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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 13

「どうする? 厄介な奴が出て来たぞ……新たに五百程追加だ……」


 呆れた様に呟くローボだったが、十四郎は言葉とは裏腹に顔色一つ変えなかった。


「参りましたね」


「それだけか?」


 何かを察した様に、ローボは十四郎を見上げた。


「ローボ殿、皆を頼みます」


「まぁ、止める気はないが、如何にお前でも……」


 十四郎は張りのある声で言うが、ローボは周囲を取り囲む呆れる程の敵に視線を向ける。


「話し合いに持ち込む為には、力の行使が必要です」


「話し合いって、お前……砦を明け渡せって要求だろ? そんなの力で捻じ伏せるしかないだろ?」


 十四郎は真顔で言うが、ローボには十四郎の真意が分からなかった。


「それでは……」


 十四郎は軽く会釈すると前に出た。


_______________________



「一体どう言うつもりなんでしょう?」


 唖然と呟くナダルだったが、ロメオは少し笑ってる様に見えた。


「たったあれだけの人数で乗り込んで来るには、きっと訳があるのだろうが……凡人には分からないけどな」


「……奴は砦を明け渡せと言ったんです」


 十四郎の言葉を思い出してマリオは呟くが、その時の表情が何故か思い出せなかった。だが、事態は急転化で動く。


 先に仕掛けたのは十四郎だった。


「そっちから来る?」


 嬉しそうなアインスが目配せすると、取り囲む輪が一気に狭まる。味方のツヴァイ達は素早く身構えるが、その視線の先では躍動する十四郎の姿があった。


 走りながら刀を抜いた十四郎は、正面の兵に迫る。当然兵達は剣や槍を構えるが、思考伝達の速さを越え、次の瞬間には地面に倒れる。


 そのまま、十四郎は横方向へ移動しながら、敵兵を倒して行った。


「何だ? 敵兵は反撃しないのか?」


 思わずノインツェーンが呟くが、見た感じでは十四郎が横を通り過ぎるだけで倒れているといった印象だった。


「最小限の剣の動きで敵を倒し、自らのスタミナは温存する……速すぎて見えないがな」


 ゼクスが説明するが、見ていても完全には理解出来なかった。


「確かに十四郎様の剣は敵に当たってる、が……当たる瞬間に、力か何かを込めているのか?」


 唖然と呟くツヴァイだっが、自分の見解には自信がなかった。


「……あれが、十四郎の魔法だ……触れるだけで、倒される」


 リルの呟きが、一番近いと誰もが思った。ココなどは顔面蒼白で、ワナワナと震えていた。


「剣が敵に触れる瞬間”気”をブツける……見た目はたいした事ないが、凄まじい破壊力だ。瞬間で相手の気を粉砕、昏倒させる」


 ローボの補足で皆は納得するが”魔法”と言う言葉しか、形容は見つからなかった。


「凄いね! 前より強くなってる! 物理的に斬るんじゃないんだ! 見えない”何か”で斬ってるよ!」


 興奮気味のアインスは、顔を真っ赤にして興奮した。


「何なんだ……」


 対等だと思っていたマリオの思考は乱れるが、同時に喜びも込み上げた。そして、十四郎が半分程アインスの部下を倒した時、考える前にマリオは十四郎の前に立ち塞がった。


________________________



「マリオ殿なら、勝てますか?」


 言葉を震わせるナダルに対し、薄笑みの消えたロメオは呟く。


「剣の速さだけならな……だが、剣は魔法には通用しない」


「あれは、魔法だと言うのですか?」


 信じられない、信じたくないナダルは更に声を震わせた。


「分からない……だが、見ろ……倒れた兵は死んではいない、苦痛に顔を歪める事もない……」


 ロメオが指差す場所では、地面に倒れた兵達の姿があった。確かに微かに動いて生きてる事は分かる……そして、何より打撃を受けて倒されたにしては、苦悶の表情は誰一人浮かべてなかった。


「招いていけないモノを、我々は招き入れてしまったのかも……」


「確かにな……とても人が勝てるとは思えない」


 唖然と呟くナダルに、顔を強張らせながらロメオも同意した。


「ならば、どうすれば……」


「昔の部下にリーオと言う男がいた。あの、ベルッキオの片腕と呼ばれた男だ」


 混乱するナダルに向い、ロメロは深呼吸すると静かに呟いた。


「噂には聞いてます。あの猛将ベルッキオ殿を押さえた、知将だと……」


「ベルッキオを倒したのは、モネコストロの魔法使いだ……」


 ロメロの言葉は衝撃だった。ナダルは、自分が聞き及んだ情報は、操作されたのだと直感した。


「ミランダ砦の攻防戦で、数百の敵に取り囲まれて討死したと……」


「都合が悪いからな……魔法使いの出現は国の存亡に係る……だが、リーオは言ったよ。魔法使いは本物だと……そして、魔法使いは、我が国で言われる様な存在ではないとな」


 オメオは語尾に含みを持たせた。まるで、これから起こる状況を見れば分かると言ってるみたいに。


_______________________



 十四郎と対峙しても怖さは感じなかった。むしろ柔和な表情は、マリオを不思議な感覚で包み込んだ。


 頭の中で前に手合せした時の、十四郎の剣の速さをリプレイする。その感覚は身体が覚えているが、今見た十四郎の動きが巨大な違和感となりマリオを躊躇させた。


「見てるだけじゃ、先に進まないよ!」


 遠くから催促するアインスの言葉に、マリオは振り返り睨みを投げる。


「おお、怖い……ボクじゃなくて、魔法使いに向かってよ」


 お道化た様にアインスは肩を窄めるが、マリオは完全に無視して十四郎に向き直った。


「だが、言う通りだな……」


 向き合ってからの時間の経過は、マリオとて悔しく思っていた。動かない手足、判断出来ない思考、全てに棘が巻き付いて動けなくしている感覚だったから。


「ならば……」


 呟いたマリオは最初から全力で向かう。手合せした時の速さなら、必ず勝てると信じて渾身の剣を振り下ろした。


 風切音が後からきそうな凄まじい切先が、十四郎を襲う。十四郎は刀を返すが、明らかに速度が足りない!。


「届くっ!!」


 叫ぶマリオの目前で、十四郎の姿が消えた。剣は宙を真っ二つにはするが、その手応えは限りなくあやふやだった。そして、次の瞬間には十四郎の刀がマリオの目前に迫る!。


 考える前にマリオは剣の軌道を力任せに変えると、腕の筋肉が悲鳴を上げ踏ん張る脚が地面にめり込んだ。


「尋常じゃないね、二人とも……」


 薄笑いのままアインスは呟くが、その目は笑ってなかった。


 マリオは寸前で十四郎の刀を受ける。飛び散る火花と甲高い金属音の果てに、マリオは口角を上げた。


「受けれる……速さは、見切れる……」


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