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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 19 (真の目標)

 城壁から飛び出したビアンカは落ちてる二本の刀を拾い、一目散に十四郎の元に走る。途中の邪魔はツヴァイ達が素早く排除するが、ビアンカにはその光景さえ目に入らない。


「せっかくの活躍もビアンカ様、見て無いね」


 ツヴァイに近付いたノインツェーンが、目の前の敵兵を蹴り倒しながら笑った。


「それでいい……ビアンカ様には真っ直ぐ前だけを見ていて欲しい」


「あんた、その顔で言う?」


 精悍な顔のツヴァイが少し頬を染めながら呟き、ノインツェーンが呆れた様に言う。


「ツヴァイ! ノインツェーン! 気を抜くなっ!」


 ゼクスの叫びに二人は顔を見合わせた。


「まだ来るよ。フェンフ、しつこいんだ」


「新しいツヴァイも諦めてない様だ」


 溜息交じりのノインツェーンはツヴァイを見るが、ツヴァイは既に臨戦態勢を整えていた。


「ビアンカ様から目を離すなよ」


「了解」


 背中合わせから一旦別れ、ツヴァイとノインツェーンは青銅騎士達と対峙した。


「でも、ビアンカ様、もう大丈夫だね……十四郎様が一番近くにいるから」


「そうだな……」


 少し笑ったノインツェーンの言葉にツヴァイも小さく頷いた。


____________________



「十四郎!」


 駆け寄るビアンカは叫びながら刀を投げる。マリオは一旦引くと、十四郎が刀を受け取るのを阻止する訳でもなく見守る。十四郎は右手でビアンカの刀を取ると神速で鞘に納め、ほぼ同時に自分の刀を左手で受け取った。


「ビアンカ殿。確かに受け取りました」


 振り向いた十四郎の笑顔に、ビアンカの心臓が止まりそうになった。その衝撃でビアンカの中の何かが繋がる……それは、とても優しくて気持ちの安らぐ”何か”だった。


「何で素直に見てるかなぁ……」


 穏やかな言葉とは裏腹に、アインスの胸中は煮えたぎっていた。せっかく与えたチャンスを自ら放棄するマリオに対し、怒りを通り越した憎しみさえ感じていた。


「余計な手出しはするな!」


 十四郎から目を離さないまま、マリオは背中でアインスに叫んだ。十四郎が素手になった事もアインスの仕業で、助けられたと思うと全身が震えるくらい悔しさが襲った。


「分かったよ……でも、魔法使い……本領発揮するよ」


「黙れ…………俺には剣の才能があった……才能があって、人の何倍も努力もして来た、血の滲む努力をずっと続けて来た……そしてイタストロアで最強の騎士となった……だが、お前は何なんだ? 何だ? その涼しい顔は?」


 マリオは言葉をアインスから、途中で十四郎に向けた。表情を変えないと言うより、落ち着き払った十四郎の様子が、マリオを苛立たせる。十四郎の様子には強敵に出会ったと言う感じが、少なくともマリオには感じられなかった。


 それが意味するのは……”お前など眼中に無い”と言う事で、マリオは全身を怒りで震わせた。


「地位も名声も、全て捨てて手に入れた”最強”の称号……こんな最果ての地でも、それだけが心の拠り所だった……お前は、それさえ奪うと言うのか?」


「その様なつもりはありません。私はただ……」


 言葉を押し殺すマリオに対し十四郎は穏やかに答えるが、マリオは十四郎の言葉を叫びながら遮った。


「言うなっ! それより全力で来いっ!」


 叫びと超高速の打ち込みは同時だった。マリオは十四郎目掛け、剣を振り下ろす。十四郎は瞬時に頭上で受けるが、マリオは剣を十四郎の刀の沿って滑らせ、そのまま胴に迫った。


 マリオは核心していた。受け流す十四郎の刀に沿って滑らせ、その勢いののまま脇腹を斬る! 十四郎が受け流す事に集中すれば自分の高速剣は行き場を失い、次の攻撃に対し十四郎が先手となるが、初めから狙いを横腹に定めていれば次の十四郎の攻撃を越えて先を越せると。


「何っ!!」


 マリオの叫びが動作を越えて響き渡る。十四郎は右手一本でマリオの剣を受け流し、刀に沿って滑らせながら横腹を狙う神速の動作を、左手で半分抜いたビアンカの刀で受け止めた。


 次の瞬間、マリオは首筋に稲妻の様な衝撃を受けた。十四郎は左手で受けると同時に、右手一本でマリオの首筋を打ったのだった。


 鎖骨の砕ける音が、鼓膜の内側から脳内に響く。体を離れそうになる意識を血が滲む程に歯を食い縛り、マリオは引き戻す。そして、瞬間に怒りが脳天を突く! 見れば分かる刀の背は斬れない様になっているからだった。


「……何故だ? なぜ斬らなかった? 情けを掛けてるつもりか?」


 一旦下がった十四郎をマリオは鬼の形相で睨んだ、薄れる意識を渾身の力で引き止めながら。


___________________



「私が欲しいのは、あなたの命ではありません」


「なら、何だ?……欲しいのは、難攻不落のパルノーバを落とした名声か? それともイアタストロア自体か?」


 刀を仕舞った十四郎は静かにマリオに向き直るが、マリオは焼かれる様な肩の痛みに耐えながら言葉を絞り出した。


「その様なモノに興味はありません」


「なら、何だと言うのだ! お前はパルノーバに攻めて来たんだぞ!」


「私が望むのは……戦いの無い世界……人々が平等に、平穏に暮らせる世界です」


 興奮するマリオに対し、十四郎は静かに言った。


「そんな世界など夢物語だ!」


「そうですね……何もしなければ……夢物語です。ですが、夢は見るモノではありません。実現するモノなのです」


「戯言を……たった一人で何が出来る……」


 十四郎の言葉は深い場所でマリオのココロを刺激するが、敢えて無視したマリオは言葉を絞り出す。


「何が出来るかは分かりませんが、私は前に進むだけです」


 十四郎は右手で柄を握ると、左手を鯉口に当てた。そのまま左足を引いて、膝を折り低い体勢で構えた。見た事も無い構えだが、マリオはその構えに戦慄を走らせる。


『本気を出す……って事か……』


 ココロで呟いたマリオは予感した……”決着”の時が来たと。


「あの構え……」


 呟いたビアンカのココロの中で、また一つ扉が開く。ドキドキする胸が痛い、何度拭いても手に汗が滲む……だが、それは決して不快ではなく、むしろ懐かしくて愛しい感覚だった。


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