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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 10

 ツヴァイ達やリルが見守る中、リズとビアンカは剣の稽古を続けていた。


「ビアンカ、勘は取り戻せた?」


 剣を構えるリズは、ビアンカに笑い掛ける。


「分からないよ……だけど……もう、十四郎を助けられる、かな?」


 笑顔の無いビアンカは小さく呟いた。


「今はまだ、やりたい事と出来る事は違う。前のあなたは、もっともっと強かった。やっと自分を守れるくらいかな……今は」


「そうなんだ……」


 構えた剣を降ろしたリズは、少し残念そうに呟く。ビアンカは俯くが、レイピアを握った手には前と違った感覚が蘇っていた。それは剣がただの金属ではなく、まるで腕の一部になった様な感覚。


 剣先は指で、握った柄は関節の様な感覚だった。軽く振るだけで分かる、懐かしい感覚……だが、レイピアでは戻りつつある感覚も、刀を握るとまだ違和感があった。


「ビアンカ様、今度は私がお相手を」


 ツヴァイはゆっくり剣を抜いた。リズは黙って下がるが、ツヴァイの表情に思わず声を上げた。


「まだ、完全に治ってません! あまり……」


 だがそんなリズの心配を余所に、ツヴァイは猛然と斬り掛かる。元青銅騎士、序列二番は伊達ではない、その剣力と速さは尋常ではなく、思わずリズは目を見開いた。


「速い!」


 ツヴァイの剣はリズの剣とは明らかに違う。振り下ろすだけで、風圧がビアンカの頬を叩く。


「ちょっと……」


 思わず止めに入ろうとするリズの肩を、ゼクスが止めた。


「大丈夫です……どうか、ツヴァイに任せて下さい。ツヴァイは責任を感じているのです……ビアンカ様を守れなかった事に」


「でも……」


 だが、どう見てもツヴァイの剣は普通ではない。剣を受けるビアンカの顔が苦痛に歪み、リズは自分が斬り付けられた様に全身に痛みが走った。


「ツヴァイは本気じゃない、ですよ。記憶を無くす前のビアンカ様なら互角でも、今は違うから……ああ見えて、ツヴァイは十四郎様の事もビアンカ様の事も大好きだから」


 微笑むノインツェーンの顔を見たリズは、一気に急上昇した体温が下がり大きな溜息を付いた。


「ビアンカ様! もっと速く!」


 ツヴァイは次々に剣を繰り出し、ビアンカは受けるので精一杯だった。だが、ツヴァイの剣は確実にビアンカの勘を刺激し、次第に体は動く様になる。


「動く……」


 激しく剣を受けながらも、ビアンカは笑みを零した。


「あいつ、教官の才能あるな」


 今度はリルが感心した様に呟く。


「当たり前だろ、ツヴァイはアタシ達のリーダーだからな」


 胸を張るノインツェーンを見て、リルはボソっと言った。


「そうだな、お前には無理。何せ、自分勝手で我がままだからな」


「もういっぺん言って見ろ!」


 直ぐに挑発に乗るノインツェーンが頭から湯気を出す。


「お前達……」


 ゼクスは大きな溜息を付いた。


__________________________



「残りの食料はどの位だ?」


「節約して、あと十日くらいです」


 ロメオの問いに即答するマリオは、じっとロメオの表情を窺う。


「鳩の残りを全て解き放て、早馬も全部一斉に出せ」


「仕掛けますか?」


 ロメオの言葉がマリオの期待感を高めて、声を高揚させた。


「正門を半分開けろ」


「半分?」


 思い掛けない指示、マリオは首を捻った。


「わざとらしい誘いだ。私が考える奴なら、必ず来る」


「どう、お考えですか?」


 意味深なロメオの言葉は、意味の予測が出来ないマリオを少し苛立たせた。


「自分の強さに自信を持つ……生半可な自信じゃない、唯一絶対の自信だ……まぁ、見て来た訳じゃないけどな」


