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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 9

 更に一週間が経過し、十四郎達は淡々とかがり火続けていた。パルノーバには変わった動きはなく、それがかえって不気味だった。


「相変わらず鳩は多いが、早馬も出だしたぞ」


「はい。シルフィー殿と捕まえに出てますけど」


 十四郎はローボのボヤキを宥める様に、頭を掻いた。


「こちらでも対処してる……馬は食べるのを我慢して逃がした、人は不味いからな……一応あそこだ」


 狼に左右を挟まれ、顔面蒼白な男が立っていた。


「ローボ殿……」


 呆れ顔の十四郎が、溜息と共に呟いた。


「砦を偵察した梟から、敵が兵を整えてると言う事だが……」


 急に真剣な目をしたローボが、十四郎を見上げた。


「出てきますかね」


「ワタシに聞くな……敵の準備は出来てる……時間の問題だな」


 頷いた十四郎は一礼するとアリアンナの元に向かった。ローボは寝そべると、その背中を見送った。


「アリアンナ殿……」


 二人きりの場所に呼び出し、十四郎は俯きながら言葉を濁した。


「何だ、こんな所に呼び出して?」


 薄笑いを浮かべたアリアンナは、艶のある視線を十四郎に向けた。


「それが……」


「アタシ達は、火を点けに来ただけじゃない」


 見通していたアリアンナは、十四郎の言葉の先を話す。その表情は笑っている様に見えた。


「申し訳ありません……」


 頭を下げる十四郎に向かい、アリアンナは表情を変えた。


「謝るな……だがな、アタシは部下から死者は出さない……ヤバくなったら、逃げろと指示するかもな」


「……私は誰も死なせません……」


 決意した様な十四郎の顔を見て、アリアンナは目を光らせる。


「このまま包囲するだけで、パルノーバを落とせると思ってた訳じゃないだろ?」


「それは……」


 核心を突くアリアンナの言葉に、十四郎は言葉を濁した。


「一人で乗り込むつもりだったのか?」


「……はい。折を見てからですが……」


「……全く……どこまで本気なんだ」


 普通に言う十四郎に、アリアンナは溜息を付いた。


「それでは、敵が出て来た場合は交戦は避けて下さい」


 今度は真剣な表情の十四郎で言うが、アリアンナは顔を顰めた。


「何もしないで逃げろと言うのか? アタシは、やばくなったから逃げると言ったんだ。戦わず最初から逃げるなど、プライドが許さない」


「ですが、戦わなければ命を落す事はありません」


「なら、何の為に呼んだ? ただの数合わせか?」


「はい」


 不機嫌そうな声を出すアリアンナに向かい、十四郎は真顔で言った。


「……嘘なんて、お前には無いんだろうな……分かったよ、敵に出会えば逃げる様に指示する」


 ふっと笑ったアリアンナは、背中を向けた。


_______________________



 集まった兵は、お世辞にも精鋭とは言えなかったが十分に戦力になりそうだった。


「我がパルノーバを攻めようとする輩が取り囲んでいる。難攻不落と呼ばれ、国の威信を懸けたパルノーバの為に、一緒に戦おう! 許可が出次第、我々は敵を殲滅する!」


 マリオの掛け声に、兵達は一斉に歓声を上げた。


「増援の兵を見てきます。後をお願いします」


 ナダルに声を掛けたマリオは、増援の為に選ばれた兵の元に行った。主力が集まる中庭とは反対側の鍛錬場に、兵達は集まっていた。


 装備が無ければ兵には見えない老人や、若いが覇気の感じられない者、明らかに負傷して完治して無い様に見える者など、明らかに捨石には好都合の様に感じられた。


「お前達はパルノーバの為、イタストロアの未来の為の礎となるのだ!」


 台に上がったマリオが叫ぶが、兵達は無反応だった。


「返事はどうした! それでもイタストロアの兵かっ!」


 更にマリオは叫ぶが、俯きはしても兵から言葉は出なかった。マリオは、一番前の老兵に歩み寄り、語尾を強める。


「戦いが怖いのか?!」


「ワシら、戦った事などないのです。辺境で、ずっと国境を睨んで来ただけです」


「戦いの訓練さえ、した事はありません」


 横の男も目を背けながら言った。


「言い訳はいいっ! 兵である以上、戦うのは当然だ!」


 更に怒鳴るマリオに向かい、男は首を項垂れた。


「戦いって……どうすればいいんですか? 剣だって、抜いた事は無いんです」


 あまりの言葉にマリオは絶句した。戦力がどうのと言ってる場合じゃない、次元が違うのだ……増援など、絶対に無理だと感じられた。そこにナダルが現れ、マリオに代わる様に言うと背筋を伸ばして告げた。


「隊列を組み、私に続くだけでいい。それ以上は望まない!」


 ナダルが叫ぶと、兵達は覇気が無いながらも頷いた。


「私が先導します。マリオ様は主力を率いる事だけに集中して下さい」


「分かりました」


 マリオは痛感した。使えない兵達でも、たった一人真面な指揮官がいれば戦力になるのだと。


「どうだ? 捨石達の様子は?」


 そこにロメオが現れ、兵達背筋を伸ばし一斉に頭を下げた。自分が来た時とはあまりにも違う雰囲気に、マリオは顔を強張らせた。ロメオは兵達に聞こえる様に”捨石”と言うが、兵達はその言葉に反応はしなかった。


「ロメオ様、捨石と言うのは……」


 声を潜めるマリオに対し、ロメオは大きな声で言い返す。


「お前の策では捨石ではないか? 違うのか?」


「それは……」


 言い返せないロメオを見据えたロメオは、更に言葉を続けた。


「人を物として扱う指揮官や国に未来や繁栄は無い……人がいてこその国なのだ。この者達も命を惜しんでいる訳ではない。国を守る立派な兵なのだ……正しく導くのが、指揮官と呼ばれる者の使命なのだ」


「お言葉ですが、この者達をどう使えばいいのですか?」


 マリオは言い返す。自分の全てが否定されてる様で、怒りが込み上げた。


「この者達は砦を守る事には長けている。兵は適材適所なのだよ」


 諭す様なロメオの言葉が、更にマリオを熱くさせた。


「戦った事の無い者が、どうやって砦を守るのですか?」


「あれを見よ……」


 ロメオが指差す先には、弓を構えたり、塀の上から石を持つ兵達が見えた。


「あれは……」


「砦に向かって来る敵に、弓を射たり石を落として防御する。よじ登って来る敵は、槍で突く……それが、彼らの出来る戦いだ……白兵戦などは、専門外なのだよ。そして、侵入した敵と戦うのが私達の役目なのだ」


 確かにロメオの言う事には一理あるが、食料にも限界があり受け身の攻城戦など無理に思えた。


「ですが、食料も底を尽きかけています……囲まれてる現状では、打って出るしか……」


「ならば、誘い込めばよい……敵の目的は、パルノーバを落とす事なのだからな。必ず誘いに乗る」


 落ち着いたロメオの言葉が、マリオの思考を激しく刺激した。


「誘い込む……」


 呟いたマリオは振り返って兵達の顔を見るが、その顔はさっきまでと違い”生気”が満ちていた。



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