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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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降臨

 前回と同じ踊りなのに、観衆の反応はまるで違った。ビアンカが舞台に出るだけで大歓声が巻き起こり、リズ達の緊張は最高潮に達した。だが、肝心のビアンカには緊張の欠片もなく平然としたいた。


「ビアンカ……どうしたの? これだけの観衆が目に入らないの?」


 呆れ顔のリズは、次の踊りまでの間奏の間に顔を真っ赤にしながら聞くが、当のビアンカは全く動じずに答える。


「えっ? 確かに大勢の人がいるね」


「大勢って……」


 ”それだけかい”と、心で叫んだリズは、大きな溜息を付いた。


「あそこ……」


 ふいにリルが指差す方向には、微笑む十四郎の姿があった。そして、ビアンカの視線を追うと十四郎に向かい、ピッタリと張り付いていた。


「他は、目に入らないって事か……」


 納得はしたが、改めて呆れるリズだった。しかし、次の踊りの前にビアンカは一旦袖に戻ると、刀を背中に背負って出た来た。リズやノインツェーンにも剣を渡し、リルには弓を手渡す。


「皆、次の踊りは剣舞にするよ! 十四郎がそうしろって!」


 満面の笑みでビアンカは言うが、剣を手渡されたリズ達は呆れ顔で顔を見合わせた。


「……そんなの、練習してないし……」


 目をテンにリズに、ビアンカは更に眩しい笑顔を向けた。


「大丈夫! 適当にやれば、何とかなるよ」


「適当って……ビアンカ様……」


「そうだな」


 呆れ顔のノインツェーンは開いた口が塞がらないが、リルは平然と頷いた。


「全く……どうなっても知らないよ」


 剣を腰に差しながら、リズはボソっと呟いた。


__________________



 曲が始まるとリズは驚いた。予定されてたアングリアンの曲ではなく、モネコストロの円舞曲だったからだ。


 だが、驚いたのはそれだけではなかった。ビアンカ背中から刀を抜くと正眼に構え、気合もろとも振りかぶり、斬り下ろす。そまま、手首を返すと横に薙ぎ払い、今度は斜めに斬り下ろした。


 その動作さは、まるで舞の様に美しく、観衆の目はビアンカに釘付けになる。その後も曲に合わせ、ビアンカの剣舞は続く。リズ達も即興で剣や弓を振り回すが、ビアンカを手本に真似た動きをすると、自分でも驚く位に美しく踊る事が出来た。


 曲が終わり、ビアンカが刀を仕舞うと大喝采が巻き起こる。割れんばかりの拍手と喝采は鳴り止まず、会場は異様な雰囲気に包まれた。


 だが、その興奮もローボが舞台に現れると一変した。誰もが目を疑う……神獣ローボはイアタストロアでも”神”として畏怖されていた。


「ローボ、どうしたの?」


 驚くビアンカが首を傾げるが、ローボは平然と言った。


「乗れ」


「えっ?」


「いいから、乗れ」


 仕方なくビアンカはローボに跨る。ローボは仔馬位の大きさはあり、ビアンカを簡単に乗せる事が出来た。一番驚いたのは集まった群衆で、殆どが体を硬直させ言葉さえ出なかった。


 そして、ローボは人の言葉を群集に向けた。


『この者は、我が妻となる……すなわち、神となるのだ』


「ローボ、何言ってるの?」


「いいから、黙ってろ」


 唖然と呟くビアンカに、今度はビアンカだけに分かる言葉でローボが囁いた。


「あの、ビアンカ……どう言う事?」


 リズは言葉を震わせ、ノインツェーンやリルも唖然としていた。


「さあ、分からない」


 首を傾げるビアンカだったが、その表情は困ってる様には見えずリズは更に混乱した。


「まさか、あの狼!」


 舞台袖で見ていたランスローが飛び出そうとするが、ラナに腕を掴まれた。


「待て、ランスロー」


「しかし、ラナ様」


 焦るランスローだったが、真剣な顔のラナに言葉を詰まらせる。


「我がアングリアンの伝説に、人の女を妻にする狼の話がある。選ばれた女は、やがて狼の化身となり、そして最後には女神となる。ここ、イアタストロアでも、同じ様な伝説がある。十四郎に聞かれ、話すと、その方法で行こうと言う事になった。あの女が女神になれば、誰も手出しは出来ない」


 ラナは真剣な顔だが、少し嬉しそうだった。十四郎と長く話せたのだから、仕方ないだろうと、横ではバンスが笑顔で見守っていた。


 一応、納得はしたがランスローが見ている前で、ローボは舞台を駆け下りビアンカを乗せて森へと消えた。


 群集はそれでもまだ動けずに、ビアンカが消えた森を見詰めていた。


_______________________



 森の中に入るとローボが立ち止まり、ビアンカを背中から降ろした。


「ローボ、どう言う事? あなたには、ブランカがいるでしょう?」


 真剣に怒るビアンカが可笑しくて、ローボは少し噴き出した。そこにアルフィンに乗った十四郎が駆け付け、シルフィーも一緒に来た。


 十四郎の説明で、なんとかビアンカは納得したが、まだ機嫌は直らない。


「ビアンカ、機嫌を直して。お芝居だったんだから」


「シルフィー、あなたも知ってたの?」


 宥めるシルフィーを見て、ビアンカは頬を膨らませる。


「お前は単純だからな、知らせない方が迫真の演技が出来ると思った」


 少し笑いながらローボが言うが、アルフィンの言葉にビアンカは赤面して言葉を失った。


「ローボ、ビアンカの気持ちも分かってあげて。ビアンカは誰のお嫁さんになるか、もう決めてるのよ」


「えっ?」


 赤面するビアンカを見ながら首を傾げる十四郎を、今度はシルフィーが背中を押した。だが、ローボは、急に真剣な目を十四郎に向けた。


「この一件は、これで終わるだろうが、邪悪に満ちた物凄い殺気が近付いている……勿論その殺気は、お前に真っ直ぐ向けられている」


「そうですか」


 あまり驚いた様子の無い十四郎の様子は、かえってビアンカの胸を締め付けた。



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