 少し笑ったロメオは、ロメオの視線を軽く躱した。


「奴は確かに強い……だが、分かりません……何と言うか、その、威圧感とか……強い者が持つ優越感とか……そんな自己中心的な様子が全く感じられない」


 思い出す十四郎は、不思議な感覚でマリオの記憶を混乱させた。ロメオの言う敵としての像は、そんなに分かり易くはないと眉を潜める。


 だが、マリオはそれ以上言わなかった。ロメオが読み間違いをしているのかも、そう考えると何だか気分が良かったから。


______________________



「十四郎様、砦の正門が半分開いたままになってます。伝書鳩も、早馬も物凄い数です。おそらく、全部解き放ったと」


「鳩と馬は全力で捕まえて下さいね」


 緊急連絡をしたつもりのココは、十四郎の様子に肩透かしを食らうが直ぐに微笑んだ。


「先に敵が動いたか……だが、罠だな」


 腕組みしたマルコスは、渋い表情で言った。


「それではマルコス殿、後をお願いします」


 ペコリと頭を下げる十四郎に、唖然とマルコスが言う。


「聞いてなかったのか? 罠だぞ」


「私もそう思います」


 直ぐにココも同意するが、十四郎は穏やかに微笑む。


「多分、そうでしょうね」


「多分って……お前、まさか一人で行くなんて言うんじゃないだろうな?」


「はぁ……」


 頭を掻く十四郎を見て、マルコスの顔色が変わる。


「確かにお前に頼るしかない。だがな、少しは俺達を頼れ」


「砦から出て来た者を捉えて下さい。お願いしたいのは、それだけです」


「殆ど出て来た場合は?」


 ココは茶化すが、マルコスは更に語尾を強めた。


「何をするか、考えを聞かせろ。納得出来る答えじゃなけりゃ、行かせない」


「話をします。包み隠さず、全て」


 十四郎は即答した。


「話なんか通じるか! 三千だぞ! 如何にお前でも……」


「師匠、十四郎様は魔法使いですよ」


 興奮するマルコスの肩を叩いて、ココが笑った。


「そんな事、分かってる! それよりお前! 付いて行く気だなっ!」


「あっ、はい」


 更に顔を真っ赤にするマルコスに向かい、ココは嬉しそうに笑う。その笑顔は、幼い頃のココにダブってマルコスも肩の力が抜けた。


「リルには言うなよ」


 ココの耳元で囁くが、肩を上げたココが無言で後ろを指す。


「聞こえてる。アタシも行く」


「……これだ……」


 大きな溜息の向こうには、ツヴァイ達もいた。聞かなくても顔を見れば分かる、その顔は決意と言うより当然と言う顔だった。


「分かったよ。後は任せろ……」


 観念したマルコスは、大きな溜息を付いた。早く行かせないと、散らばっているフォトナー達まで行きそうだと苦笑いしながら。


「十四郎……」


 今度はビアンカが十四郎に近付くと、刀を手渡した。


「私はまだ、付いていけない……だから」


 受け取った十四郎は腰に差す。


「二本差しか……」


 マルコスは呟いて、違和感の無い姿に大きく息を吐いた。


「十四郎様。敵の食料は、もってあと十日です」


 ダニーの報告に、十四郎は笑顔で頷く。ダニーの後ろには、精悍な顔付きになった仲間達も勢揃いしていた。


「ダニー殿、後を宜しくお願いします」


 真剣な顔で頷いたダニーにも分かった……決戦の時が来たと。


「私は行かないからな。ラナ様とビアンカ殿を守る」


 少し離れた場所で、木に凭れたランスローが少し大きな声を上げた。


「宜しくお願いします」


 頭を下げる十四郎を見ないで、ランスローは小さく頷く。


「ランスロー。頼りにしてるぞ」


 ラナはその横で微笑み、バンスも穏やかな表情を浮かべていた。


「ラナ様……もうすぐですね」


「十四郎は大丈夫だ……魔法使いだからな」


 バンスの囁きに、ラナは無理して笑った。


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