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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 18

 素手で戦う十四郎だったが、もうマリオの身体を掴む事は出来なかった。掴まれなければ魔法は無いと、マリオには分かっていた。初めは恐る恐る近付いていたが、距離を取った打ち込みを続けてる内に確信した。


「何時まで躱せるかな?」


 剣が無ければ攻撃は出来ない。体を掴まれなければ魔法は無い……戦い方の模索が終わったマリオは薄笑みを浮かべるが、十四郎の表情に変化は見られない。


「駄目だよ、今がチャンスなんだ。休ませてる暇なんてないから」


 腕組みしたアインスはマリオの戦い方に口出しをするが、そんな事は百も承知だった。だが、十四郎の放つ異様な”気”は、マリオを慎重にさせた。


「何だよ! 素手の相手が怖いのか? イタストロアの騎士なんて、大した事ないね」


 アインスの一言は、マリオのプライドを傷付けた。凄い形相でアインスを睨み付けると、十四郎に向かい一気に距離を詰める。


 繰り出す剣には”怒り”が含まれ、剣を加速させる。寸前で躱す十四郎だったが、明らかに剣筋は今までとは違っていた。寸前で躱したはずの剣が十四郎の服を切り裂いて、破片が宙を舞っていた。


 だが、表情一つ変えない十四郎は淡々とマリオの剣を受け流し続ける。そして、視界の隅には絶えずビアンカを置いていた。


「相手の騎士も一皮剥けたな。剣の速さは言うに及ばず、剣筋の強さと正確さが格段に増した様だ。だが、素手での反撃は無理になって来たな……もう相手は身体を掴ませない」


 落ち着いた分析をするルーに対し、ビアンカは張り裂けそうな胸の鼓動を押さえるのに必死だった。だが、十四郎の服が裂ける度に、まるで自分の身が引き裂かれる様な痛みに襲われた。


 我慢の限界はビアンカの意志に関係なく、突然やって来た。マリオの剣を躱す為、後ろに飛んだ十四郎がバランスを崩し、そこに追い打ちを掛けるマリオが上段から斬り掛かる瞬間だった。


「十四郎っ!!」


 叫んだビアンカがルーから飛び降り、城壁の昇降口に走る。


「待てっ!!」


 直ぐにルーが後を追うが、押し寄せるパルノーバの守備隊に行く手を阻まれた。前脚で薙ぎ倒し、体当たりで道を切り開こうとするが、ルーの大きな体が仇となり狭い城壁の上では前進は思う様に出来ない。


「待つんだっ!!」


 ルーの叫びは、押し寄せる敵兵の喚声に打ち消された。


____________________



 狭い城壁内の通路では多くの敵兵が行く手を阻む。ビアンカはレイピアを抜くと、浅い角度で敵兵の腕や脚を切り裂く。興奮状態のビアンカは、考えなくても体は自然に動いていた。


 腕や脚を傷付けられ、怯んだ所を蹴り倒しながらビアンカは進む。もう、頭の中は十四郎の事だけになっていた。


 全てを忘れてる事も、剣技も思い出せない事も、今のビアンカには関係なかった。ただ、目の前で傷付いて行く十四郎を救いたい、守ってあげたい……その意志だけがビアンカを突き動かしていた。


 群がる敵兵も、不安な自分の剣も最早関係ない。ビアンカは脱兎の如く先を進み、暗い城壁から出ると、そこは”戦場”だった。


 一目散に十四郎の刀を拾いに走る。その間も群がる敵兵を一撃で倒して行く。ツヴァイはビアンカの姿に下腹が冷たくなるが、群がる敵兵に阻まれ近付く事が出来ない。


 そこにゼクスが間に飛び込んで来た。


「行けっ! ここは任せろ!」


「頼むっ!」


 ゼクスに任せビアンカの元に行こうとするツヴァイの前に、若いツヴァイが立ち塞がった。


「前のツヴァイさんですね?」


「そこをどけっ! 邪魔だっ!」


 振り下ろす剣を簡単に躱した若いツヴァイは、前のめりになるツヴァイの背中を蹴った。そのままの勢いで地面に倒れたツヴァイを見下ろし、若いツヴァイは怪しく笑った。


「何だ、そんなもの何ですか? 今ならあなたは、上位十人には成れませんね」


「そんなモノに興味は無い」


 立ち上がったツヴァイは、剣を下げたまま呟いた。


_____________________



「ツヴァイ! どうした速く!」


 敵兵を蹴り倒しながらゼクスが叫ぶが、新たな剛剣に思わず後ろに飛び退いた。


「私はフィーア。ツヴァイの言う様に、今のあなたも上位には……」


「関係ないな」


 明らかに上背で勝るフィーアの剛剣を簡単に受けたゼクスは、表情を変えずに言葉を遮った。


「ほう、力は中々ですね」


 斬り返すフィーアの剣は速さも重さも卓越していたが、ゼクスはまた簡単に受けた。明らかにフィーアの顔色が変わる。


「お前達に欠けてるモノが分かるか?」


 フィーアの剣を弾き飛ばしたゼクスは、視線を強める。


「欠けてるモノ? そんなモノは無い」


 一旦下がったフィーアは、表情を強張らせた。


「仕方ない、教えてやろう」


 正眼に構えたゼクスを見て、近くに来たノインツェーンが叫んだ。


「ゼクス! 十四郎様の構えにそっくりだよ!」


「あなたは、そんな下位なのに、どうして?」


 戦いながら叫ぶノインツェーンに、今度はフェンフが首を傾げる。


「知らないの? 順位は強さの証明じゃない」


 微笑みを送るノインツェーンの言葉に、フェンフはまた首を傾げた。


「言ってる意味が分からない」


「ほら、あそこ」


 ノインツェーンが指す方向では、ゼクスがフィーアを圧倒していた。体格差や剣の速さや重さ、全てフィーアが勝ってるのに、戦いはゼクスが主導権を握っていた。


 繰り出すフィーアの剣は尽く受け流され、ゼクスの反撃は素早く的確だった。誰の目にもゼクスが優位で、防戦一方のフィーアの顔に余裕なんてなかった。


「何をしてるフィーア……下位を相手に」


 唖然と呟くフェンフに向かい、近くの敵を粗方片付けたノインツェーンが、腰に手を当て微笑んだ。


「教えてあげようか?」


「青銅騎士一桁に敵うと思うんですか?」


 余裕の表情のフェンフに、ノインツェーンは急に飛び掛かる。咄嗟に下がったフェンフは、口元を綻ばせた。


「奇襲しかないですね……えっ?」


 ノインツェーンの剣は想像を超えた速さで迫り、フェンフの後退速度を簡単に超えた。そのまま強烈な前蹴りを喰らい、フェンフは苦痛で綺麗な顔を歪めた。


「何故……?」


「ワタシだけじゃないよ。見て、新旧のツヴァイ達を……特にウチのツヴァイは、今は機嫌が悪いからねぇ」


 肩に剣を乗せ、ノインツェーンが指差す方向ではツヴァイが若いツヴァイを倒す瞬間だった。


「アインス様に、匹敵すると言われた、私を……こんなに、簡単に……」


 倒れる若いツヴァイに向かい、ツヴァイは言葉を吐き捨てた。


「邪魔だと言ったはずだ」


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