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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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切っ掛け

「いい女だ……」


 数人の男達は盗賊と言う感じではないが、悪意みたいな雰囲気を漂わせたいた。ラナは初めての経験に体を震わせビアンカの陰に隠れるが、ビアンカはとても嫌な感覚に包まれていた。


 記憶は定かではないが、この展開には何となく覚えがあった。お腹の底が怒りにも似た感じで、少し熱くなってビアンカは思わず手で押さえた。


「あなたは騎士、こんな奴ら目じゃない」


 そう言われても、丸腰の上に剣の使い方など全く覚えてなかった。


「それが……」


「ほら、これ!」


 ラナは落ちていた棒切れをビアンカに渡す。受け取る事は受け取ったが、感覚は全く蘇らなかった。大笑いする男達は、まるで様にならないビアンカを見て更に笑った。


 棒切れを構える手が震える、どうしていいか全く分からない。そんなビアンカの脳裏に、十四郎の横顔がふいに浮んだ。その穏やかな姿は、緊張するビアンカのココロを優しく癒した。


「何だ? 震えてるじゃないか?」


 一人の男が前に出て剣を抜いた。鈍く光る剣を見たビアンカだったが、急に震えが止まる。


「おい、構えが……」


 隣の男が、ビアンカの構えが変わった事に気付いた。体の力を抜いた自然体は、相手が素人でも分かる”気”が溢れる。直ぐに他の男達も包囲に加わると、一斉に剣を抜いた。


 そして、後ろの男が先に出ようとした瞬間、十四郎がその行く手を阻んだ。


「何だお前はっ!」


 十四郎の穏やかな風体に、男は語気をを強めた。


「二人とも、もう直ぐ出発ですよ」


 周囲の男達を完全に無視し、十四郎は二人に微笑んだ。ラナは直ぐに十四郎の陰に隠れ、ビアンカはその微笑みを不思議な気持ちで見詰めた。


「また、あいつ!」


 遠くで見ていたランスローは飛び出そうとするが、バンスはその腕を取る。


「お待ち下さい」


「もう聞き飽きました! 私はダメで、あの男はいいんですか?!」


「お気付きになりましたか? 私達はずっと姫様達を見ていました。ですが、十四郎様が近付くのが全く分からなかったのです」


「それは……」


 確かに食い入る様にビアンカを見詰めていたランスローだったが、十四郎の接近は全く気付かなかった……まるで、何も無い空間から突然現れた様に、十四郎のその場にいた。


「とにかく、見守りましょう」


 動きたくてもバンスの腕の力は強大で、とても初老のの小柄な男とは思えなかった。


_________________________



「お前は誰だと聞いている!」


 凄んだ大柄の男が、十四郎に詰め寄った。


「私ですか? 私は柏木十四郎と申します」


「誰が名など聞いてるか!」


 お構いなしに男は剣を振り降ろすが、十四郎はラナを庇う様に男に背中を向けると鞘の小尻で鳩尾を突いた。男は一発で気絶し、他の男達は一瞬の躊躇いの後、一斉に斬り掛かる。


 次の瞬間! 十四郎はラナとビアンカの腰付近を持ち、神速で男達の包囲から脱出する。腰に触れられたラナは心臓が破裂しそうになるが、ビアンカは違う感覚に包まれていた。


 十四郎は二人を安全な距離まで放すと、刀を鞘ごと抜いてビアンカに手渡した。


「ビアンカ殿、ラナ殿をお願いします」


「あなたは、何も持たなくていいのですか?」


「はい。大丈夫です」


 笑顔で返事した十四郎の顔……その瞬間にビアンカの胸に電撃の様な痛みが走った。


「参りましたね……」


 頭を掻きながら、十四郎は男達に近付く。


「お前は……誰なんだ……」


 呟いた男は確かに見た……十四郎の銀色に輝く目を見て後退る。それでも、十四郎はゆっくりと男達に近付いた。


「来るなっ!」


 剣を振り上げ十四郎に一人の男が迫る。十四郎は半身で躱すと、腕を取って一本背負いで地面に叩き付けた。その光景はビアンカの脳裏で炸裂する、言葉では言い表せない衝撃が体中を駆け巡った。


「今のは何だっ!」


 叫んだ大男に十四郎は素早く接近すると、剣を振り上げる前に内股で投げ飛ばし、横の男を腰車で地面に叩き付けた。残りの男達も次々に倒される仲間を見て、金縛りの様に動けない。


 十四郎は間髪入れず、残った男達を全員投げ飛ばして気絶させた。


「まるで、人が宙を飛んで……」


 唖然と呟くビアンカだったが、ラナはビアンカの顔を見詰め真剣な表情を向けた。


「見覚えがあるはずよ」


「えっ……」


 そう言われてもビアンカの記憶には薄い靄が掛かり、思い出す事なんて出来なかった。


「さあ、行きましょう」


 十四郎がやって来て、また笑顔を向ける。その時、ラナがビアンカの背中を押した。その勢いでビアンカは十四郎の胸に飛び込む。暖かい感覚は頭の隅で小さな火花を飛ばすが、引火はしなくて、そのまま鎮火した。


「思い出さないなら、取っちゃうよ」


 ラナが耳元で囁くが、ビアンカは曖昧に微笑むだけだった。



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