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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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策略

 宿で待つリズ達は帰ってくるとは思っていたが、各自が様々な想いを巡らせていた。


「十四郎様……大丈夫かしら」


「心配ない、十四郎に勝てる奴など存在しない。例え、目が見えなくてもな」


 心配顔のリズに、無表情のリルが言い放った。


「そうです。十四郎に比類する者など、この世界には存在しません」


「十四郎様は真の魔法使いです。何もご心配はいりません」


 ツヴァイは胸を張り、ゼクスもリズに笑顔を向けた。


「リズ様、大丈夫ですよ十四郎様は……きっと笑顔で帰って来ます」


 満面の笑顔のノインツェーンが、リズに寄り添った。確かに強さに関して言えば、十四郎を心配するのは逆に難しいが、心には引っ掛かるモノが存在した。


「心配なのは、ビアンカ殿だっ!」


 急にランスローが声を上げる。何も出来ない自分と、十四郎に対する嫉妬でランスローの機嫌は最悪だった。


「よさぬか、ランスロー」


「しかし……ビアンカ殿は記憶を失っているんです」


 俯き加減で制するラナを、ランスローは懇願する様に見詰めた。別の部屋にいたラナも、何時の間にか皆と同じ部屋に来ていた。一人で待つのは辛いでしょうと、バンスに背中を押されて。


「今のビアンカは大切な友……私とて、心配だが……十四郎が付いている」


 ラナの胸中も複雑だったが、十四郎の存在は確かに希望だった。それも、小さな希望ではなく、限りなく大きな……。


「そうです、ランスロー様、ご心配には及びません。我が師匠も付いていますし、何より十四郎様がいます。それに、ビアンカ様とて最強の近衛騎士です」


 宥める様なココの言葉に、ランスローは小さく頷くしか出来なかった。


 フォトナーやダニーは会話の中には入らなかったが、固く結んだ口元は十四郎への信頼の証だった。


__________________________



 世も更けて皆に疲れの色が見える頃、ふいにドアが開き十四郎が顔を出した。一番最初にリルが飛び付き、ノインツェーンが続く。リズも行きたい所だが、ちらっと見たラナが手を握り締めてるのを見て、唇を咬んで我慢した。


 目の前で十四郎に抱き付くリルとノインツェーンを見たビアンカは、胸の片方に痛みを感じた。二人の嬉しそうな笑顔に、思わず目を逸らした。


 何時の間にか十四郎を取り囲む輪が出来て、皆の笑顔が弾けていた。輪の外には、ラナとランスローだけが取り残され、リズはノインツェーンに引っ張られ輪の中にいた。それは、リズにとって、とても気持ち良くて心が妙に穏やかになった。


「いい加減にしろっ!」


 マルコスの叫びに全員が振り向いた。その顔は悔しさに歪み、歯を食いしばっていた。マルコスは思っていた……一瞬でも喜んではいけない、一瞬でも気を抜いてはいけないと。


 それは目指す使命の為、国や民の為に。


「マルコス殿、お願いがあります」


 分から出た十四郎が、マルコスに詰め寄って真っ直ぐ目を見た。その瞳は銀色に輝き、マルコスを不思議な感覚で包む。


「どうした?」


「早速ですが、パルノーバの攻略についてですが」


「策があるのか?!」


 マルコスが乗り出し、その場の全員が十四郎に注目した。


「あっ、はい。それで、この部屋では手狭ですので全員が集まれる場所が……」


 照れた様に頭を掻いた十四郎が、穏やかに微笑んだ。


「それなら、街外れの空き地に」


 ココの進言で、全員がそこに移動する事にした。マルコスは胸のドキドキが止まらず、ずっと十四郎の顔ばかり見ていた。ビアンカも唖然とはしたが、普通に微笑む十四郎を見ながら頭の片隅が勝手に考えたいた……”何故”と。


_______________________



 焚火を囲み、全員が座っていた。下弦の柔らかな月明かりは、星たちの脇役となり周囲を仄かに照らしていた。


 だが、集まってはみたものの皆の胸中は複雑だった。あまりのも目の前の壁が大きく、考える前から諦めに包み込まれていたからだった。


「この人数で、どう戦うのですか?」


 口火を切ったのはフォトナーだった。正規の騎士であるフォトナーは、他の者よりも絶望的状況を理解し、希望的観測に襲われていた。希望的観測は人が絶望の最中に置いて、そうなって欲しいと願わずにはいられない、圧倒的な悲観的予測しか出来ない場合の逃げ道なのだ。


唯一希望は勿論十四郎だが、数々の”魔法”を見せられても未だに疑心は存在していた。


 何より難攻不落と呼ばれる有名な要塞に挑むなど、普通では考えられない最悪の愚行だと知り尽くしていたからだ。大軍勢でも愚行と呼ばれるのに、たった五十人で挑むなど愚行さえ通り越していると感じていた。


「戦いませんよ」


「何ですって?」


 十四郎の言葉は衝撃を越え、直ぐにマルコスも大声を上げる。


「どう言う事だ!」


「落ち着いて下さい!」


 直ぐにツヴァイやゼクスが止めに入るが、暴れるマルコスは更に十四郎に詰め寄った。


「訳を言え! 納得出来る訳を言え!」


「兵糧攻めをします」


「ヒョウロウゼメ? 敵の食料を断つ戦術か?」


 ツヴァイとゼクスを振り解いたマルコスが、十四郎を睨んだ。


「しかし、それは大軍勢で囲んでこそ、出来る戦術です」


 フォトナーは、少し声を落とした。


「少人数でやるには、かなり策略が必要ですね」


 十四郎は何故が微笑みながら、マルコス達を見た。


「策略?」


 どんな策略があると言うのだ? マルコスは瞬時に考えを巡らせるが、そんなものは到底浮かばなかった。


「お聞きしようではありませんか」


 バンスが微笑みながら言うと、全員がその場に座り直し、十四郎に視線を向けた。少し照れた様に微笑んだ十四郎は、ゆっくりと説明に入った。


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