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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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不安

「明日には王都、マドーリだ」


「その後はどうするんですか?」


 十四郎の質問に、マルコスは少し笑った。


「後は俺の仕事だ……護衛、ご苦労だったな」


「いえ……」


 頭を掻いて微笑む十四郎の横顔を、ラナは馬車の中から見て呟いた。


「どうして、あんな笑顔が出来るのかな?……」


「えっ?」


 隣に座るビアンカが首を捻る。シルフィーにはリズが乗り、ビアンカは大事を取ってラナと同じ馬車に乗っていた。


「私は、あの笑顔を見るだけで胸が苦しくなる……あなたは?」


 ラナの質問に、ビアンカは少し笑って答えた。


「優しい笑顔だね……でも、分からない……何も思い出せない」


「思い出したくはないの?」


「分からないよ……」


 俯くビアンカの頬に美しい髪がパラリと落ちる。同性であるラナでさえ、一瞬胸がドキッとした……”男の人は、こんな娘を好きになるんだろうな”と、ラナはココロの中で思った。


 そして、反対側を行くランスローを見る。ランスローは前ではなく、ビアンカの事ばかり見詰めていた。ランスローだけではない、ダニー達やフォトナーの部下達もビアンカの事ばかり見ている。


「……もし、十四郎があなたの事を好きって言ったらどうする?」


 言うつもりはなかった、聞くつもりもなかったが、言葉が自然とラナの口から零れて消えた。


「えっ、何か言った?」


 遠くを見ていたビアンカが振り返った。


「いいえ、なんでもない」


 ラナは、ぎこちない笑顔を向けると、視線を逸らす。真っ直ぐなビアンカの瞳が、強く胸を圧迫したから。


________________________



 最後の一日は王都手前の街だった。モネコストロの様な小国と違い、王都の近くと言うだけなのに、その規模に驚く一行だった。


「モンテルカルロスが田舎町に思えるな」


「そうですね。祭りでもないのに、この賑わい。アルマンニの首都も、こんな具合?」


 マルコスの言葉に頷いた後、ココはツヴァイに話を振った。


「ああ、こんな感じだ」


 ビアンカを守れなかった事を悔やむツヴァイは、まだ元気を取り戻していなかった。


「来いよ、飲みに行こう」


「俺はいい……」


「皆で行って来い」


 ココが肩を抱き誘うがツヴァイは俯くだけだったが、マルコスが無理矢理背中を押した。ゼクスやノインツェーンもツヴァイの背中を押して、やっとツヴァイは同意した。


 全員が街へと繰り出し、残るのはビアンカとラナ、バンスとランスローだけだった。十四郎も無理矢理リズが引っ張って行き、ラナは少し複雑な気持ちで見送った。


「十四郎様、飲んで下さい」


 真っ赤になったリズが無理矢理勧めると、戸惑いながらも十四郎は酒を飲んだ。


「十四郎様! 結構いける口ですね~」


「離れろ!」


 上機嫌のノインツェーンが、十四郎に抱き付きリルと睨み合っていた。


「十四郎様! 本当に申し訳ありません」


 真っ赤になったツヴァイは何度も頭を下げるが、その度に十四郎が宥めていた。大きな酒場だったが、そんな一行の貸切状態になっていて、マルコスも十四郎の隣で何杯も酒をお代わりしていた。


「自信はあるんだ……でも、絶対の自信じゃない」


 テーブルに突っ伏したマルコスが、独り言の様に呟く。


「私に出来る事があれば、何でも言って下さい……」


 十四郎は伏せるマルコスの背中に呟く。


「……本当は不安で堪らない……モネコストロの運命が、俺に掛かっている……今すぐにでも逃げ出したい……正直な気持ちだ」


 伏せたまま、マルコスは言葉を震えさせた。


「あなたは、逃げませんよ……」


 十四郎の言葉がマルコスの背中に覆い被さる。


「どうして分かる?」


「命さえ賭ける価値がありますから……国の存亡は」


 その言葉はマルコスの胸に突き刺さった。


「賭ける価値か……」


 顔を上げたマルコスは、酒ではなく水を一気に飲み干した。


_________________________



「どう? 体の具合は?」


 宿のベッドに横になったビアンカを、心配そうなラナが覗き込んだ。


「大丈夫……少し頭が痛いだけ」


 ずっと考えていたが、思い出そうとすればする程に記憶は霞んだ。


「焦る必要は無いわ。少しづつ思い出せばいいから」


 寄り添うラナの顔を見ながら、ビアンカは天井を見詰めたまま聞いた。


「私は何をしようとしてたの?」


 ラナは順を追って正直に、細かく答えた。ビアンカは黙ったまま、ゆっくりと瞬きをしながら聞いていた。だが、話を聞いても何も思い出せないし、何の感情も浮かんでこなかった。


 だだ、思い出してみる十四郎の笑顔だけが、胸の奥で複雑に澱んでいた。


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