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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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難題

 王都マドーリは目を見張る賑わいだった。人の多さと建物の立派さは、感嘆に値し十四郎を始め殆どが目を丸くした。ツヴァイ達はアルマンニの王都を知っていたので驚きは少なかったが、エスペリアムは陽気で明るい国民性で、質実剛健なアルマンニとの雰囲気の違いには戸惑っていた。


「宿を取って待て」


 真剣な顔でそう言い残し、マルコスは一人で王宮に向かった。宿に入ると、誰とは無しに十四郎の部屋に集まって来た。ラナとビアンカ、バンスを除いて。


「これから、どうなるのかしら」


 心配顔のリズが呟くと、不安は皆に伝染して俯き言葉は少なくなった。


「国王エイブラハムは賢王と呼ばれてますが、利益なしには動かないでしょう。大司教フェリペは知恵の司教と呼ばれる人です……一筋縄にはいかない」


 フォトナーも深刻な顔で頷く。


「師匠、大丈夫かな……」


「心配するな、師匠は……」


 俯いたココを励まそうとするリルも、途中で言葉を詰まらせた。


「交渉がまとまらなければ、モネコストロは……」


 ダニーは目の前が真っ暗になって、言葉を失った。王政を倒し、平等な民衆の世を作ろうと願っても国が存在しなければ何の意味も無い。


「アルマンニとイタストロアの連合の前で、弱小モネコストロに味方するなんて奇跡に近い」


 窓際で腕組みしたランスローは、遠くを見る様な目で呟いた。全員のココロが”奇跡”という重圧に押し潰されるが、十四郎は穏やかな表情で皆を見回した。


「待ってるだけでは奇跡は起こりません……奇跡は自ら起こすものなのです」


「でも、絶対無理です! ちっぽけな俺達に何が出来るんですかっ!」


 思わず大声になるダニーの言葉は、その場の雰囲気を象徴していた。


「何が出来るかではなく、何をするかです」


 興奮するダニーを見詰め、十四郎はまた穏やかに言った。


「でも……俺は無力です……何の力も無い……あなたとは違います」


 十四郎の言葉を受け、ダニーは拳を握り締めた。


「自分の限界を自分で決めない……そこからですよ」


 十四郎がダニーの肩に手を置きながら言うと、ダニーは小さく頷いた。


_________________________



 マルコスが戻って来たのは夕方過ぎだった。直ぐに声を掛けようにも、顔面蒼白のマルコスは小刻みに震えていた。


「どうしました?」


 他の皆が尻込みする中、十四郎だけが普通に声を掛けた。だが、十四郎の問い掛けにもマルコスは震えながら俯くだけで、何も言わなかった。それどころか、皆と目を合わせる事もせずにいた。


「マルコス殿。その様子では、かなり厳しいんですね……でも、私達は無理を承知でここまで来ました。何もしないうちから諦めるのは……」


「お前に何が分かる!!」


 急に十四郎の言葉を遮り、マルコスが叫んだ。


「そうですね。ですが言って頂かなければ、もっと分かりません」


 穏やかな表情のまま、十四郎が答えた。それでも更に叫ぼうとしたマルコスを制したのは、ココとリルだった。


「師匠、出発前の意気込みはどうしたんですか?」


「アタシ達の師匠は、決して負けを認めたりしない……」


 泣きそうな顔のココに、鋭く睨んだリルが言葉を被せた。


「お前達……」


 言葉を詰まらせるマルコスに向かって、今度はリズが穏やかな視線を向けた。


「ここまでも苦労の連続です……簡単な仕事じゃないのは、皆も分かってます」


「マルコス殿、言って下さい……例えどんな道でも、国の為、愛する者の為、私達は後には引けないのです」


 覚悟を決め背筋を伸ばしたフォトナー言葉は、マルコスの胸に突き刺さった。一瞬の間を空け、大きく深呼吸するとマルコスは話し始めた。


________________________



「イタストロアの国境近く、バルセローという都市がある。そこはイアタストロとエスペリアムの緩衝地帯で、イタストロア側には最大の要塞パルノーバがある……それは、エスペリアムの喉元に剣を向けてる様な感じだ……兵力は三千を超え、直ぐにでも侵攻できる準備が整っている……そこさえなければ、イタストロアの侵攻をかなりの確率で防げるのだ」


「パルノーバと言えば、難攻不落と言われた要塞……まさか……」


 フォトナーは、直ぐに顔色を変えた。


「そうだ……我々の手勢だけでパルノーバを落とせたら、話に乗ると……」


 マルコスの顔色も真っ青だった。


「城を攻め落とすには三倍の兵力がいると言われているが、相手は最強の要塞……たったこれだけの人数で何が出来る……」


 ランスローは吐き捨てる様に言うが、マルコスは何も言い返せなかった。


「それだけではない……魔法使いに合わせろと……」


「今、十四郎様は銀色の目です……この国で銀色の目は……」


 驚いた表情のリズが、マルコスに詰め寄った。


「大丈夫です、行きましょう……私は魔法使いではありませんし、この目も毒によるものです」


 普通に十四郎は言うが、マルコスは目を見開いた。


「行けば、どうなるか分かってるのか?! 腕を見せろとエスペリアム中の屈強な騎士達と戦わなければならなくなる。お前は目が見えないんだぞ」


「ご心配なく。確かに見えませんが、私は誰にも負けませんよ」


 相変わらず落ち着いて穏やかな十四郎だが、その言葉の内容にマルコスは驚いた。


「十四郎が負けないと言えば、絶対に負けない」


 鼻息も荒くリルが言い放つと、リズもまた言葉を重ねた。


「私達は十四郎様に頼るしかないのです。今も、これからも……」


 リズの言葉を受けたマルコスは十四郎に視線を向ける。十四郎は、何時もと変わらない穏やかな表情でマルコスを見返した。


「だが、例え多くの騎士を退けたとしても……パルノーバが……」


「それは、その時になって考えましょう」


 その十四郎の言葉は、マルコスに不思議な感覚をもたらせた……もしか、したらと。


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