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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  弓1

 またもコイントスで負けた十四郎の相手は、弓だった。


「あの者はマルコス……弓の達人と言われ、何度も騎士団に誘われながも拒否し,猟師を続けています。人を射るより、動きの読めない動物の方が射る楽しみがあると言ってますが、気が向くと傭兵として戦にも出ます……人もまた、マルコスの狩りの対象なのです」



 細身で顔色は悪い、だが腕の筋肉は遠目にも分かる躍動感があった。ビアンカの説明にも、些かの不安が混じる。


「矢の威力は相当なのでしょうね」


「えっ、見ただけで分かるんですか?」


 マルコスを見詰めたまま呟く十四郎の言葉に、ビアンカが聞いた。


「左腕……右より掌分ほど長いです」


 十四郎の言葉にビアンカが目を凝らと、確かに左腕の方が長い様だった。それは弓を引く距離が長くなる事を意味し、当然矢の威力は増大する。

 

 一目で見付ける十四郎にも驚くが、平然としている態度の方が驚きに値する、しかも平然と言うより楽しそうにも見えた。


「初めの種目は、5本の矢で的を射ます。それを三回、得点式で勝負を決めます。引き分けの場合は二種目目で一発勝負です。会場の両側から皿が投げ込まれ、それを持ち矢5本で射ます。出来るなら二種目目までで決着を付けて下さい、三種目目は……」


 ビアンカの説明が終わらないうちに、十四郎は呼ばれてしまった。


「それでは、行って参ります」


 笑顔の十四郎に、ビアンカは微笑み返すがその笑顔は微妙に強張っていた。


_____________________________



「宜しくお願いします」


 十四郎の挨拶にもマルコスは見向きもしない、ただ集中して的を見詰めていた。他の競技と比べ地味に見えるが、弓の勝負は正に精神力の勝負だった。敵に勝つのは当然だが、まず己に勝つ、全てはそこから始まる。


 最初の仕草から、慎重に射るかと思われたマルコスは一気に5本の矢を射る。全てが的の真ん中に命中し、さっと十四郎に場所を開けた。


 十四郎は代わると、姿勢を正す。呼吸を整え目を静かに閉じる。呼吸が落ち着くとゆっくり目を開ける、先に構えた弓と的を交互に見詰め遠近感を調整すると、第1矢を射る。真っ直ぐ放たれた矢は、的の真ん中に命中した。


 祈る様に見詰めるビアンカは、矢が放たれた瞬間に目を閉じてしまう。そして、目を開けると矢は真ん中に命中していた。安堵の溜息、しかしその横から、ファルケンの落ち着いた言葉が聞こえる。


「信じているなら、目を閉じてはいけません。この勝負は一瞬で決まります」


 胸を突かれた、ビアンカは頷くと十四郎の背中に集中した。その視線の先を見たファルケンは、ニヤリと笑う。


「ほう、あなたが見ているのは勝負ではなさそうですね」


 その言葉は、ただ行く先を案じる今のビアンカには届かなかった。


_____________________________



 緊迫の時間は互いに譲らず、引き分けとなった。永遠とも思われる緊張、終わったと同時にビアンカは大きく深呼吸し、全身の空気を入れ替える。そんな様子を見たファルケンは、掛けようとした言葉を、笑顔で飲み込んだ。


 第二種目、またマルコスが先手を選び、位置に付く。一本を弓にセットすると、残り4本を右手の指の間で持つ。ランダムに両側から投げられる皿は、二枚だけ面を向けて投げられ、残りは横向き、つまり的は線となる。


 やや足を開いたマルコスは、大きく息を吐くと開始の合図を出す。皿が大空に放たれ、マルコスは、ほぼ同時に3本の矢を横向きになった皿に放つ、その内の1本が皿を捉えるのを確認すると、ゆっくりと正面を向いた二枚を確実に射た。


 命中は三枚、マルコスは十四郎と場所を代わる。十四郎は1本を口に咥えると、2本を右手に持った。


「3本だけ?……勝ちを捨てたのか?」


 初めてマルコスが口を開いた。その顔は驚いている様にも、笑っている様にも見える。


「いいえ、負けない事を選びました」


 振り向かず、十四郎は背中で言った。



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