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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 3

 一週間が経過した。パルノーバに大きな動きは無く、十四郎達も夜のかがり火を続けるだけだった。


「動かないな」


「まぁ、妥当ですね」


 深刻な顔をするマルコスだったが、十四郎は平然と言った。


「焦る事はない。相手が動かないって事は、こちらの戦力を把握してないって事だ。知ってたら、とっくに捻り潰されるてるさ」


 アリアンナも他人事みたいに笑った。


「まだ、始まったばかりですよ。敵の食料が無くなってからが勝負です」


「それはそうだが……戦ってる実感が湧かなくてな」


 十四郎も笑顔を向けるが、マルコスは溜息を付く。マルコスだけではない、フォトナー達やアリアンナの部下達も同じ様に困惑していた。


「皆さん、食事の用意が出来ましたよ」


 そこにダニーが笑顔でやって来る。ダニー達は食事の用意や、松明の補給など精力的に動き回っていた。


「さあ、食事を済ませたら出発よ」


 動きの鈍い人々を余所に、元気いっぱいのラナは呆れるランスローに言い放った。


「ラナ様……入浴もされずに……もう、一週間ですよ」


「……私、臭いますか?」


 心配顔のランスローだったが、ラナは自分を臭う仕草をして笑顔を見せた。ラナにとって長期間の野宿や戦闘行為? はドキドキやワクワクの対象でしかなく、自分も皆と同じに戦ってると言う行動が嬉しくて仕方ない様だった。


「ビアンカ、私達も食事をしましょう」


「うん」


 リズに促され、ビアンカも食事の輪に入る。十四郎の隣に座るアリアンナに目を遣り、食欲旺盛なラナを横目で見て、ビアンカは胸の奥がモヤモヤした。


「ちょっと待ってて」


 リズは立ち上がると十四郎の元に行き、十四郎を連れて来た。


「ビアンカ殿、大丈夫ですか?」


「あっ、はい……」


 十四郎はビアンカの隣に座り、食事を始める。胸が高鳴り、食事は喉を通らなかったが、ビアンカの精神は穏やかな落ち着きを取り戻した。リズはアリアンナやノインツェーンを遠ざける為に奔走し、横目でビアンカを見て微笑んだ。


「仕方ない、ビアンカに譲る」


 リルもリズに協力してノインツェーンを押さえる。


「何で? 私も十四郎様の横がいい」


 当然の様にノインツェーンは十四郎の横に行こうとするが、リルは真っ直ぐな瞳でノインツェーンを見た。


「お前はアタシの横だ」


「嫌よ、アンタの横なんて!」


 大声で否定するノインツェーンだったが、リルは視線を逸らしながら言った。


「トモダチだろ?」


「えっ、あっ……うん」


 リルの言葉にノインツェーンは赤面して、大人しく横に座った。そんな様子を見ていたマルコスは、肩の力が抜けて思わず笑みを零した。


____________________



「敵は動きませんね」


「優位はこちらにある。焦る必要はない」


 窓から周囲を見ながらマリオは呟くが、ロメオは椅子に片肘を付いたまま落ち着いた声で言った。


「確かにそうですが、斥候を出しても直ぐに捕まり解放される……同じ事の繰り返しです。伝書鳩は戻ってこないですし……我々は孤立しています……もしかして、敵は増援を待っているのでは?」


「それなら、初めに姿を晒す必要はない……戦力が整うまで待ち、一気に攻めるのが妥当だ。だが、敵はそうしない……何を企んでいる……」


 マリオの懸念を聞いたロメオは、少し嬉しそうに言った。


「私に偵察の許可をお願いします」


 そんなロメオの様子を見たマリオは、背筋を伸ばして具申した。


「どうした? 我慢出来ないのか?」


「それもありますが、敵の指揮官を見てみたいのです」


 ロメオの問いに頷くマリオだったが、ニヤリと笑って遥か彼方を見た。


「そうか……で、話は変わるが何故ここに来た?」


「武闘大会で、ある貴族から負ける様にと言われました。地位と相応の謝礼を打診されました……武闘大会の優勝に興味などなかった私は、負けてやってもよかった……ですが、相手の貴族の子息はそんな事をしなくても、十分強かった。私は強い相手と思う存分戦いたかったのです……」


 ロメオは突然話を変えるとマリオを見据え、マリオは大きく息を吐くと正直に話した。


「それで?」


「決勝で、私はその男を倒しました……今思えば、負けてやっても良かったと……私が、本気になる程の強さではなかったですから……まぁ、それで貴族連中の怒りを買い、ここにいます」


「そうか、同じだな」


「と、仰いますと?」


 マリオの話を聞いたロメオは、苦笑いした。


「私も貴族に頼まれ、その子弟を指揮官に取り立てる様に言われた。だがな、無能な指揮官がいると一番困るのはその部下だ。私は、無駄にはしたくないのだ……部下の命を」


「それで、パルノーバに……しかし、私などと違って歴戦の勇士であるロメオ様までこんな場所に送るなんて、この国は腐ってる!」


 怒りを露わに吐き捨てるマリオを見て、ロメオは静かに言った。


「どこの国でも同じだ。権力を握る者が、必ずしも賢者とは限らない。むしろ、臆病者の愚者が権力握っている……抗うのにも疲れたが、やっと機会が訪れた」


「そうですね、敵は只者ではない」


 ロメオの最後の言葉に、マリオも同意した。


「さて、偵察に行ってもらうとするか」


「はい」


 立ち上がったマリオの目は、輝きを増していた。


_________________________



「十四郎……」


 食事が終わると、ローボが十四郎の元にやった来た。


「だめですよ、捉えた伝書鳩を食べちゃ」


「仕方ない、鷲や梟には良い食料だからな」


 苦笑いのローボが鼻を鳴らすが、直ぐに真剣な目を向けた。


「今までにない”気”だ……ついさっき、砦から出た」


「そうですか。それは、斥候ではないようですね」


 十四郎は平然と言うが、気付いてる様子が見えた。


「お前、気付いてたのか?」


「はい、なんとなくですが」


「そうか……で、感想は?」


「悪い”気”ではないと思いますが、とてつもなく”強い”気です。多分、剣の腕は相当かと……ローボ殿、それで、私が分かるのは何となくで……」


「分かった。案内する」


 頷いたローボに十四郎は微笑むが、少し待って欲しいと言い残しツヴァイの元に行った。


「ツヴァイ殿、偵察に行って来ますので、後をお願いします」


「十四郎様、偵察なら我々が……」


 ツヴァイは直ぐに懇願するが、十四郎は笑顔で制した。


「それが、先方は私に用があるみたいで……」


 十四郎の言葉はツヴァイに衝撃だった。今までに多く、人知を超えた行動を見せて来た十四郎だったが、更に落ち着いた様子はツヴァイを今更ながら驚かす。


「分かるのですか?」


「はい」


 頷く十四郎の笑顔にツヴァイも思わず笑顔になった。


「ツヴァイ殿……」


「分かっています。ビアンカ様はお任せ下さい」


 十四郎が言う前に、ツヴァイが小さく呟いた。一礼した十四郎は背中を向け、その背中をツヴァイは見送った。何故か一欠けらの心配も無かったが、何時もより大きく見えるその背中にツヴァイは深々と礼をした。


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