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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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失われた記憶

 国境の街では別に異邦人は珍しくないはずだが、十四郎を見る人々の目は明らかに違っていた。その状にマルコスは胸騒ぎを覚え、ココに探りを入れる様に命じた。


「やはり、伝説ですね」


 直ぐに戻ったココは、少し顔を曇らせて報告する。


「伝説?」


「はい、エスペリアムに伝わる伝説です。異国とは言え、国境の街では普通に伝っています」


 首を捻るマルコスだったが、ココの不自然な程に眉を潜める姿に胸騒ぎは大きくなった。ココは咳払いをすると、静かに話し出した。


「昔、北の辺境に銀眼の魔女がいたそうです。その魔力は絶大で、王とて刃向かう事は出来ずに従うのみだった……しかし、王は刺客を送り魔女を倒しました。だが、魔女には息子がいた……何時の日か、王を撃ち滅ぼす為に銀眼の魔法使いが戻って来る……そんな伝説です」


「まずいな……」


 そう言われて見れば、十四郎を見る人々の目は明らかに畏怖が感じられた。


「銀色の瞳を持つ者は、エスペリアムでは不吉とされています……ですが……」


「どうした?」


 明らかに動揺するココを見て、マルコスは話しの先が気になった。


「王族にとっては不吉ですが、圧政に苦しむ民衆にとっては希望の光なのです」


 ココの言葉を受け、もう一度人々を見たマルコスは気付いた。それは畏怖ではなく、羨望の眼差しである事を。だだし、今回の目的とは反する事にマルコスの策は誤算の坂を下り始めた。


 だが何故がマルコスの心理状態は、自分でも不思議なくらい落ち着いていた。


「もうすぐビアンカ様が合流する。直ぐに国境を越える、準備しろ」


「はい」


 ココに指示を出したマルコスは、十四郎の背中に小さな光を見た。


____________________________



「ビアンカ様、もうすぐ国境の街です」


 先を行くツヴァイが振り返り、笑顔を向けた。


「はい……どうしたの? シルフィー」


 笑顔を返したビアンカは、様子のおかしいシルフィーに聞いた。


「おかしいの……物凄く嫌な”気”が近くに……」


「えっ?」


 ビアンカが首を傾げた瞬間! 首の付近に小さな痛みを感じ思わず手を添えた。


「これ……」


 そこには小指より小さな矢があり、抜くとビアンカの意識は遠く離れて行った。


「ビアンカ様っ!!」


 直ぐにツヴァイが反応するが、意識を失ったビアンカは落馬しそうになる! だが、咄嗟に身を屈ませたシルフィーにより、ビアンカは衝撃を受ける事無く地面に倒れた。


「ビアンカ!!」


 シルフィーの問い掛けにもビアンカが答えず、抱き起したツヴァイの腕の中でビアンカは静かに目を閉じていた。焦るツヴァイは何度も揺り動かすが、ビアンカの反応は無い。


 直ぐに振り返り周囲を睨んだツヴァイは、近くの木に隠れる影を見付けた。


「貴様かっ!」


「何だ? 今頃気付いたんだ……」


 木陰から姿を見せたアインスが、少しよろけながら笑った。身体を木に寄り掛からせ、苦しそうにも見える。


「ビアンカ様に何をした?……」


 声を押し殺し睨むツヴァイに、アインスはぎこちなく笑い掛けた。


「嫌だなぁ、殺しちゃいないよ……ただ、無くなるかも」


「何がだ?」


 更にツヴァイが睨む。


「記憶だよ……この毒は、記憶を無くす。魔法使い用に持って来たんだけど、使わなかったからね……それじゃ、魔法使いによろしく……」


 追い掛けたくても、気を失ったままのビアンカを置いてはいけない。ツヴァイは自分の愚かさを呪いながら、唇を噛み締める事しか出来なかった。


_____________________



「目が覚めましたか?」


 目を開くと、見知らぬ誰かが泣きそうな顔で覗き込んでいた。


「ここは……?」


 頭が割れそうに痛くて、目を閉じると頭の中がグルグル回った。


「ビアンカ大丈夫なの?!」


 覗き込んだシルフィーを見て、ビアンカは後退った。


「馬が喋った……」


「ビアンカ、どうしたのよ?」


「ビアンカ?……」


 茫然とするビアンカは、周囲を見回した。


「自分の名前も忘れたの?」


「名前?……」


「ビアンカ様、申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに……」


 両膝を付いたツヴァイが泣きながら謝るが、ビアンカは不思議そうに首を捻った。


「どうして謝るのですか?」


「アインスの毒で、ビアンカ様の記憶が……」


 更に俯くツヴァイを見ると、ビアンカの胸が何故か痛んだ。


「顔を上げて下さい……謝らないで下さい」


 ビアンカが優しく微笑むと、ツヴァイの胸は更に圧迫された。


「十四郎の事も忘れたの?」


「十四郎?」


 シルフィーの問いにビアンカは不思議そうな顔をするが、その瞬間に胸に小さな痛みが走った。


「そうだ、十四郎様なら!」


 ビアンカの口から洩れた”十四郎”と言う言葉に、ツヴァイは縋りたい気分だった。立ち上がったツヴァイ、ビアンカに手を差し伸べた。


「行きましょう、十四郎様の元に」


 また”十四郎”という名前に、ビアンカは反応した。この胸の痛み……十四郎と言う人に会えば、分かるかも……ビアンカは、そっと胸を押さえココロの中で呟いた。



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