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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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判断

 森を抜けると廃墟の屋敷が見えて来た。さぞかし豪邸だったのだろうと推測出来る巨大な佇まいは、その大きさ故にかえって退廃的雰囲気が漂っていた。


「見るからに邪悪な建物だな」


 フンと鼻を鳴らしたローボが立ち止まると、吐き捨てた。


「アルフィン殿、ここで待っていて下さいね」


 十四郎はアルフィンの首筋を撫ぜると、優しく言った。


「どうして、私も行くよ!」


 鼻息も荒くアルフィンは嫌がるが、ローボの鋭い視線に驚いた表情を浮かべた。


「お前、付いて来るなら、ただの馬を演じろ」


「どう言う事?」


 言葉の意味が分からないアルフィンは、小さく首を捻る。


「相手は十四郎の弱みに付け込んで来る。十四郎にとって、お前が特別な存在だと知れれば必ずお前を狙う……その意味が分かるか?」


 ローボはアルフィンを見据えて言葉を重くした。


「分かるよ……私の為に十四郎が不利になるんだ」


「付いて来るなら忘れるな、お前はただの馬だ。戦いが始まれば、直ぐに逃げるんだ」


「分かった」


 更に強いローボの言葉に、アルフィンは俯きながら呟いた。


「アルフィン殿。まだ先は長いですから……一緒にメグ殿の所に帰りましょうね」


 また首筋を撫ぜた十四郎に、アルフィンはそっと寄り添った。脳裏には優しいメグやケイトが浮かび、改めて帰る場所があるって少し嬉しくなった。


_______________________



 屋敷の周囲は瓦礫が散乱し、入口などは完全に埋まっていた。入るなら窓からだが、小さな窓からはアルフィンは中には入れない。


「私はここで待つ……」


 寂しそうにアルフィンが呟くと、十四郎はまた顔の辺りを抱き締めた。


「待っていて下さい、直ぐに戻ります」


「先に行くぞ」


 二人の様子に、ふと笑みを漏らしたローボは先に窓に飛び込んだ。遅れて続く十四郎の背中を、心配そうなアルフィンが見送った。


 夜更けと言う事も手伝い、真っ暗な部屋の空気は冷たく澱み、カビと朽ちた木材の匂いが充満していた。


「この奥だ」


「ええ、ここまで来れば私にも分かります」


 その気配には覚えがあった。無邪気の中の邪気……忌まわしい記憶が蘇る。


「あの時、終わらせるべきだったのかもしれないな」


 ローボの言葉は十四郎のトラウマを呼び起こす。だが、十四郎は自分の言葉を思い出すとローボに言った。


「何度でも打倒します……相手が諦めるまで」


 大きく溜息を付いたローボは、本当に諭す様に言う。


「お前らしいな。だが、判断を誤るな……その志が大切な者を失う切っ掛けになる場合もある。その時は躊躇うな、亡くした者は二度と帰らない」


「肝に銘じます」


 十四郎自身も分かっていた……判断の大切さを。


______________________



「ビアンカ、大丈夫だから」


 何度もシルフィーはその言葉を言った。


「うん。分かってる」


 ビアンカも、何度もそう答えた。


「ビアンカ様、シルフィーは何と?」


 同じ事を繰り返すビアンカとシルフィーの会話に、堪らなくなったツヴァイが質問した。


「シルフィーは私を心配しているんです」


 無理に笑顔を向けるビアンカがベール越しにツヴァイを見た。その真っ直ぐで美しい瞳に、ツヴァイとてキュンとなり、慌てて話題を変える。


「あの、ビアンカ様……その剣は十四郎様の剣と似てますが?」


「ええ、これは刀と言います。片刃で、こちら側は斬れないんですよ」


 刀を抜いてツヴァイに手渡し、受け取ったツヴァイは息を飲んだ。刀の輝く様な美しさ、金属だとは推測出来るが、その輝く材質には全く心当たりはなかった。


「どこでこれを?」


「信じられないでしょうけど、私は十四郎のいた”世界”に行ったんです。そこで色々な人達と知り合い、この刀を手に入れました。この刀なら、十四郎と同じ戦い方が出来る……そう信じてます」


 言葉を紡ぐ様にビアンカは話した。


「そうですか……ご存じだとは思いますが、私達は刺客として十四郎様に挑みました。当然歯が立つはずもなく、呆気なく打ちのめされました。そこで私達は、十四郎様に命と未来を頂いたのです」


 ツヴァイも同じ様に言葉を紡いだ。


「私達にも出来るでしょうか?」


 ビアンカは空を見上げて、自分に聞く様に呟いた。


「出来ると……信じたいですね」


 ツヴァイも空を見上げ、同じ様に呟いた。


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