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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  弓2

 精神統一する十四郎の後ろ姿にビアンカも息が止まるが、途中で十四郎はお尻を掻き、ビアンカは少しガクンとなった。


「あいつ、緊張を楽しんでやがる……」


 アミラはその様子を見てニヤリと笑い、ファルケンも同じ様に口元を綻ばせた。


 十四郎は周囲の緊張感などお構いなく、急に開始の合図を出す。放たれた皿の中で、迷う事無く面を向けた二枚を射抜く。残りの矢を口から取ると、ゆっくり構え無造作に放つ。


 放たれた矢は、横向きの皿の中でも一番勢いの無い皿に向かう、やや狙いが甘い、外したかと思われた瞬間風で皿がほんの少し面を見せ、そこに命中した。


「読んでいたのか?」


「まさか」


 真剣な目でマルコスは聞くが、十四郎はニガ笑いで答えた。


「初めに難しい方を仕留めれば、後は簡単だ。何故お前は逆なんだ?」


「追い込まれた方が、真の実力が出る……かもしれない、かと思いまして」


 照れた様に言う、十四郎に少し笑ったマルコス。


「かも……だと」


 背中で言ったマルコスは、次の種目に向けてその場を去る。その背中には闘志がみなぎる。相手にとって、不足はないと。


__________________________


「冷や汗が出ました」


 汗を拭いリズが呟くが、ザインには十四郎の戦いに圧倒されていた。先に結果を出された不利な後攻め。その中でも更に不利に自分を追い込み、自らプレッシャーを招き、それを簡単に打破する。自分には出来ない戦い方に、改めて羨望の眼差しを送った。


「でも、久しぶりですね。マルコス殿が三種目まで行くのは」


 リズは過去の悲惨な三回戦を思い浮かべ、少し鳥肌が立った。


「ああ、過去に三回だけ行われ、重傷二人、死亡が一人……如何に危険が無い様に細工があっても、マルコス程の威力を持つ矢なら命掛けの勝負になる」


 三種目は中央の闘技場に多くの柱を設置し、互いの身体を狙い弓を射合う対戦なのだった。危険が無い様に穂先には刺さらない工夫や、当たった時にマーキング出来る様に染料などが染み込ませてあるが、刺さらないのは遠距離であって、近距離なら刺さる可能性はあり、至近距離なら殺傷力も十分にあった。


「大丈夫でしょうか? 十四郎様」


「これは競技ではない……狩りだ。マルコスが有利なのは目に見えている。奴にとっては動物も人も、ただの獲物だ」


 言葉とは裏腹の期待感、そんなものがザインを包む。リズは正直、十四郎よりビアンカの事が心配になる、こんなに遠いのにビアンカの表情は手に取る様に分かったから。


__________________________



「弓も中々の使い手じゃ」


 満足げなライアは笑顔でバンスに言うが、バンスは三種目目の内容に少し不安を過らせる。


「じゃが、あんな近くで弓を射合うとは、些か悪趣味な趣向じゃ」


「はい、この様な試合は見た事が御座いません。過去には死者も出たと聞きます」


 冷や汗のバンスは、顔を曇らせる。


「魔法使い殿は、どの様に切り抜けるのじゃろうか?」


 ライアのやや不安げな声に、バンスは少し戸惑う。


「相手を傷付けず勝つのは難しいと存じます。遠目に当たれば印が付き、そこが急所なら勝ちは決まりますが、手練同士ではそうも行きますまい。必然的に至近距離での射合いは、どちらかが……」


「見たいものよ、魔法とやらを……」


 初めて見るライアの表情は、少し眉を顰め俯き加減だった。バンスの胸は感じた事の無い不安定な気持ちに包まれる。遠くに見える十四郎の背中は、何故がその不安を軽いベールで包んでいた。


 何故とか、どうしてとか、そんな感情を置き去りにして……。


_____________________



「十四郎、気を付けて。マルコスは戦士じゃない、狩人なのです」


「私は獲物ですね」


 ビアンカの心配を余所に、落ち着いた十四郎の表情はアミラさえ不思議な気持ちにさせる。


「本物だぜ、待つだけじゃない。攻めてもくる。獲物を仕留める勘は、動物並みだ」


「そんな感じですね」


「勝算はあるのか?」


 他人事みたいに言う十四郎に、首を傾げたアミラは尋ねる。


「あまり、ありませんね」


「優勝しないと賞金は無いぜ」


「そうでした、がんばります」


 穏やかに微笑む十四郎。そんな緊迫感の感じられない十四郎にアミラは溜息を洩らすが、横目で見たビアンカの表情は、なんだかアミラさえも切なくさせた。

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