懸ける価値がある!」


 前に出た男が剣を振りかざす。


「これこそ真の戦いだっ!!」


 剣を天に翳す元正騎士の叫びが、周囲に伝染して大合唱になった。


「……そうだな……さあ、魔法使いの尻を叩きに行くか!」


 アリアンナはもう一度皆を見渡すと、満面の笑顔になった。


「おおっ!!」


 手下達は剣を抜き、一斉に歓声を上げた。


「あれも、十四郎様の魔法……?」


「そうかも、しれないですね」


 歓声を上げるアリアンナ達を見て呟くリズに、マルコスも同意した。


「それじゃあ、私も」


「何を言ってるんですか? 行けば十四郎の足手まといに……」


 リズは決心した様に微笑むが、マルコスは慌てて制止する。


「私も行く。バンス、ランスロー済まないが……」


「ラナ様をお守りするのが私の役目。どこまでも、お供致します」


「仕方ないですね。だせが、私の傍は決して離れない様に」


 バンスは襟を正し、ランスローも嬉しそうに言う。


「ちょっと待て、落ち着くんだ。よく考えろ!」


 困惑するマルコスが必死に止めようとするが、今度はフォトナーが部下に号令を掛けた。


「我等は見物に来たのではない! 今こそ国の為、戦いに臨む!」


「マルコスさん、僕らも行きます。勿論、弁えてますから……出来る事をやりに行きます」


「お前達まで……」


 真剣な表情のダニーを見て、マルコスは大きな溜息を付いた。


「マルコス殿、出来る事をやりましょう。全ては国の為、ひいては万民の為、そして自分自身の為に」


「そうですね……」


 バンスは言葉を選びながら穏やかに言う。内心マルコスは、一番に十四郎の元に行きたかった。そして、皆を守る為に敢えて封印していた……だが、皆の気持ちを知った今は、本心に従い行動する事に迷いは無くなった。


 全員がアリアンナの元に整列すると、アリアンナは笑顔を消した。


「気を抜くな! 自分の命は自分で守れ! そして、余裕があるなら隣の奴にも気を使え! 全員揃って、戻って来る……いいな、忘れるな!」


 最後の方は大声になるアリアンナに向かい、全員が剣を振り上げ歓声を上げた。


_________________________



 敵の動きを察知したローボは、十四郎に叫ぶ。


「敵が小細工をする様だ!」


「行って下さい」


 マリオから視線を逸らさず、十四郎は静かに言った。ローボは黙って移動すると、ビアンカの傍に行く。


「あの人間は何を持ってるんだ?」


「あれは多分、網。横の人は梯子を持ってる。梯子で近付けない様にして、網を投げて動きを封じるつもり」


 ローボが指す方向の敵兵を見たビアンカは、思い付く事を話す。


「小賢しい……」


 口元で笑うローボは直ぐにルーを見る。頷いたルーは、手下の狼に目配せをした。


「言わなくて分かるの?」


「ああ……思いは通じる」


「あなたも行って」


 ビアンカは頷くと、ローボを見詰めた。


「お前の傍にいる」


 首を振るローボは、ゆっくりとビアンカの前に出た。


「私は自分の身は守れる」


「そうだろうな……だが、十四郎の顔を見たら気が変わった」


「十四郎の顔?」


 首を傾げながらも剣を構えるビアンカは、既に以前の様な風格が漂っていて思わずローボは笑みを漏らした。


「ああ、見てみろ……あの顔は自分の事より、お前を心配してる顔だ」


 ローボに促され、ビアンカの見た十四郎の顔は今にも泣きだしそうだった。そして、またビアンカの胸の奥で何かが音を立てて崩れた。同時に背筋を電気が走る、腕や脚を見えない何かが駆け抜けた。


_____________________



『どこを見ている……』


 構えこそ崩してないが、明らかに十四郎が自分を見ていない事に気付いたマリオは、また怒りが込み上げた。怒りはマリオの恐怖心を取り払い、剣を持つ腕に力が蘇る。


 だが、先に動いたのは十四郎だった。見えない程速く摺り足で接近する! マリオは瞬時に十四郎の刀の軌道を予測して剣で受ける。火花と金属音が炸裂し、次の瞬間には二の太刀の予測位置に剣を向けると、見えなかった十四郎の刀が一瞬姿を現した。


 更に激しい閃光と衝撃、更に三の太刀、四の太刀とマリオは十四郎の刀を受け続けた。だが、予測を超える十四郎の刀は次第に速度を増す。


 防戦一方! だが、マリオは反撃の機会を窺っていた。刀の軌道はあらゆる方向から来るが、返して戻る一瞬があった。当然常人には分からないが、研ぎ澄まされたマリオの反射神経はその一瞬を見逃さない。


『下から斬り上げた瞬間! 最上段まで剣が伸び、返して斬り降ろす瞬間だ!』


 コンマ何秒! 人の限界を越えた世界! その刹那の時間にマリオは叫んだ。十四郎の軌道がその一瞬、スローモーションに見えた!


 マリオは下からの剣を受け流した瞬間、手首を返し右足が地面に突き刺さる程の勢いを付けて十四郎の胸を突いた! 確かな手応え! だがそれは、金属の冷やかさと硬さが混ざっていた。


 十四郎は突きを受けた瞬間、右手だけでマリオの剣を横向きに弾いた! そして、その動きと神速で連動した左手は、見えない速度でビアンカの刀を抜き、マリオの胴を横薙ぎにした!。


 息が止まった。肋骨の折れる音が後から耳の裏側に響き、キナ臭い匂いが鼻腔を駆け抜けた。


「読んでた……のか……」


 どんなに足掻いても、意識を踏み止まらせる事は出来ない。自分の渾身の突きがカウンターとなって、マリオに返っていた。その威力は凄まじく、類を見ないマリオの精神力さえ根こそぎ切り取った。


 薄れて行く意識の中で、霞む視界に地面が近付いてくる。最早音や痛みの感覚さえ無い……マリオの意識は彼方へと消え失せた。


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