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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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信じること、信じられること

 決行の日までの良好な経過は、全てダニーの成果だった。人の食料だけでなくローボ達の食料までも確保し、馬具の準備から偽装の用意まで全て抜かりなくこなしていた。


 特筆すべきは買い取った食料を高値で売りさばき、元本を大して損なわずにアルフィンを抵当にして借りたお金の目減りを最小限に抑えていた事だった。当然残るお金は、馬具や食料、偽装の道具を差し引いた金額だった。


「大したものだ。事が終われば、アルフィンを簡単に取り戻せるな」


「まだですよ。利子の分がありますから」


 腕組みで感心するマルコスの言葉に、ダニーは苦笑いした。


「どうせ、宛てはあるんだろ?」


「ええ、まぁ。でも、砦を落とす事が前提ですが」


 照れ笑いを浮かべるダニーの後ろから、十四郎が笑顔を見せた。


「必ず落としますよ。アルフィン殿と家に帰ります」


「数千人の正規騎士と、その半数以上の犠牲を出せばパルノーバを落とせるかもしれない……普通に考えれば、今の俺達の戦力じゃ万に一つの可能性も無い……だがな、お前を見てると出来そうな気がするよ」


 半分呆れた様な顔でマルコスは十四郎を見た。そして、実際にパルノーバを見てマルコスは砦の規模や構造以外には怖さを感じなかったから……その訳は……。


「何だ師匠? 信じてなかったのか?」


 今度はリルが無表情で呟いた。


「パルノーバだぞ! 信じる方がおかしい」


 少し顔を顰め、マルコスは吐き捨てた。


「俺は初めから信じてますよ」


 ココは苦い顔をするマルコスに微笑んだ。


「私も同じです」


「同感です。何の疑いもありません」


「当たり前でしょ。十四郎様が出来ると言ったんだ、出来るに決まってる」


 ツヴァイが頷き、ゼクスも同意し、ノインツェーンは腰に手を当て微笑んだ。


「お前ら……俺だけか? 十四郎を疑ってたのは」


 皆の顔を見回して、マルコスは呆れ声で言った。


「姫殿下。いえ、ラナ様も十四郎様を信じておられますか?」


 少し離れた所で、ランスローがラナに聞いた。


「ねぇ、ランスロー……私が戦いの場所にいて、いいの? 宿で待てと言われると思ったのに、十四郎は来て欲しいって言った……」


 夢心地の様に呟くラナは、ランスローの方を見ないで言った。


「戦わないで勝つつもりみたいですよ。ラナ様まで戦場に連れて来て、何を考えてるんだ……それに、記憶を取り戻してないビアンカ殿まで」


 怒った様な口調でランスローは呟き、リズと二人で皆の後方にいるビアンカに視線を向けた。


「何か言った? ランスロー……」


「いえ、何も……」


 ラナはまた、ランスローの事など全く気にしてない様に呟く。溜息交じりのランスローは、ゆっくりとビアンカに視線を戻した。


_______________________



「あなた、も……十四郎のこと信じてるの?」


 ビアンカは隣で微笑むリズに聞いた。


「うん、信じてる。でもね……十四郎様には、出会った時から神憑り的な強さを見せられて来たけど、それだけならこんなに信じられなかった、と思う……」


「それなら、どうして?」


「優しかったから……十四郎様……それにね、私達と同じ様に悩み、苦しみ……でもね、それでも前に進むの……十四郎様が戦う理由はね、誰かの為なの」


「誰かの?」


 遠く十四郎を見詰め、紡ぐように話すリズをビアンカは不思議そうに見詰めた。


「そう、自分以外のね……でも、参るよ……ココロを閉ざしていたリルも、敵だったノインツェーンも、姫殿下だったラナも……皆、十四郎様のことが好きなんだ。そして、今度は盗賊のアリアンナまで……」


「……」


 穏やかなリズの言葉が、ビアンカの胸に鋭く突き刺さった。


「……そして、ココロを偽っていた、あなたを解き放った」


 リズはビアンカを真っ直ぐに見詰めた。


「……私は……」


 ビアンカは咄嗟に言葉が出なかった。


「……きっと、十四郎様は本物の魔法使いなんだ」


 呟くリズの言葉はビアンカの胸の一番深い場所で、静かに……弾けた。


___________________



「ジャンカルロ殿、先日の食料搬入の件でお話が」


 食料担当のジャンカルロに、新任警備隊長のマリオが声を掛けた。


「ほう、これは武闘大会優勝者のマリオ殿、この度は御栄転おめでとうございます」


 振り返ったジャンカルロは、皮肉っぽい口調でマリオを見た。


「私が赴任して半年、今回の業者は皆初めて見る者達ばかりでした」


「業者の入れ替わりなど日常茶飯事、別に気にしなくても」


 ジャンカルロの皮肉を完全にスルーしてマリオは真剣な眼差しを向けるが、ジャンカルロは平然と言った。


「しかし、食料庫を見た所、備蓄が少ない様な気がしまして」


 訝しげな表情でマリオが詰め寄る。


「備蓄量を若干変更したのですよ」


 また、平然とジャンカルロが言う……少し、面倒そうに。


「規定では三か月と決まってるのでは?」


 マリオは当然規定を口にするが、ジャンカルロは急に視線を強めた。


「ここがどこか、お分かりか? ここはパルノーバ、難攻不落の砦ですよ。無くなれば直ぐに補給が出来る環境で備蓄など無用です。それこそ経費の無駄」


「しかし、最前線での……」


 それでもマリオは納得がいかず、更に食い下がろうとするがジャンカルロは声を荒げた。


「マリオ殿! 本当にお分かりではない様で。パルノーバは栄転などではないのですよ。ごらんなさい兵士の質を。老兵ばかりの名ばかりの精鋭、実質は閑職です。初めから敵が恐れを成し、絶対に攻め込まれない砦には正規の騎士は必要ないのです」


「それは……」


 ジャンカルロの言葉にマリオは反論出来なかった。パルノーバの兵士は老兵ばかりで、新兵は少ない、それが何を物語るのか? 戦力になる新兵は、戦いの起こるはずのない場所には無用であり、数を揃えるだけなら戦力にならない老兵で十分だと言う事だった。


「あなたも、お気の毒に。イタストロア随一と呼ばれる剣の腕も、ここでは試す機会などありませんからね」


 捨て台詞を残しジャンカルロははその場を去った。残されたマリオは、拳を握り締めて、高い見張り台を睨み付けた。



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