パルノーバ攻城戦 4
「聞いていいか?」
「何です?」
前を行くローボは振り返らずに聞いた。
「確かに悪い”気”でないみたいだ……で、どうするんだ?」
「まあ、出たとこ勝負ですね」
平然と言う十四郎に、ローボは苦笑いした。多分、十四郎はそう答えるだろうと思っていた事を、そのまま言ったから。
「ふっ、お前らしいな」
「悪くなくても、敵でしょ?」
シルフィーは唖然と聞くが、十四郎はその首筋を撫ぜた。
「そうですね。でも、敵ですが話が分かる人かもしれませんよ」
「そうなら、いいけど……」
心配しているシルフィーの気持ちが、十四郎に流れ込む。十四郎はもう一度、シルフィーの首筋を優しく撫ぜた。それだけで、シルフィーの乱れるココロは穏やかに変わる……大きな安心感は、十四郎の手の暖かさと比例していた。
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「マリオ殿、警備隊長が偵察など……」
砦を出ると、副長のナダルが首を傾げた。
「そうですね……でも、敵の正体を見たいと思いませんか?」
マリオは先任で年上のナダルに敬意を表していた。ナダルもそんなマリオの態度に好感を持ち、真摯に従っていた。
「確かにそうですが……」
苦笑いのナダルは、言葉を濁した。
「すみません。我がままを言って」
マリオは素直に謝り、ナダルはその態度に小さく頷いた。
「隊長がお望みなら、我々は従うのみです」
「ありがとうございます」
マリオは、まだ見ぬ敵に戦意を燃やす。パルノーバに来てから、落ち込み気味の精神は今最高潮に達しようとしていた。
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目前に現れたのは、たった一人だった。足元には銀色の狼、そして乗る馬は一目で分かる名馬……だが、その容姿は明らかに外国人だった。
「ここで待っていて下さい」
「しかし!」
「大丈夫です。様子を見るだけですから」
マリオはナダルを制し、前に出る。
「ローボ殿……」
ローボは十四郎の声に従い、その場に止まった。十四郎とマリオはゆっくりと近付き、馬を並べた。
「良い馬ですね」
マリオは近くで見たシルフィーに目を細めた。
「ありがとうございます。シルフィー殿です。賢くて速くて、とても優しい馬なんです」
少し照れた様に十四郎は頭を掻き、まるで人の様にシルフィーを紹介した。マリオにはその様子に想像してた”敵”としてのイメージが大きく崩れた。
「神速のシルフィーですか?」
「はい」
驚くマリオに、十四郎は笑顔で答えた。
「十四郎! 私の名前を言ったら、どこの国か分かっちゃうよ!」
シルフィーは思わず叫ぶ。話の内容は分からなくても、自分の名前を呼ばれてハッとした。
「あっ……」
「もう、十四郎ったら」
「すみません、つい……」
赤くなってシルフィーに頭を下げる様子は、マリオにとって衝撃だった。
「まさか……馬の言葉が分かるのですか?」
「あっ、はい」
普通に返事する十四郎だったが、マリオは十四郎の瞳の色にも気付いた。
「もしや、魔法使い殿ですか?」
「本当は違うんですが、何故かそう呼ばれています」
十四郎の言葉に嘘は感じられず、マリオは首を捻った。
「あなたが指揮官ですか?」
「指揮官と言う程ではないんですけど……」
十四郎は照れた様に言うが、マリオは真剣な視線を送る。
「何故、我がパルノーバを取り囲むのです?」
「それが、分け合って落とさなければならなくなりました。無理なお願いだと思いますが、砦を明け渡して頂けませんか?」
十四郎は真剣に話すが、当然マリオは一笑に伏した。
「これはまた……パルノーバは難攻不落と呼ばれた要塞ですよ。とても、正気だとは思えませんね……それより、魔法使い殿……お手合わせをお願いしたいのですが」
「どうしてもですか?」
「はい。どうしても」
困惑する十四郎を見据えながら、マリオは馬を降り剣を抜いた。