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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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見返り

 アジトは想像とかなり違っていた。山の麓深くの豪邸? とも言っていい位の立派な建物で、途中には幾重もの出城が周囲を取り囲み、警備は厳重だった。


 十四郎は左右から腕を掴まれ、前後にも数人の男が取り囲む様にしてアリアンナの前に引き出された。


「魔法使い殿が、何の用だ?」


「……あの、ラドロ殿ご様子は?」


 高座から見下ろすアリアンナには威厳とは少し違うが、凛とした雰囲気があった。十四郎はアリアンナの方向を見ながら、小さく聞いた。


「ほう、オヤジ殿の様子を窺いに来たのか?」


「はい。頼み事の、ついでにですが」


 アリアンナは十四郎の表情から何かを掴み取ろうとしたが、柔和な表情からは何も感じ取れなかった。それよりも、暗い部屋の照明の中でも輝く銀色の瞳に胸騒ぎに近い胸の痛みに襲われた。


「……その目、どうした?」


「不覚をとって、失明しました」


「お前が不覚? 相手は誰だ?」


 頭を掻きながら平然と言う十四郎に、アリアンナは身を乗り出した。部屋に入って来た時から、十四郎の動きから失明してる素振りなど微塵もなかったから。


「青銅騎士のアインス殿です。色々と因縁がありまして……それより、ラドロ殿のお加減は?」


 十四郎は自分の事より、ラドロの事を心配していた。その気持ちに嘘や偽りはなく、確かに真っ直ぐにアリアンナに届いた。


「オヤジ殿は隠居してる……もう、前の様に凶悪ではない……完全に牙は折れた……今は、ただの老人だ」


 そう言うアリアンナの顔は、とても穏やかだった。


「そうですか……」


 十四郎も安堵に満ちた溜息を漏らした。


「ところで、頼みとは何だ? 私の父親をあんな目に合わせ、頼み事などいい度胸だな」


 皮肉を交えたアリアンナは、薄笑みを浮かべ十四郎を見た。


「実は、訳有ってパルノーバ砦の攻略をする事になりまして……出来れば人員をお貸し頂けたらと思いまして」


 銀色の瞳を真っ直ぐにアリアンナに向けた十四郎は、はっきりと言った。


「パルノーバだと? 難攻不落の要塞だぞ……人員はどのくらい必要なんだ?」


「五百人程……」


 呆れ顔のアリアンナは頬杖を付くが、十四郎は平然と続けた。


「お前達の手勢は?」


「私を含め五十名です。それに、ローボ殿の手勢が数百」


「人が五百五十に獣が数百だと? それだけで三千の砦を落とすと言うのか? 三倍以上で攻めるセオリーでも無理だと言われる砦だぞ」


「はい」


 十四郎は微笑みを浮かべ、普通に返事した。アリアンナは一度苦笑いするが、直ぐに鋭い視線を向けた。


「見返りは何だ?」


「何もありません」


 十四郎は即答するが、アリアンナは溜息を漏らした。


「見返りも無しに、手下を五百人も差し出せだと? 正気とは思えないな」


「お借りする五百人、ただの一人も死なせはしません。それより、逆にどの様な見返りをお望みですか?」


 自信に満ちた十四郎の言葉が、アリアンナの胸に引っ掛かる。誰も死なせない? 砦の攻略がどれ程過酷で人員の損耗が激しいかなど、アリアンナは嫌と言う程分かったいたから。


「……そうだな。このアジトを掃討する為、イタストロア最強の騎士団が近くに来ている。お前が一人で撃退したなら、話に乗ってもいい」


「分かりました」


 即答する十四郎に呆れ顔のアリアンナが、大きな溜息を漏らした。


「本当に分かってるのか? ヘッドナイト率いる総勢数百だぞ」


「はい。どなたか案内をお願いします」


「まあ、いい」


 アリアンナが目配せすると、赤い仮面の三人が姿を現した。


「案内をお願いします」


 頭を下げる十四郎に、赤い仮面は無言で頷いた。


_______________________



 ダニーはパルノーバに食料を供給する村から、次々に食料を買い取った。買い取った食料は直ぐにダニーの仲間が遠くの村々に売りに行った。その手際の良さに、マルコスは感嘆の溜息を漏らした。


