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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 6

 砦に戻ると、マリオはロメオの部屋に直行した。


「で、どうだった?」


 椅子に深く掛けたロメオは、真剣な眼差しを向けた。


「はっ、敵は魔法使いです」


「魔法使い? あの、モネコストロの魔法使いか?」


「はい。ですが、我が砦を攻める理由は定かではありません」


 マリオは不安げな表情で言った。


「モネコストロとは交戦中だが、国境から遠く離れたパルノーバを攻撃して何の意味がある……」


 ロメオは独り言の様に呟いた。


「この場所はあまりにも遠い……イタストロアの横断か、海賊の横行する海路を通ってまで攻めてくる理由とは……」


 改めて思考を巡らせるマリオだったが、デメリットは思い付いてもメリットなど思い浮かばなかった。


「補給と支援を期待出来ない敵の領内で、兵站はどうする? ここまで移動するだけでも大量の物資を必要としたはずだ……やはり、少なく見積もっても数百の兵……」


 片肘を付いたロメオは、大きく息を吐いた。


「ロメオ様は敵は数百だとお考えですか?」


「ああ、敵が魔法使いならな。モネコストロから数千の兵で移動するなど、現在の状況では現実には不可能だ」


 マリオの問いにロメオは少し笑いながら答え、期待を込めたマリオが聞いた。


「ならば、敵の目的は?」


「分かってる事は、敵が我がパルノーバを落としたいと言う事だけだ」


「魔法使いは、我々に砦を明け渡せと……」


 ロメオの返答を受け、マリオは十四郎の言葉を思い出した。


「明け渡せ……か……で、魔法使いはどうだった?」


 また少し笑いながら、改めてロメオは聞いた。


「……はい。噂通りの強さ……ですが……」


「ほう、他にも何かあるのか?」


「強さ以外にも、魔法使いには感じた事があります。それは、簡単に言うなら優しさ、と言うか……その、慈悲みたいなものを……」


 マリオは十四郎との戦いを思い出しながら呟いた。


「まるで……”神”だな」


 笑顔が消えたロメオは小さく呟いた。その言葉は、マリオの胸を閊えを取り去ると同時に畏怖の念を抱かせた。


__________________________



「お帰り……」


 地面に座ったマルコスは、意地悪そうに十四郎を見上げた。ビアンカ達も歩み寄るが、マルコスの怒りにも似た様子に足を止め遠巻きに様子を窺った。


「すみません。ちょっと様子を見に……」


 頭を下げる十四郎に、立ち上がったマルコスは溜息を向けた。


「何を見て来た?」


「今までに無い”気”を感じました。とても不思議な感じがして……」


「不思議だと?」


 マルコスの顔色が変わる。


「はい。物凄く強いんですが、その、何と言うか……悪意が無いと言うか、健全と言うか……」


 首を傾げながら話す十四郎の様子に、マルコスの嫌な予感は崩された。マルコスの中ではアインスの様な邪悪なタイプが浮かんでいたが、十四郎の言葉に救われた気がした。


「味方なら心強いが、敵なら厄介だな……まるで、お前だよ」


 安堵の言葉が口に出るが、脅威がマルコスに覆い被さった。


「私? そうなんですか?……」


 ピンとこないのか、十四郎は苦笑いした。


「どれ位強い?」


「そうですね、剣の速さなら私より速いかもしれません」


 急に真剣になるマルコスに向かい、十四郎は何時もみたいに平然と言った。


「で、戦ったら勝てるのか?」


「勝つに決まってる!」


「十四郎様が負ける訳がない!」


 話に割り込んで来たリルが叫び、ノインツェーンも興奮気味に言葉を被せた。


「そんなに強かったんですか?」


 今度はリズが小声で聞くが、十四郎は穏やかに微笑んだ。


「はい。強かったです」


 十四郎の言葉に嘘など無い。リズは冷たくなる胸をそっと押さえるが、ビアンカは言葉が出ずに立ち尽くしていた。


「ビアンカ様……」


 ツヴァイに背中を押されたビアンカは、消えそうな声で言った。


「……負けないよね、十四郎……」


「……がんばります」


 苦笑いの十四郎が呟くように答えるが、マルコスはそんな十四郎を懇願する様に見た。


「……すまない……お前ばかりに頼って……だがな……俺達には、お前に頼るしかないんだ……モネコストロの民の為に……」


「肝に銘じます……必ず勝つと」


 十四郎はマルコスを真っ直ぐに見詰める。その瞬間、マルコスの身体を電気が駆け抜けた……それは言うまでもなく、希望の衝撃だった。


___________________



 報告を終え部屋を出たマリオに、ナダルが駆け寄った。


「マリオ殿、ジャンカルロが姿を消しました」


「まさか……」


 直ぐにマリオは閃き、食料庫に走った。そして、積み上げられた穀物袋の異常に気付く。積まれた袋は下の方程、重みで潰れるはずが全て均一な形をしていた。駆け寄ったマリオが袋を持ち上げると、大きさと反比例する軽さだった。


「ジャンカルロ!」


 叫んだマリオが袋を引き裂くと、その中身には綿や枯葉が詰められていた。ナダルも一緒に直ぐに他の袋も確認するが、どの袋にも穀物は入ってなかった。


 直ぐに応援を呼び、全ての食料を確認したマリオは愕然とした。


「マリオ殿、倹約をしたとしても……持って二週間です」


 ナダルの報告はマリオに後悔をもたらせる。何故、あの時もっと追求しなかったのか……だが、ジャンカルロの言葉が鮮明に脳裏に蘇った。


”ここでは試す機会はありませんね”……。


「機会はある……」


 呟いたマリオはロメオへの報告に向かう。呟いたマリオの顔を見たナダルは、その表情を見て口元を綻ばせた。


「相手にとって、不足無しか……」


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