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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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怪物の招待

「待て、奥の部屋だ」


 廊下の突当りでローボが立ち止まる。十四郎にでも分かる異様な雰囲気は、その部屋のドアからも染み出していた。開きそうにないドア……その取り手は赤錆が滴り、ドア自体の荘厳な装飾には埃や汚れがしがみ付いていた。


 何よりドア越しの異臭は、十四郎の顔を顰めさせる。それは紛れも無い死臭、人の残骸の臭いだった。


 十四郎はドアノブに手を掛ける。錆と埃が掌にまとわり付く、ザラザラとした嫌な感覚が手から脳へ伝わる。


 ドアを開けると、蝋燭の火の向こうにはアインスのあどけない笑顔が待っていた。かなりな広さの部屋は大広間という感じだったが、埃と蜘蛛の巣に支配され此の世の雰囲気と隔絶したいた。


「来てくれると信じてましたよ……魔法使い殿」


 古い薄汚れた大きなソファーに座り天使の様な笑顔だが、アインスのその瞳は赤く濁って蝋燭の炎の色と同化していた。


「マカラを使った目だな」


 十四郎の後ろから入ったローボは、アインスの赤い目を睨んだ。


「何? また使い魔を連れて来たの?」


 嬉しそうに笑い、ローボを見詰めるアインスの目は赤さの輝度が増した。


「使い魔だと?」


 人の言葉で押し殺したローボの声が、薄汚れた部屋に響いた。


「へぇ、喋れるんだ」


 立ち上がったアインスは、その血の様な瞳を輝かせた。


「どうして血の臭いがする?」


 周囲を見回しても血痕など無い、ローボはアインスを見据えた。


「取れないんだよ、洗っても洗っても……ほら、手だってこんなに赤く……」


 焦点の定まらない赤い瞳で自らの掌を見せるアインスだが、その手には血など付いていなかった。


「お前はもう終わりだ」


 吐き捨てるローボを、アインスは寒気がする様な表情で睨む。


「それが、終わらないんだな……これを見て」


 アインスは赤い液体の入った瓶を取り出して見せた。


「毎日、少しづつ飲んだんだよ……そしたらね、こうなった。マカラの力を手に入れ、それでも死なない肉体をね」


 今度は十四郎を睨み付け、アインスは怪しく笑った。


「もう、戻れないんですよ」


 それまで黙っていた十四郎は、悲しそうな声でアインスの赤い目を見詰め返した。だが、十四郎の言葉に急にアインスは声を荒げる。


「知ってるよ! どうしてだと思う? それは、アンタを倒したいからだ! でもさ、それもどうでもよくなった……見てよ、力が溢れるんだよっ!……」


 まだ相当の距離があるはずなのに、アインスは一瞬で十四郎の目前に迫る。瞬時に刀を抜いた十四郎は、出て来る所へカウンターの横薙ぎ一閃! だが刀は宙を切り裂いただけで、アインスは元の場所にいた。


「何だ? 戻る時の方が速かった……」


 唖然と呟くローボは、目を疑った。だが、十四郎は眉一つ動かさずに刀を仕舞うとアインスを見据えた。


「やっぱり速いね! でも、こいつ等の速さも凄いいんだよ」


 不敵に笑う、アインスは三人の騎士を紹介した。部屋にはアインスしか、いなかったはずだが気付くと三人は十四郎達の前に立っていた。


_________________________



「紹介するよ。一番背の高い金髪がツヴァイ。体格の良い黒髪がフィーア。銀髪の女の子がフェンフだよ」


 アインスが紹介した三人は、どう見ても少年少女であり、幼さの残る優しい表情に比べ、赤い瞳が異様に輝いていた。


「まさか、その子達は……」


 少しの怒り? 十四郎の腹の底で何かが動き出すと、声を押し殺した。


「そうだよ。僕と同じさ、青銅騎士のランク試合で新しくランク入りした子達だよ。自ら望んで、こうなった」


 嬉しそうにアインスは笑うが、三人は鋭い視線を十四郎から外さなかった。


「さて、ツヴァイから行こうか。でもね、死に損ないの古いツヴァイとは違うよ、新しいツヴァイは物凄く速いんだ!」


 アインスの言葉が終わった瞬間! ツヴァイが斬り掛かる! そのスピードは十四郎に完全な抜刀をさせない。刀を半分程抜いた状態で、十四郎はツヴァイの剣を受ける。そのまま剣を返したツヴァイの高速剣は、ローボでさえ見えなかった。


 だが、十四郎は見えない場所に刀をかざすと、ツヴァイの剣が火花を散らし現れた。


「やっぱり凄いよ、魔法使い……普通なら、もう首が飛んでるよ!」


 興奮したアインスが手を叩く。だが、十四郎はそんなアインスを睨み付けた。


「本当の速さ、お見せしましょう」


 一度距離を取った十四郎は刀を仕舞うと、抜刀術の構えを取る。やや、腰を落とすと足元を床に擦り付け、半身になった。ツヴァイも剣を構え直すと臨戦態勢を取り、ローボは一瞬息を飲んだ。


 今度は十四郎が先に仕掛ける! 床を蹴った瞬間にはツヴァイの間合いの中に入り、振り下ろされる剣の柄を刀の柄で受けると、横方向に神速で薙ぎ払った。ツヴァイも後ろに超速で飛び刀を躱すが、ツヴァイの頑丈そうな鎧には一本の横筋が刻まれていた。


 ローボには全く見えなかったが、アインスは大喜びで膝を叩くと、言葉の後半には急に怒りを込めた。


「凄いよ、本当に凄い……でも、何故斬らない? 何故手を抜く?」


「斬りたくないからです」


 刀を下げた十四郎が呟くと、アインスは表情を一変させた。


「ツヴァイだけじゃない。フィーアとフェンフも同じ位の速さだ……三人の同時攻撃に、その戯言が何時まで言えるかな」


 物凄い形相になったアインスが、アイコンタクトを送ると三人が三方から同時に十四郎に襲い掛かった。


_______________________



「ビアンカ……この先で、誰かが争ってる」


 急にシルフィーが立ち止まった。


「どうしたの?」


 ビアンカは目を凝らして前方を見るが、ツヴァイが直ぐに察して走り出した。


「ビアンカ様! ここでお待ち下さい! 見て参ります」


 見送るビアンカには嫌な予感があった。街道を避け脇道を進んではいたが、こんな道は盗賊に狙われ易いと分かっていたからだ。


「ビアンカ……多分、盗賊だと思うけど……まさか、助けに行くの?」


 心配顔のシルフィーが、振り返ってビアンカの顔色を窺った。


「助けられるなら助けたいね……」


 ビアンカはシルフィーの心配顔を少しでも癒そうと、笑顔を向けた。


「この国は至る所に盗賊がいるって、他の馬達も言ってた……どうして人は、同じ人を襲って命や物を奪うの?」


「それは……」


 シルフィーの疑問にはビアンカも同じ考えだったが、自分でも納得できる説明が出来なかった。だが、そんな雰囲気を一掃する様に、直ぐにツヴァイが戻って来てビアンカに報告を入れた。


「この先で、旅人の一行が盗賊に襲われています」


 報告を聞くと同時に、ビアンカはシルフィー叫ぶ。


「シルフィー! 行くよ!」


「分かった!」


 嬉しそうに返事したシルフィーは、風の様に走り去る。溜息交じりのツヴァイも直ぐに全力で追うが、とても神速のシルフィーには追い付けなかった。



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