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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 16

「どうしたっ! それだけかっ!」


 マリオの苛立ちは募る。十四郎は超速のマリオの剣を受けつつも、傍から見る分には善戦している様に見えるがマリオには本気で戦ってるとは思えなかった。


「マリオ殿、どうされたのでしょうか? 相手を鼓舞してる様には見えませんが」


「確かにな……言葉通りに怒ってる様だ」


 唖然と呟くナダルの言葉を受け、ロメロは強い口調で言った。


「何故ですか? 鬼気迫る互角の戦いをしているのに……」


「超の付く達人同士だ、凡人には分からないさ……だが、多分、魔法使いはマリオ以外の何かを見ているのかも……」


 意味の分からないナダルは憮然と言うが、ロメオには分かる気がした。


「戦いの先にある何か、か……見てみたいものだ」


 十四郎の超絶な戦いを見ながらロメオは、ぼんやりと呟いた。


「いい加減にしてよねっ! 何のつもりなんだっ!」


 更に苛立つアインスも叫ぶが、ツヴァイには彼らの苛立つ意味が分からない。アインスには我慢できなかった。マリオを道具として使ったはずが、目の前で展開される自分には手の届かない超絶な戦い。


 握る拳に血を滲ませ、マカラによって赤く染まった目が炎の様に更に燃え上がる。噛み締めた口元からも血が滲み、身体は小刻みに震えていた。


 アインスのココロは、後悔を飛び越え嫉妬の渦に巻き込まれていった。


「このままじゃ済まさない……」


 絞り出す言葉には、邪悪の思念が黒く巻き付いていた。


「ローボ殿、何故奴らは苛立つのでしょうか?」

 

 マリオやアインスの苛立ちは傍目でも分かる様に次第に斜度を増す。ツヴァイには付いて行けず、思わずローボに聞いてみた。


「フン、弓手の女が言ったろ。一見真剣に戦う様に見えて、十四郎は相手を見ていない」


「自分にはそうは見えませんが……」


 ローボは呆れた様に言うが、ツヴァイには信じられなかった。


「それが本当なら、何がそうさせるのか?」


「十四郎……」


 首を傾げるゼクスは呟き、リルはまた悲しそうな目をした。


「何を見てるのかしら、十四郎様……」


「心配はいらないさ、十四郎様の事だ……」


 リルの方を心配そうに見たノインツェーンは、独り言の様に呟くがココは自らを鼓舞する様に言葉を強めた。


「全く……今の状況を何だと思ってるんだ……やっと、来たか……」


 呆れた様に呟いたローボは、急に感じた懐かしい気配に口元を綻ばせた。


「何がですか?」


 気付いたツヴァイが首を傾げると、ローボはニヤリと笑った。


「バカ息子だ……態勢を整えろ、息子には矢狭間を潰させる。その後は各個撃破だ」


「分かりました」


 頷いたツヴァイは直ぐ様他の者にも伝え、全員が強く頷いた。


____________________



 ルーはビアンカを乗せても全くスピードは衰えない。それどころか付き従う狼達の方が、付いて来るのが精一杯と言う雰囲気だった。


 だが、乗り心地はそう悪くなく、ビアンカはルーが気を使って走ってるのが分かった。躍動する肩の筋肉も、荒波の様に揺れる腰の辺りもビアンカを包み込んでいる様だった。


「背中で吐くなよ!」


「ルーは優しいね……」


 叫ぶルーの背中に、ビアンカはそっと顔を伏せた。ルーの背中はお日様の匂いがして、ビアンカは落ち着いた気分になれた。


「なっ、何言ってる! 振り落とすぞ!」


 言葉とは裏腹の優しい走りは、ビアンカに忘れていた何かを思い起こさせた。


「あれが、パルノーバ……」


 ルーの背中で、ビアンカが呟いた。


「まるで、断崖絶壁だな」


 パルノーバの城壁をみたルーは、口元だけで笑った。


「ルー様、お待ちしておりました」


 前に来た老齢の狼が、小さく礼をした。


「遅くなった。あの壁を登れる数は?」


「はっ、ルー様配下を合わせると百程」


「そんなものか……では、直ぐに行くぞ」


 凛として命令を下すルーだったが、ビアンカはパルノーバの絶壁に近い城壁に息を飲んだ。


「あれを登るの?」


「ああ、狼は飛べないからな」


 キラリと牙を光らせた。


「さあ、行くぞ!」


 ルーが遠吠えを上げ真っ先に走り出し、配下の狼が続く。ルーは城壁の横から回り込むと、一気に斜めに壁を駆け上る。


「しっかり掴まれ! 落ちるなよ!」


「ルー!!」


 叫ぶ事しか出来ないビアンカは、必死でルーの背中にしがみ付く。あっと言う間に地面が遠ざかり、視界が真横を向く。だが、存在するはずの重力がビアンカを襲わない。ルーはまるで、飛ぶ様に壁を駆け上がる。


 城壁の頂点でルーは空に舞い、スローモーションで地上の人影が視界に飛び込んだ。


「十四郎!!」


 何の迷いも無くビアンカが叫ぶ。ルーは城壁の上に着地すると同時に、見張りの兵を前脚で薙ぎ倒すが牙は使わない。


「ルー……」


 唖然と呟くビアンカに振り返り、ルーは恥ずかしそうに言った。


「十四郎が悲しむからな……」


____________________



「やっと来たか……ルー!! 弓手をやれ!! 分かってるな!!」


 瞬時にルーを見付けたローボが叫ぶと、ルーが遅れて城壁を越えた配下に目配せをした。直ぐに配下の狼は矢狭間に殺到する。


 だが、狙うのは弓手が持つ弓で、鋭い牙で弓を次々に噛み砕いていた。


「何だ? また狼達か……えっ、あれは……」


 アインスは一際大きな狼に跨るビアンカを見付けて、怪しく口元を綻ばせた。


「何なんだ?!」


 戦いの最中、マリオは傾れ込む狼の大群を見て、思わず距離を取った。その一瞬の隙に瞬時に後悔するが、目の前の十四郎は追い打ちを掛けるどころか、一点を見詰め茫然としていた。


「今だ! 各個に撃破しろ!」


 ツヴァイの号令で、一気に状況が動き出した。ゼクスを初め、ノインツェーンも周囲の敵に向かい、ココとリルは背中合わせで敵の弓手の腕や脚を射抜く。


「ロメオ様! 反撃を!」


「落ち着け! 我が方は後方に退避!」


「逃げるのですかっ!」


 興奮するナダルに向い、ロメオは凛とした口調で叫び返す。


「戦闘はアインスの配下に任せろ! 退避だ!」


 その剣幕に押され、ナダルは仕方なく指示を出した。


「さあ、魔法使いどうするの? 一番の弱点が向うから来たよ……」


 内側を向いていたアインスのココロが、真っ赤な炎で燃え上がる。全身の血が沸騰して押さえられない興奮を楽しむ様に、悍ましい笑顔を十四郎に向けた。


 その笑顔は天使の様だが、近くで見ている配下のツヴァイ達は背筋に冷たいモノが走った。


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