「なんて手際だ。流石だな」


「俺達……革命だ、王政打倒だ、なんて言っててても……所詮、商人や農民ですから……でも、戦いは剣や槍だけじゃないんです」


 噛み締める様にダニーは言った。その目には自信が満ち溢れ、顔は高揚していた。


「そうだな、適材適所……戦いは総合力だ」


 マルコスは満足そうに頷いた。


「はい。マルコスさん、今から食料調達を仕切るブルボという商人に会いに行きます。彼が全ての鍵を握っています。マルコスさんは西の外れ、トリポの商人と言う設定です。そして、大飢饉と、モネコストロとのイザコザで食料難と言う事にします。幸い、モネコストロとの紛争は国中に知れ渡ってますが、飢饉の情報はここまでは届きません」


「わ、分かったが、私は何をすればいい?」


 一気に話すダニーを前に、マルコスは声を裏返らせた。全く、見当も予想も付かず戸惑いながら。


「商人はお金で動く人種です。大商人なら、尚更です。とにかく好条件を提示し、味方に引き込みます。そして、パルノーバの食料担当とのパイプを作る手助けをしてもらいます。マルコスさんは、上手く話を合わせて下さい」


 ダニーの説明は分かったが、そんなに上手く行くのか? マルコスは首を捻るが自信に満ちたダニーの様子に仕方なく頷くしかなかったが、一応は疑問をブツけて見た。


「そんな、大商人が条件だけで味方に付くのか?」


「父の名前を出します。モネコストロで一番の仲介屋と言われた、父の……」


 遠くを見詰めるダニーの顔が、一瞬笑った様にマルコスには見えた。


_______________________



 ブルボの屋敷は豪華絢爛を絵に描いた様な豪邸だった。わざと薄汚れた格好をさせられたマルコスの脳裏には”門前払い”という言葉が木霊していた。


 だが、使用人はダニーの言葉を聞き奥に戻ると、直ぐに応接室に案内した。豪華なソファー、土足を躊躇わせる絨毯、鏡の様な輝きのテーブル。正直、王宮と同じくらいにマルコスは緊張した。


「あなたが、ボリスの息子さんですか? 面影がありますね」


 出た来たブルボは、屋敷の豪華さとは掛け離れた質素な服装だった。細面で、年齢はマルコスと同じくらいだったが、柔和な顔は全ての胸の内を隠している様にも見えた。


 ダニーはマルコスを紹介すると、単刀直入に要件を話す。”いきなりかい”と、マルコスは青くなるが、ブルボは直ぐに聞き返した。


「礼金に間違いはありませんか?」


「はい。全て即金でお支払します」


 ダニーは全く普通に返事した。


「トリポは大変な事になって、お気の毒です」


 少し神妙な顔で、ブルボはマルコスに視線を向けた。


「はい。ですが、商人にとっては好都合です。これは絶好の機会でもあります」


 我ながらいい返答だと、マルコスは思った。言葉も滑らかだし、落ち着いて受け答え出来た……だが、横目で見たダニーは苦笑いしていた。


 話はトントン拍子に決まり、二人は屋敷を出た。


「どうだった? 私の演技は」


 何故が嬉しくて、マルコスは笑顔でダニーに聞いた。


「あっ、はい……良かったです」


「何だ? どうした?」


 苦笑いのダニーは、プッと噴き出した。


「すみません……マルコスさんの設定は建前で……ブルボさんは、全てお見通しですよ。幾ら飢饉でも遠く離れた、しかも砦から食料調達なんて有り得ませんから」


 言われて見れば確かにそうだが、疑問もまた湧く。


「ならば、何故わざわざ見え透いた設定などするんだ?」


「商人には建前は必需品なんですよ……健全な、お金儲けの為に」


 笑顔を向けるダニーに、マルコスは巨大な溜息を付いた。


「金儲けに、健全ねぇ……」


「後ろめたいからこそ……ですね」


 また笑顔のダニーは、遠く星空を見詰めた。その先に、優しかった父親の声が聞こえた様な気がした……”よくやった”と。


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