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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 8

「下がってっ!」


 声に反応したビアンカは咄嗟に下がった。その速さはビアンカの予想より速く、あっと言う間にリズの剣が彼方に遠のく。呼応したリズは更に剣を突き出すが、また声がビアンカを動かした。


「右に飛んで!」


 右に飛ぶと、リズが剣を突き出すのが真横に見える。自分の動きに実感が湧かないが、ビアンカは冷静に声に従った。


「そのまま突いて!」


 言われるがまま、ビアンカは剣を突いた。


「ビアンカ!」


 目の当たりしたリズは、ビアンカの剣の速さに思わず叫ぶ。その速さはリズと競っていた時と同等だった。それはつい最近のビアンカの速さ程ではなかったが、十分にリズを喜ばせた。


 声は次々に指示を出し、ビアンカは耳の奥で聞こえる声に従い体を動かし続けた。瞬間に確認すると確かに声の主は十四郎だったが、ビアンカの脳内ではシナプスが一瞬繋がり映像が網膜に映し出された。


 同時に聞いた事のある懐かしい気がする声が、鼓膜に再生された。


『ビアンカ……そうだ、その動きだ。速く動こうとしなくても、お前は速いんだよ』


「……お父様……」


 呟くビアンカだったが、網膜に映る人物の顔は霞んでいた。だが、視覚のもっと先の部分では、幼い頃の自分が輪郭を薄めて映し出される。


 それは剣を持って、父親に剣を教えてもらってる場面だった。剣は重く手が痛い……父の剣を受けると激しい金属音が耳に刺さる、金属がぶつかる臭いが鼻腔に触り、風が長い髪をなびかせた……。


「一旦下がって!」


 十四郎の声がビアンカを引き戻した。素早く下がると、全ての映像は消え目前にリズが大写しにされる。その顔は今にも泣きそうで、持っていた剣を地面に落とすとゆっくりビアンカに近付く。


 そのままビアンカを抱き締めると、大粒の涙を流した。


「どうして泣くの?」


「だって、ビアンカが……」


 声にならない声で、リズは泣き続けた。


_____________________



「なんて的確な指示……相手も含めた次の動きが分かってるみたいだな」


 何時の間にか隣に立つアリアンナは、十四郎の方を見ないで言った。


「動きは流れ……流れは読めます……数限りなく繰り返した鍛錬は、例え頭が忘れても体が覚えてます。あまりにも突然忘れてしまったので、身体とココロが離れてしまったのです。切っ掛けさえあれば、また繋がります」


「アタシら凡人には、理解出来ないな」


 薄笑みを浮かべたアリアンナは、抱き合う二人を見た。


「ビアンカ殿は努力を続けてきました……その努力は裏切りませんよ」


 十四郎も微笑み返すが、アリアンナは真剣な目で言う。


「もう大丈夫なのか?」


「分かりません……後は、ビアンカ殿次第ですね」


 十四郎もまた、抱き合う二人を見詰めながら呟いた。


_____________________



「マリオ殿、準備は整いました」


 ナダルが報告するが、マリオは曖昧に頷くだけだった。


「そうですか……」


「時間が経てば疲弊するだけです。今出ないと、出れなくなります」


「許可が出ないんですよ……ロメオ様は何を考えてるのか、私には分かりません」


 椅子に深く腰掛けたマリオは、俯いたまま呟いた。


「私は、その……喜んでいるのです。このまま、砦と共に朽ち果てて行くのかと思っていました。砦に赴任した時は最強の兵士が集めれ、ささに国家を代表する場所だと誇りと自負に希望を膨らませてました……ですが、時間の経過と共に、あまりにも強大過ぎる砦は敵の侵攻の対象でなくなり、ただの飾りに成り果てました……有能な兵は次々に本国に呼び戻され、代わりに人数合わせの老兵が送られて来ました……経験豊富、歴戦の老兵ではないのです……辺境の国境地帯や、要所以外の平凡な地で、ただ時間を浪費して老兵となっただけの兵です……砦の士気は没落……覇気の無い、ただ過ごすだけの無意味な時間……これは、チャンスなのです。本国にもう一度、パルノーバの重要性を思い起こさせ、再生する……千載一遇の機会なのです」


 興奮気味にナダルは一気に喋る。息を弾ませ、目を見開きながら。マリオもまた、その話で沈んでいたココロが浮上した。自分でもこの場所が、ただの辺境だと思ってなかった。権力に抗った、自分への懲罰……逆らえない懲役だと確かに思っていた。


 だが、今回の侵攻は大逆転の機会なのだ。


「先行する兵とは別に、増援の兵の選考をお願いします。比較的若く、足腰の丈夫な者より選んで下さい」


「分かりました。直ぐに……マリオ殿……」


「はっ、何か?」


 ナダルは直ぐに返事するが、語尾に含みを持たせた。


「ロメオ様には、お考えがあるはずです」


「分かってますよ」


 笑顔を向けるマリオのココロは、既に戦いのビジョンに染まっていた。


_______________________



「師匠、お話が……」


 ビアンカ達の騒動を見ていたマルコスに、ココが耳打ちした。直ぐに察したマルコスは場所を変えるとココに真剣な目を向けた。


「あまり、良い知らせじゃない様だな」


「砦の指揮官はロメオです」


「そうか……」


 聞いた事があった。孤高の知将……イタストロア随一と呼ばれた頭脳だったが、優しさ故にその地位と名誉を剥奪された男。


「どうしますか? 十四郎様にも伝えますか?」


「止めておけ」


 ココの進言をマルコスが制した。


「しかし、敵を知るのも……」


「知っても仕方ないさ……それに、あいつには出来るだけ負担を減らしてやりたい」


 ココの言葉を遮り、俯き加減のマルコスは囁くように呟いた。



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