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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 5

「警備隊長が一騎打ちなど! 止めさせないのですかっ!」


 ナダルの部下が叫ぶと、ナダルは腕で制した。


「あの男……噂に聞く魔法使いなら、確かめるのは当然だ」


 ナダルは十四郎の容姿に迷っていた。大柄で筋肉質のマリオとは違い、華奢で小柄な十四郎には噂で聞いた強さなどが微塵も感じられなかったからだ。


 マリオは十四郎の構えに違和感を持った。初めて見る正眼の構えに隙は無く、どこから攻めても直ぐに対応出来そうな柔軟な構え。そして、左脚を引いた柔らかな下半身が示すのは、まさしくスピードだった。


 相手の技量が分からなくても、先制攻撃で様子を見るなどと言う格下相手の戦法など出来るはずもなく、マリオは握った剣に汗を滴らせた。


 だが十四郎は、そんな困惑するマリオには関係なく先に動く。その摺り足は瞬間移動の様にマリオの目前に迫り、咄嗟に後ろに引くが、引くスピードより速く十四郎が更に迫る。


 マリオは下がりながらも研ぎ澄まされた反射神経で、剣を横に薙ぎ払っていたので十四郎の刀の直撃を受けずに済んだ。だが、千分の一秒の世界でマリオは背筋を凍らせていた。


 マリオの横薙ぎを、横方向に飛んで躱した十四郎は一旦間を空け構え直した。


「人の速さじゃないな……だが……」


 口元を綻ばせたマリオは、剣を握り直す。マリオ自身、剣の速さなら負けない自負があり、驚いたのは今までの自分の相手は、こんな剣の速さと対峙していたのかと驚いたのだ。


 つまり、自分並の高速剣を受けて初めて自分の剣の速さを客観的に実感したのだった。


 今度はマリオが十四郎に迫る。その速さは十四郎でも受け流すだけで精一杯で、初太刀を受け流した瞬間、マリオは超速ターンで横に払う。十四郎は受ける刀身が間に合わず、柄で横薙ぎを受けた。


「これを受けるかっ!」


 叫ぶマリオは笑っていたが、超速ターンの横薙ぎを受けられたのは初めてで、顔での笑いとは違いココロの中では驚愕していた。見守るナダル達はその速さに目が追い付かなかった。


「速すぎて見えない……」


「まるで、見えない剣を振ってる様だ……」


 反対側では興奮するシルフィーと、唖然とするローボがいた。


「見えないよローボ!」


「残像として残るなんて、どう言う速さだ……人ではないな、まるで獣の速さだ」


「十四郎に負けない速さなんて……でも、何だか嫌な感じがする」


「そうだな、これ程の人間がいるなんてな……速さだけなら、十四郎を上回る……が……」


 シルフィーは動物の勘で、この戦いの顛末を予感していた。ローボもまた、二人が本気で戦えば引き分けなど存在しないだろうと言う、嫌な予感に包まれていた。


「そんな事ないよ! 十四郎がの方が……」


 否定はするが、シルフィーにも分かっていた。それは今までにない、十四郎の戦い方に現れていた。決して深追いせず”間”を取る事に重きを置いている様に見受けられたからだった。


______________________



『流石は魔法使いと呼ばれる事はある……スピードは私に近い……』


 マリオは心の中でも嬉しそうに呟く。だが、十四郎は一切表情には出さず、普段と同じ様に刀を構えていた。


「あれだけの速さを見せられても、普段通りか……自信なのか? それとも……」


 ローボは十四郎の心情を探ろうとするが、変わらない表情に首を捻った。


 それはマリオも感じていた。確かに今まで出会った事の無い速さだったが、感情を示さない表情も初めて接する事だった。


 それだけではない。剣が交わると同時に感じる、反撃の予感……それは、如何にマリオでも対応しきれないと直感的に思った。


 意識しなくても顔に出る。その困惑する表情は、歴戦のナダルには分かった。マリオに唯一足りないモノ……それはまさしく”実戦”であり、今までのマリオが戦った”試合”とは一線を画していた。


 命の懸けた戦いは、時として”力”以上の”力”が出る。それは”生”に対する執着であり、追い詰められた人間の真の力なのかもしれない。多くの実戦を生き延び、命の遣り取りを経験

してきたナダルには痛い程分かった……十四郎とマリオの差が。


「一旦、引いて下さい!」


 躊躇なくナダルは叫ぶ。


「どうしてですか? 押してはいないものの、決して押されてはいません!」


 部下にはマリオの戦いが互角以上に見え、ナダルの叫びに納得がいかなかった。


「引け、十四郎!」


 ローボも叫んだ。勿論、ローボが恐れるのは……。


「十四郎! もういいよ!」


 シルフィーも叫ぶ、ローボとは少し違い十四郎を心配する叫びだった。振り向いた十四郎は、頷くと刀を仕舞った。だが、剣を構えた微動だにしないマリオに、ナダルは更に大声で叫ぶ。


「見るのが目的です! 警備隊長の義務を忘れないで下さい!」


「そう、でしたね……」


 剣を仕舞ったマリオは、強い視線で十四郎を見据えた。


「先程、お願いした件なのですが……」


「イタストロアの騎士の誇りに懸け、お断りします。本気の実力を持って挑んで下さい、こちらも全力で砦を死守します」


 言葉を掛ける十四郎に向かい、マリオは凛とした口調で言うとその場を後にした。


「お前……どう戦う? 中途半端の通用する相手じゃないぞ」


「そうですね……経験不足とは言え、あの腕……末恐ろしいですね」


 ローボの問いに、何時になく真剣な顔の十四郎が呟く。


「そうか、分かったか……」


 安堵の溜息を吐いたローボは、改めて十四郎の眼力に感嘆した。少し剣を合わせただけで、相手の力量を見抜いた十四郎……だが、今までに無いマリオの実力を見たローボは、今度こそ十四郎の真の力を見れるかもしれないと、口元を綻ばせた。


___________________



「十四郎の姿が見えないけど……」


「それは……」


 ビアンカは十四郎の姿が見えない事に首を傾げるが、ツヴァイは言葉を濁した。


「嘘が下手ですね」


「そっ、そんな事は……」


 ビアンカに見詰められたツヴァイは思わず目を逸らす。宝石の様に美しく、一片の曇りも無い長い睫のビアンカの瞳は胸の核心を突く。ツヴァイはその神秘的な瞳の前では、胸の中を全て見透かされている様に感じた。


「大丈夫です。今の私では十四郎の足手まといにしかなりません……追いかけたり、しません」


 自分で言ってて、ビアンカは赤面した。その様子がまた、ツヴァイの胸を内側から突いた。


「あの……十四郎様は、その、少し異変を感じられまして……その、様子を見に行かれました」


「ツヴァイさんは、行かなくていいんですか?」


「自分はビアンカ様をお守りするのが使命。十四郎様より、言い付けられています」


 首を振ったツヴァイは、背筋を伸ばした。


「十四郎が?」


 驚く顔で首を傾げるビアンカの仕草は、またツヴァイの胸に深く刺さった。だが、ツヴァイは振り切る様に言葉を続ける。


「はい。十四郎様は、ココロよりビアンカ様の事を心配しておられます……誰よりも」


 最後の言葉が、ビアンカの胸を打ち抜いた。頭の中で何度も、その言葉がリフレインした……”誰よりも”と、いう言葉が。



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