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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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互いの心

 試みは大成功だった。ローボの登場は予想以上の結果をもたらし、特に人の言葉を話した事は人々に信憑性を植え付ける事に最大の効果を発揮した。


「ローボ、人の言葉が話せたのね」


「ああ……」


 群衆が去り、ガランとした公演会場でビアンカが寝そべるローボに聞いた。マルコスを始め他の者達は、やはり群集と同じ様に驚きを隠せなかった。


 特にローボが人の言葉を話した事の衝撃は大きく、マルコスなどは全身の鳥肌がまだ収まらないでいた。


「ローボ殿。国境の砦まで、私は別行動しようと思うのですが」


「何? どうしてだ?」


 マルコスを離れた場所に誘い十四郎は真剣な顔を向けるが、マルコスは怪訝な顔をした。


「ローボ殿が気付きました、私を狙う者が近付いてるそうです」


「一人で行くのか?」


「引き付けた方が、皆に迷惑を掛けませんし……」


「ならば、ビアンカ様を連れて行ってくれ。我々と一緒に行動すると、せっかくの芝居が台無しになる」


「それは……」


 マルコスの提案に十四郎は難色を示した。


「守り抜く自信はないか? どちらにしろ、ビアンカ様も別行動を取らねばならないぞ」


 腕組みしたマルコスが、横目で十四郎を見る。俯いて少し考える様な仕草を見せるが、十四郎は縦に首を振らない。


「……どちらにしろ、ビアンカ様も別行動を取るしかない。お前が付いて行かないのなら、一人で行かせるしかない。我々には大きな使命がある、どんな犠牲を払ってでも、やり遂げないといけないのだ」


 マルコスの言葉が重く十四郎に圧し掛かるが、連れて行けばビアンカを危険に合わせ、連れて行かなくても一人のビアンカが心配になる。十四郎は思案するが、簡単には答えなんて出なかった。


「お前の気持ちは分かる。だが、どうせ守りたいなら自分で守ったらどうだ? この場の誰といるよりお前が一番守れると、俺は思う……それに、ビアンカ様の気持ちも聞いてみたらどうだ?」


 考え込む十四郎に、マルコスは正直な言葉を向けた。


「ビアンカ殿の気持ち……」


 十四郎は遠くに見えるビアンカの背中を見ると、近付いて行った。マルコスは大きな溜息で見送る……世話の焼ける魔法使いだと思いながら。


_____________________



「ビアンカ殿……お話が」


「えっ、はい……」


 ビアンカは顔を隠す為ベールを被っていたが、その隙間から覗く横顔は十四郎の胸をキュンとさせた。そのまま少し離れた場所にビアンカを連れ出す、ビアンカは俯きながらも頬を染めて付いて行った。


「あの、ビアンカ殿……私を狙う者が近付いて……その、私は別行動しようと思います」


 ビアンカが付いて来ると言う……と、思った。だが、ビナンカは黙ったまま、ベールで顔を隠す。


「ビアンカ殿……私は……」


「私も、一人で別行動取るんですよ……ここには、いない事になってるから」


 十四郎が何か言おうとするが、ビアンカ先に言った。表情は見えないが、その声は笑ってる様に聞こえた。だが、一人で行動すると言うビアンカの言葉は、十四郎の胸を締め付けた。


「……あの、私の方は危険が伴います……ですが、ビアンカ殿……」


 喉の手前まで出るが”一緒に”と言う言葉が出ない。十四郎の言葉は、夕闇に消えた。ビアンカは、長い沈黙の後、小さな声で呟いた。


「……もし、十四郎が……一緒に来てって言ったら……私は……喜んで付いて行く。どんな困難があったとしても……でもね……十四郎が付いて来るなって言ったら……我慢する、我慢するよ」


 胸が痛い、ココロの奥が痛い。十四郎は拳を握り締める、ビアンカの小さな肩が小刻みに震えるのを見ながら。


_______________________



 十四郎は結局一人で行く事を決めた。守りたいが、敢えて危険に晒す事との天秤は後者に比重を置いた。ビアンカの護衛は、ランスローが行くと言い張ったが、結局はラナに対する責任感から諦めざるを得ず、十四郎に頼まれたツヴァイが付いて行く事になった。


「ビアンカ様……命に代えてお守り致します」


 馬を並べて直ぐに、ツヴァイは力強く言った。


「ありがとう……」


 元気の無い返事はツヴァイにも痛い程分かり、それ以上は何も言えなかった。だが、十四郎に頼まれた事はツヴァイにとって栄誉であり、改めて手綱を握り締めた。


「ビアンカ……よく我慢したね。ワタシも頑張るから」


 心配そうなシルフィーは、決心した様に言葉を絞り出した。


「うん、頼りにしてる」


「砦までだよ……直ぐに会えるから……それに、十四郎にはアルフィンとローボが付いてる」


 シルフィーに優しい言葉が逆に胸を締め付け、ベールで顔を隠したまま小さく頷くビアンカだった。


_______________________



「連れて行くと思ったがな」


 先を行くローボは振り返りながら、口元で笑った。


「……そうですね。そうしたいと思いました」


 十四郎の口からは、自分でも驚く位に正直な言葉が出た。


「十四郎! それならどうして?」


 アルフィンは驚く声を上げる。


「わかりません……ただ……」


 それ以上は十四郎自身にも分からない、本当はまだ迷っていたから。


「だが、今回は褒めてやる。気配は異常だ、こんな邪悪な気配は私でも初めてだからな」


 急に真剣な表情になったローボは、背中で言う。十四郎もまた、背筋を伸ばすと遠く見えない敵に思いを馳せた。


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