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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
132/347

境界

「どうして、こんな道を通ってたんですか?」


 夫婦は小さな馬車で移動しながら、シルフィーに乗って隣を行くビアンカに父親の方が不思議そうに聞いた。


「それは、少し訳有りで……」


 ベールを捲ったビアンカが、曖昧に微笑んだ。


「そちらこそ、こんな危ない道を……」


 反対側を行くツヴァイが今度は聞き返す。


「子供が生まれましたので、妻の実家に向かう途中なんです。街で近道があると聞いて……」


「教えたのは多分、盗賊の仲間ですね。あなた方の様な旅人を脇道に誘い込んで襲う、常套手段です」


「教えてくれてのは、普通の人の様でしたが……」


 父親は不思議そうに首を捻った。


「如何にも盗賊って人にこの道を教えられたら通らないでしょう、普通は」


 少し呆れた様にツヴァイは言って、父親も恥ずかしそうに頭を掻いた。


「そうですね、迂闊でした」


「サーシャ、可愛いですね」


 ビアンカは母親が抱くサーシャばかり見ていた。


「ビアンカも欲しいの? 赤ちゃん」


「な、何いってるの!」


 首を傾げるシルフィーの言葉に、ビアンカは真っ赤になって口籠る。


「あの、もしかして馬の言葉が分かるんですか?」


 目を輝かせた母親がビアンカを見詰め、少し照れた様にビアンカが頷いた。


「あっ、はい」


「私の故郷では、動物の言葉が分かる人……その人は天使であると言われてます」


 愛おしそうにサーシャを見詰めながら、母親は穏やかに言う。


「天使ですか……」


 ビアンカも愛おしそうに、サーシャを見詰めた。なんだが、魔法使いって言われる十四郎の気持ちが少し分かった気がした。他の人には無い”能力”努力して得た訳でもなく、ある日突然授かった”力”……。


 その力をどう使うのか、何の為に使うのか……答えはきっと、十四郎の進む道にあると、ビアンカは思った。


「動物の言葉が分かるって、どういう気持ちと言うか……どんな感じですか?」


 母親は視線をビアンカに向けた。


「そうですね……漠然とはしてるんですが、何て言うか……通じ合えるのなら、人と動物の垣根を越えて分かり合えるって言うか……」


「その力は何時頃?」


 母親は笑顔で聞くが、ツヴァイがビアンカの代わりに答えた。


「ビアンカ様にも、お分かりでないのですよ」


「差支えなければ、旅の訳をお聞かせ頂けませんか……」


 今度は父親が穏やかな視線を向けた。


「それは……」


「実は私達は大道芸の一座なのです。ビアンカ様の美しさ故、求婚者が後を絶たずに我々だけ別行動しているのです。それでは、私達は先を急ぎますので……この先から、大きな街道に抜けられます。安全の為にも、そちらを通る事をお勧めします。それではビアンカ様、参りましょう」


 ビアンカの言葉を途中で遮り、ツヴァイが強引にビアンカを引き離した。


「えっ、でも安全な所まで……」


「ビアンカ様、お早く」


 後ろ髪引かれるビアンカを、ツヴァイは無理矢理に連れて行く。ビアンカは何度もサーシャの方を振り返った。


「ツヴァイさん、どうしたんですか急に?」


「少し引っ掛かりました。こんな夜道を、教えられたからと言って通るのは不自然です。別に急ぐ様な素振りもありませんし……それに」


「まだ何か?」


「はい……アルマンニの魔法使いは、情報の収集には長けています」


 ツヴァイの言葉はビアンカの胸に刺さる。何度も十四郎を罠に掛けた七子の存在が、改めて胸の中で黒く渦巻いた。


___________________________



「まるで見えてる様だな」


 普通にアルフィンに乗る十四郎の姿を見て、ローボは走りながらも口元を綻ばせる。簡単に木々を避け、枝が顔に当たる寸前には当たり前の様に避けていた。


「それが、何故が分かるんですよ……視界は真っ暗ですけど」


 照れた様に笑う十四郎だったが、ローボは身体の事も心配だった。


「体の痛みは?」


「消えた訳ではありませんが、大分楽になりました」


 屈伸をした十四郎は笑顔を向ける、その様子は全く普通でとても目が見えないとは思えなかった。


「本当なの? 無理しなくていいんだからね」


 振り返ったアルフィンも心配そうな顔を向けるが、十四郎は優しくアルフィンの首筋を撫ぜた。なんだかそれだけで、アルフィンのココロはとても穏やかになった。


「他に変わった事はないか?」


 普通な事が心配で、ローボは十四郎の顔を覗き込んだ。


「そうですね。見えないけど見えるって感覚には少し慣れてはきましたが、それがその……」


 十四郎が口籠ると、ローボは急に立ち止まり十四郎を強く見詰めた。


「どうした? 何処が変なんだ!」


 明らかに自分の事を心配してるローボの事が、なんだか嬉しくて十四郎は自然と笑顔になった。


「それが、分かると言うか、感じるんです」


「だから、何を感じるんだ!」


 思わずローボは声を上げる。


「例えば……あそこ」


 十四郎が指差す方角には、古い巨木があった。


「十四郎、あの木がどうかしたの?」


 キョトンとしたアルフィンが、巨木を見詰めた。


「あの木の言葉って言うか、気持ちが分かるような……」


「何だと? あの木が何と言ってる?」


 驚いたローボが、少し早口になった。


「あの……通じる者が現れたと……」


 曖昧な顔の十四郎も、巨木を見詰めた。


「……それは、お前の事を言ってるんだな?」


 ローボの言葉は真剣だった。


「はっきりとはわかりませんが」


 十四郎は曖昧に笑うしか出来なかった。本当に自分でも分からない、ただ漠然とそんな気がしていただけだから。


「ローボ、どう言う事なの?」


 アルフィンは自分だけ分からない事に焦りを覚え、真剣な眼差しのローボを懇願する様に言った。ローボは座り直すと、穏やかに言う。


「十四郎は、木々の言葉さえ分かる様になったのかもな」


「それって……?」


「境界を越え、こちら側に入ったのかもしれない……」


「こちら側ですか?……で、どちら側?」


 ポカンと十四郎が聞く、当然アルフィンもポカンとしていた。


「神の側だよ……」


 ローボの言葉が、暗い森に静かに響いた。


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