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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 2

 夜明けの太陽は、ラナの背中を背中を暖かく照らす。バンスの心配顔も、ランスローの呆れ顔も関係なく、ラナは興奮していた。


「バンス! 次はどこですっ!」


「夜明けです、もう終わりですよ」


 汗を拭きながらバンスが微笑むと、ラナは物足りなさそうに松明を弄んだ。


「ただ、火を点けるだけ……こんなのが戦いとは」


 松明を踏んで消したランスローは、吐き捨てる様に呟いた。


「私にとっては初めての戦いです……皇女のままでは決して体験出来ない……ですから、必死で戦っています」


「すみません」


 ラナは言い返すが、その口調は以前の様に高圧的ではなく、ランスローも直ぐに謝る。


「私も興奮してました……十四郎に戦力として認められた事が嬉しくて……ごめんなさい」


「ラナ様……」


 ランスローは目を見開く、ラナが素直に謝ったのだ。その衝撃は、ランスローに次の言葉を失わせた。


「ランスロー殿。ラナ様の事、これからもお願い致します」


 笑顔のバンスに促され、ランスローは背筋を伸ばした。


「はっ、命に代えて」


「ランスロー……命には代えなくてよい」


 振り向き微笑むラナの笑顔は、ランスローの決意を新たにさせた。


____________________



 日が登るとダニーは旗を用意する。当然、各所に配置する為の図面を用意し、各自は所定の位置に旗を立てた。その場所は夜間に松明を立てた場所だったが、離れた所からでも軍勢と視認出来る絶妙な配置だった。


「十四郎様、斥候を捉えました」


 ツヴァイが斥候を引き連れ十四郎の前に来るが、十四郎は直ぐに斥候を解放する。


「我等はパルノーバに降伏を求めます。それでは、お帰り下さい」


 驚いたのは斥候で、一瞬唖然とするが素早く周囲の状況を確認した。見渡す場所には数百人がいる様に見えた。勿論それはダニーが偽装した数で、実際は百人程だった。離れた場所では案山子を集団で配置し、その中のに人が混ざり、一人二人が動く事で錯覚させようとしていた。


 その後も、ゼクスやココ、ノインツェーンやリルも斥候を捉えて来るが、十四郎は同じ様に直ぐに解放した。


「人数を誤認してくれるかな」


「捕まえられた時点で、興奮状態にありますからね。その状態で解放されれば、判断力は鈍りますよ」


 腕組みして懸念するマルコスだったが、十四郎は平然と言った。確かに斥候にとって、捕縛は”死”と同義であり、解放など夢にも思わないだろう。当然、判断力は鈍るとマルコスも頷いた。


「もし、見破れれたら?……」


 当然、マルコスは考える。相手をしたのは皆、十四郎だし、斥候も素人ではない。


「相手が知恵者なら、好都合ですよ」


 十四郎はまた平然と言うが、マルコスには十四郎の真意が透けて見えた。裏の裏……意図を隠し、敵を欺く……マルコスは十四郎の底知れない思考に、悪寒さえした。


_______________________



「斥候が戻りました!」


「直ぐに報告を聞く」


「それが……」


 ロメオの部屋に伝令が駆け込んで来るが、伝令は言葉を濁した。


「どうした?」


 落ち着いたロメオの声は、集まっていた各指揮官達の動揺を抑えた。


「いっ、一度は捕まりましたが、直ぐに解放されました」


「そうか。通せ」


 焦る伝令に向かい落ち着き払ったロメオは、斥候を呼んだ。


「あの、何故かは分かりませんが、直ぐに解放されて……それで、その……」


 ロメオの前に出た斥候は、興奮気味で言葉を詰まらせていた。


「敵の規模は分かるか?」


「はっ、私の見た範囲では数百です」


 ロメオは一点だけを聞く、斥候は質問が絞られた事で若干の落ち着きを取り戻した。


「敵は周囲に分散してますので、総数は四千から五千と推測されます」


 ロメオの横でマリオが分析した。それを見たロメオは、ニヤリと笑った。


「斥候一人の報告では確定出来ないが、良い見立てだ」


 その後も次々と斥候が戻る。だが、同じ様に一度捕縛され解放されたのだった。そして、同じ様に敵の戦力は、一か所で数百との事だった。


「どう思う?」


「不審な点はあります。どの斥候も場所をよく覚えていない事、それに捕まってからは目隠しはされないまでも、ずっと下を向くように指示され、解放される地点まで敵兵が付いて来た事……」


 ロメオの問いに、言葉を選びながらマリオは答えた。


「お前の考えは?」


 今度は真剣な目を向けるロメオに、マリオは真っ直ぐ見詰め返す。


「本当は連れて行かれた場所の兵力だけで、他は艤装かと……斥候は皆、同じ場所を見せられた……と、言う事は敵の総数は数百でしかない」


「数百でパルノーバを落とせるか?」


「そこが問題です。兵を多く見せる意味が分かりません。本当に兵が少ないなら、パルノーバを攻撃しても落す事は出来ません……だが、明らかに多く見せようとする意図は感じます」


 ロメオの問いにマリオは私感を述べるが、ロメオは大きく頷いた。


「確かにそうだな」


「しかし……」


 今度はマリオが怪訝な顔をした。


「どうした?」


「逆に少なく見せたいのでは? 我々の油断を誘う為に……それなら、説明が付きます」


 マリオは少し悪寒を感じた。


「敵の将は油断出来ない奴だ……両方の可能性を我々に示した事になる。だが、戦いを挑んでいる事だけは間違いない」


 ロメオは座り直すと背筋を伸ばす。マリオも大きく頷くと、窓の外の見えない敵を見据えた。



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