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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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水面下

 ビアンカは十四郎の、やや斜め後ろを俯きながら歩いて戻って来る。迎えたリズの顔を見ると、ビアンカは黙っまま強くリズを抱き締める。言葉に出さなくても、ビアンカの気持ちがリズの中に流れ込んで来た。


 リズはビアンカの頭を撫ぜると、優しく言った。


「ほら、ごらんなさい。ビアンカは何も心配しなくていいの……十四郎様を信じてれば」


「うん……」


 小さく頷くビアンカを、遠くから見ていたランスローは腸が煮えくり返る思いだった。だが、ココはその横で静かに言った。


「諦めないのは勝手ですが、ご自分が辛い思いをするだけですよ」


「余計なお世話だ……」


 強く言ったつもりでもランスローの声は周囲に掻き消され、落ちていた石を思い切り蹴った。


「さあ、一度ラナ様達と合流する。その後は、直ぐに出発だ」


 マルコスの号令で、全員が馬に飛び乗る。アルフィンとシルフィーは他の皆が乗って来た馬達を先導し、安全な場所に身を隠していた。戦闘が終わり、戻って来たアルフィンは十四郎の様子に首を傾げる。


「十四郎、どうしたの?」


 心配そうにアルフィンが声を掛けるが、十四郎は少し照れた様に笑顔を向けた。


「大丈夫ですよ」


 アルフィンもまた、何時もと違うビアンカの顔を心配そうに覗き込む。


「ビアンカ、泣いてたの?」


「ううん、泣いてないよ」


 明らかに泣き腫らした瞳は、シルフィーの胸を締め付ける。


「私は何時でもビアンカの味方……忘れないで」


「ありがとう、シルフィー」


 そっとシルフィーの首筋を撫ぜたビアンカは、また涙が出そうになるが空を見上げて涙が流れるのを我慢した。


__________________________



「魔法使いの居場所が特定出来ました。エスペリアムとの国境に近い場所で、ラドロと交戦中との事です」


 ドライは鋭い眼光で、七子に報告する。


「ラドロ? 何者だ?」


「イタストロア随一と言われる盗賊です、組織力、規模、カリスマ性、どれを取っても他の追随を許しません」


「その盗賊が、何故十四郎達を襲う?」


 深く椅子に掛けた七子は、ドライの方へ視線を向ける。


「おそらく、目当てはビアンカ殿かと」


 ドライの報告は七子の機嫌を損ねる。脳裏に浮かぶビアンカの美しさが、七子の中で黒く澱んだ。


「それで、奴らの行先は?」


 自ずと口調は厳しくなるが、ドライは気にも留めないで続けた。


「まだ推測ですが、エスペリアムに向かってるのではないかと」


「行ってどうする?」


 七子には思う節はあるが、敢えて聞いた。


「もし、エスペリアムと協定を結ぶ事が出来れば、イアタストロアを挟み撃ちに出来ます」


 表情を変えないまま、ドライは意見を述べた。


「成功の可能性は?」


「エスペリアムの国王、エブラハムは打算的な男です。アルマンニとイタストロアの連合に対抗して、フランクルとモネコストロの連合と組んだ場合の利害は承知のはずです。ですが、ここにアングリアンが加わると話は別です。一気に形勢は逆転、我々アルマンニは不利になります」


 ドライの説明は悲観の要素を含んでいたが、表情は変わらない。


「アングリアンに動きがあるのか?」


「今の所はまだ……しかし、魔法使い達が使った船が、アングリアンに旗艦だった事は事実です。これは、充分警戒に値します」


「後手に回るな、常に主導権を握れ」


 若干の苛立ち、七子は言い放った。


「はっ、既に動いております」


 ドライの鋭い眼光が七子を包み、七子はその視線を正面から受け止める。


「どう言う動きだ?」


「アインスが行きました」


「まさか? 交渉に出向いたとか言うんじゃないだろうな?」


 嫌な予感が七子を支配した。


「いえ、交渉をさせない為です」


 ドライの言葉は更に予感を増長させた。


「見張りを付けろ」


「はい」


 七子の望まない結末……全て、アインスの行動が左右する。見張りの意味をドライは分かっているのか? その表情からは推し量る事は無理だった。


_______________________



「全ての予定をキャンセルして、真っ直ぐ国境に向かう。後の問題は、国境越えのイタストロア側の砦の通過だけだ」


「何か問題でも?」


 マルコスの言葉が気になった十四郎は、横を行くマルコスに聞いた。


「最初の手筈では数か所の公演を実施して、疑われる事無く国境を通過する予定だったが、予定より早く通過する言い訳が思い付かない」


「そうですね……砦に着くまでに考えて下さい」


 明らかにマルコスに丸投げの十四郎は微笑むが、大きな溜息でマルコスは言った。


「最後の手段は強行突破だ、その時は頼むぞ」


「はい、血路は私が……」


 物騒な事を平然と言う十四郎にマルコスは苦笑いするが、笑ってる十四郎の表情は別に冗談を言ってる様には見えなかった。


 こいつなら、本当にやるだろう……それは、馬車の帆の上に伏せているローボの姿に証明されてる様な気がした。


「本物の魔法使い……か」


 人知を超えた何かが確かにあると、今更ながらマルコスは思った。


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