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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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推参

「アインス殿、七子様の指示は動向を探れと……これでは、こちらの目論見が……」


「君、目障りだね……」


 具申するドライ配下の騎士に、アインスは氷の様な視線を向けた。


「しかし……」


「七子は動向が気になるんでしょ? なら、気になる元を断てばいい。そうすれば、七子は何も悩む必要は無くなるんだ……」


 アインスに表情は、悪寒が走る程に禍々しかった。


「手出しはするなとの言い付けです。我々の目的は……」


 それでも食い下がる騎士に、アインスは背中を向けるとツヴァイに目配せをした。ツヴァイは騎士の後ろから忍び寄ると、ゆっくりと手で口を塞ぎ、心臓に短剣を刺した。


「さて、どうしたものか? 七子の邪魔になる……こいつ等……普通にしたんじゃ、面白くないなぁ」


 その美しい顔を歪め、アインスは呟いた。


___________________________



「ゼクス、ノインツェーン。正前で盾になってくれ。周囲から迫る敵はココとリルが削る」


 マルコスの言葉に頷いた二人は、ゆっくり剣を抜くと正前に出る。フォトナー達が左翼、右翼にはランスローが向かい、後方はマルコスが見据えた。


 ラナはバンスとリズが守り、ダニー達も一応は剣を握る。


「いい、必ず二人一組で行動するのよ。攻撃しようなんて、思わないで……身を守る事に専念しなさい……生き延びれば、今より強くなれる可能性がある……でも、死んだら全て終わりなの……分かった!」


 リズは真剣な目でダニー達を見詰めると、最後は大きく叫んだ。


「ああ……死ぬのは、ここじゃないから」


 見詰め返したダニーを見たリズは、少しだけ微笑んだ。


「ラナ様、どうなされました?」


 槍を持ったバンスがラナの顔を覗き込む。


「退路無しの戦いか……下々の騎士達は、国の命で何時もこんな戦いをしていたのだな」


 俯き加減のラナは、噛み締める様に呟く。


「そうですね。どんな状況でも、兵士は命ぜらるまま命を懸けて戦うのです」


「自分がその立場になれば分かる……理不尽だな」


 本来なら今の位置に立つはずもないラナは、胸が激しく痛んだ。周囲には子供の様なダニー達、フォトナーの配下は子供から老人まで……そして、女であるリズやノインツェーン。


 戦いと言う”罪”に、改めて気付いたラナのココロは激しく揺れた。


「このバンス、命に代えてラナ様をお守り致します」


「バンスよ、私の望みは一つ……明日の朝、朝食を食べる事だ……お前達と一緒に」


 ラナの言葉は何よりバンスに力を与え、槍を持つ腕には自然と力が入った。


_______________________



 敵はフォトナー達の左翼から攻撃を開始した。見た目も一番厚い場所からの攻撃に、マルコスは敵の意図を感じ取った。


 他方から応援を差し向けようとすると、応援に行こうとする場所に押して来る。明らかに数の上では厚いが、戦力としては一番脆弱な地点を確実に削ごうとする意志が感じられる。


「ゼクス! ココ! ノインツェーンを残し左翼の援護に回れ!」


 マルコスの指示で左翼に行こうとするゼクス達に、正面の敵が押して来た。素早くココは移動するが、ゼクスは一瞬立ち止まる。


「行けよ、ここは私一人で何とかする」


 ノインツェーンは横顔で笑うと、正面を見据えた。


「頼む!」


 正面から迫る敵を見ながら、ゼクスは左翼に走る。左翼では混戦が始まっており、敵の練度は明らかにフォトナー配下を上回っていた。


 だが、事前にマルコスやリズの指示通り、防御に徹した戦術を行っていた為に負傷者は出ていたが、今の所は死者は出していなかった。


 ノインツェーンに迫る敵は明らかに現役の青銅騎士だったが、違和感がノインツェーンを襲った。戦い方に統率性があり、指揮系統の存在が垣間見える。絶対個人主義の青銅騎士には無かった戦闘はノインツェーンを戸惑わせた。


「普通に行け! 十四郎様の様に!」


 リルが叫ぶと先頭を行く敵兵の脚や腕を射抜く。


 一瞬でノインツェーンの顔に笑顔が戻る。剣をやや下向きに構えたノインツェーンは、迫り来る敵兵に穏やかな笑顔を向けた。


 ノインツェーン最大の武器”三段突き”はキレを増し、相手の攻撃を阻害しながら受け身に回った所に蹴りやパンチを繰り出し倒す。


 遠目で見ていたゼクスは、少し笑うと剛剣を敵に浴びせる。だが、一撃で倒すのではなく、ノインツェーンと同じ様に相手の一次攻撃を無効にする為で、必然的に防御に回る敵を容赦なく蹴りで打倒していた。


 ランスローは睨み合いを続けながら、フォトナー達の応援に向かうか思案していた。ただ、今の場所を離れれば、直ぐに敵が傾れ込んで来るのは必至だった。


「合図をくれ! 判断がつかん!」


 大声でマルコスに指示を乞うランスローを見て、マルコスも叫び返した。


「今はまだ早い!! 右翼の敵を牽制しろ!」


 頷くランスローは、剣を構え直すと敵兵を睨み付けた。左翼のフォトナー達は、ゼクスとココが応援に回った事で少しは持ち直すが、明らかに敵主力との交戦は分が悪かった。


 次第に押され始め、突破されそうになる。当然ゼクスは取り囲まれ、敵兵はココの援護が出来ない様にゼクスを盾にした方向に絶妙に回り込む。


 薄い防御網は、一か所でも突破されればラナのいる場所は忽ち最前線になる。マルコスが決断を迫られた瞬間! 白い影が戦場を横切り、遅れて銀色の影も現れた。


「十四郎!!」


 マルコスの叫びが戦場を木霊すると、ラナの胸は張り裂けそうになった。それは、リズやノインツェーン他の達も同様で、一斉に十四郎の影を追った。


 十四郎は素早くアルフィンから飛び降りると、倒れるフォトナーの部下達に駆け寄り応急手当をする。


「ここを押さえて止血して! そこは傷が深い! 取りあえず止血を優先に!」


 十四郎の叫びに、駆け寄ったリズが直ぐに従った。


「十四郎様……その目……」


 横顔が月に照らされると、十四郎の瞳が銀色に輝いた。


「お待たせしました。後はお願いします……」


 向き直った十四郎の笑顔はリズの胸を貫く衝撃だったが、その衝撃の意味をリズは改めて味わう事になるのだった……。


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