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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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第六感

 見えないはずの十四郎だが、普通に場所を決め、普通に枝を集め、普通に火を熾した。それからアルフィンに水と干し草を与え、ローボに干し肉を出した。


「普通だな……」


 寝そべったローボが、オレンジの炎で照らされる十四郎の顔を見た。アルフィンも何時も通りに動き回る十四郎の姿に首を傾げていた。


「そうですか?」


 小枝を焚き火に入れながら、十四郎は静かに微笑んだ。


「体は痛くないの?」


「まだ少し痛いですが、泣ける程ではありませんよ」


 アルフィンの方を見る十四郎の顔は、とても穏やかだった。


「ローボ、神の側って……十四郎、神様になったの?」


「そう言う訳ではない。見えなくなった事で、他の五感が鋭くなって……更に第六感が発動したのだろう……そうだな、覚醒、否、進化と言った方が近い」


「ダイロッカン?」


 ローボ説明にポカンとするシルフィーだったが、十四郎には何となく分かった。研ぎ澄まされる感覚、相手が濃密な空気の中を動いている様子が手に取る様に分かる。見えないはずの周囲も、物などが出す”気”を感じて、まるで見えてる様に対応出来た。


 そして一番驚いたのは、木々や昆虫までもが十四郎に語り掛ける。その声は限りなく優しく、限りなく不思議だった。


「見てろ」


 ローボはそう言うと、至近距離から前脚で十四郎の顔を目掛け小石を蹴った。音も無く飛んだ小石は、十四郎の顔の寸前で逸れた? 否、避けた?。まるで何事も無かった様な十四郎に、首を傾げたアルフィンが聞く。


「十四郎、今の石は避けたの?」


「石ですか? 避けたと言うか、身体が勝手に反応したと言うか……」


 十四郎の言葉が終わらないうちにローボは次々に石を飛ばしたが、全て十四郎は避けた……いとも簡単に、いとも自然な動きで。


「凄いよ。見えてても避けられそうじゃないのに」


 アルフィンは感心するが、ローボはやや目を伏せた。


「切れ過ぎる感覚は、相手だけでなく自分自身も切る可能性がある」


「肝に銘じます」


 十四郎は自身の手を見詰めた……そこには確かにあった。暗みの中に確かに光を放つ、ボヤけてはいるが手の輪郭が網膜の裏に映し出された。


__________________



「そんなに離れて、もっと火の傍に来ないと風邪ひきますよ」


 焚火の傍で横になったビアンカは、相当遠くに寝るツヴァイに声を掛けるがツヴァイは頑なに否定する。


「そんな、これ以上近くだと取り憑かれます」


「憑かれるって……」


 真剣な顔のツヴァイだったが、ビアンカは呆れ声で言うが”私は悪霊か”と心で呟いた。


「それに、ビアンカ様の香りが……」


「私、臭いですか? お風呂も入ってないし」


 明らかに暗闇でも分かる赤面したツヴァイを見て、ビアンカは自分の匂いを嗅いだ。


「いっいいえ、違います。その、あの、良い匂いです」


 その慌てる様子が可笑しくて、ビアンカは噴き出してしまった。だが、冷たい夜の空気を吸い込むと、自分に言い聞かせる様に呟いた。


「私達、国の命運を賭けて戦ってるんですよね……多くの人々の為に為に頑張ってるんですよね」


「そうですね……我々が背負うのは、多くの人達の未来かもしれません」


「ツヴァイさんはモネコストロの人じゃないのに、何故?」


 少し疑問に思って、ビアンカは聞いてみた。


「私達青銅騎士は国の為と言うより、自分の為だけに戦って来ました……だから、諦めも早かった……十四郎様に負けた時点で、もういいと思いました。終わらせる事に何の未練も後悔もありませんでした……ですが、今は命が惜しくなりました。自分以外の人の為に尽くす事や、繋がりのある仲間の為にも自分の命を大切にしようと思う様になりました」


 ツヴァイは言葉を選びながら、ゆっくりと話した。


「そうですよ、ツヴァイさんは十四郎の一番弟子なんですから」


 笑顔のビアンカの言葉が、ツヴァイの胸に弾ける。”一番弟子”……その言葉は、ツヴァイの中で一番大切な言葉となった。


「はい……」


 小さな返事は決意の表れだった。十四郎はビアンカをツヴァイ一人に任せた。それは、ツヴァイにとって何事にも代えられない栄誉だった。


_____________________



「ローボ殿」


 夜中過ぎ、十四郎がローボの耳元で囁く。


「どうした? 少しでも寝ろ。体力を回復……」


 薄眼を開けたローボの目に、十四郎の真剣な顔が大映りになった。


「マルコス殿達が、囲まれています」


「何だと?」


 ローボでさえ感じない異変を十四郎が感じ取ってる事に驚く。ローボの予知はかなり遠くまで網羅するが、それを超える十四郎の予感は、正直鳥肌ものだった。


「十四郎、分かるの?」


 アルフィンも十四郎を真剣に見る。


「はい、確かだと思います。相手は……」


 言葉を濁す十四郎の顔が少し強張る。


「奴か?……」


「はい」


 ローボの問いに十四郎は小さく頷く。


「誰なのよ?」


「十四郎を、こんなにした奴だ」


 ローボの言は、アルフィンの心臓に氷を押し当てた。そして、立ち上がった十四郎の背中が、何時もと違って見えた。言葉は夜の闇に溶ける……。


「十四郎……」


「行きましょう」


 微笑む十四郎だっが、ローボにも予感が走る……どんな戦いを見せるのか? それは……。


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