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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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慟哭

「お前は、本物の魔法使いなのか?」


 唖然と呟くアリアンナに、十四郎は曖昧な表情で答えた。


「分かりません、何故そう呼ばれるのかも」


「その腕が魔法だとは思わないのか?」


 あまりにも圧倒的な強さを見せた十四郎の正体を知りたいと、アリアンナは心の底から思った。


「鍛錬の賜物です。そうとしか、お答え出来ません」


 十四郎の表情は偽りを感じさせないが、アリアンナは納得出来ない。


「鍛錬だと? それだけで、あんなにも圧倒的強さを発揮出来ると言うのか?」


「はい……私は、魔法だとは思いません」


 答える十四郎を睨みアリアンナは更に問い質そうとするが、近付きて来たビアンカに息を飲んだ。


「私達は先を急ぎます。お願いです、行かせて下さい」


 頭を下げるビアンカの金色の美しい髪がサラリと落ちる。女のアリアンナから見てもビアンカは美しく、ラドロが手に入れたいと思う気持ちも分かった。


 しかし、十四郎に寄り添う様にして立つ、ビアンカの姿に自分でも分からない苛立ちを感じた。


「この先も、その女は障害の種になるだろうな」


「私が障害?」


 刺す様な視線を向けるアリアンナの顔を見て、ビアンカは驚きの表情を向けた。だが、その驚く顔も美しく、アリアンナは溜息を付いた。


 全く気付いてないビアンカの事が、何故だが親しみの様な感覚をもたらせた。


「本人だけよ、気付いてないのは。私はそんなビアンカが大好きなの」


 リズの言葉はアリアンナに共感を与えた。リズの十四郎を見る目は、確かに好意以上のモノを感じる。駆け付けたノインツェーンや、リルにも同じ様な雰囲気を感じ取ったアリアンナは十四郎に笑顔を向けた。


「あなたも、その女騎士と同類ね」


「はい?」


 全く状況が分からない十四郎はキョトンとするが、アリアンナは手下に号令を出した。


「戦いを止めろ! ラドロや怪我人を馬に乗せるんだ! 帰るぞ!」


「ありがとう、ございます」


 頭を下げる十四郎に、顔を近付けたアリアンナが妖しく言う。


「条件がある」


「条件ですか?」


 少し腰を引いた十四郎が困った顔をするが、顔の近さにビアンカの動悸は急上昇した。


「そのまま動くな。そして目を閉じろ」


 更に顔を近付けたアリアンナの言葉に十四郎は素直に従うが、腰の刀には手を掛けていた。


「十四郎様! 避けて!」


「十四郎! 逃げろ!」


「十四郎様! 危ない!」


 最初にリズが気付き、リルが叫び、ノインツェーンが駆け寄ろうとした瞬間! アリアンナの唇が十四郎の唇に重なった。長いキスは、ビアンカを茫然とさせ、ノインツェーンやリルが二人を引きはがすまで続いた。


「それじゃあ、な」


 笑顔で馬に乗り去って行くアリアンナに、本気で弓を射ろうとするリルの腕をココが取った。


「止めておけ」


「あいつは……」


 言葉を震えさせるリルを押しのけ、ノインツェーンが剣を抜く。今度はツヴァイとゼクスが止め、マルコスは苦笑いした。


「ビアンカ?」


 放心状態のビアンカを、心配顔のリズが覗き込むがビアンカは瞬きさえ忘れてる様だった。


「ビアンカ……たかが、キスで……」


 リズのその先の言葉はビアンカの美しい瞳から溢れ出る涙に、止められた。言葉を失うリズを残し、そのままビアンカは森の方に走って行った。


「十四郎様! 追いかけて下さい!」


 リズは直ぐに十四郎に向かって叫ぶ。


「えっ?」


 十四郎もまだ茫然としていたが、ランスローはそれを見るとビアンカを追っ掛けようとする。


「あなたは行かなくていいです」


「お前じゃない」


 ノインツェーンとリルが、ランスローの前に立ち塞がった。


「そこをどけ!」


 怒鳴るランスローの前に、今度はツヴァイやゼクス、ココが行く手を阻む。


「十四郎、何をしてる? 早くビアンカ様を追え!」


 マルコスが背中を押すと、やっと十四郎は後を追った。


___________________



 森の入り口で、やっとビアンカに追い付いた十四郎が叫んだ。


「ビアンカ殿! 待って下さい!」


 十四郎の声に一瞬振り向いたビアンカは、更にスピードを上げた。だが、十四郎の脚は直ぐにビアンカに追い付き、腕を取る。


「放して!」


 叫んだビアンカの瞳からは、大粒の涙が零れていた。


「どうしたんですか?」


 十四郎の問いは、ビアンカの胸に刺さる。”どうしたのか”それは、ビアンカが聞きたいぐらいだった。ただ、十四郎がアリアンナとキスをした……それは胸が張り裂けそうな出来事には変わりなかった。


「……」


 腕を掴まれたまま、何も言えないビアンカに十四郎は優しく聞く。


「ビアンカ殿、私のせいですか?」


「……」


「私が、アリアンナ殿と……」


「やめてっ!」


 聞きたくなかった。まだ残像として残る二人の姿に、ビアンカの胸は押し潰されそうだった。


「すみません……」


「何で、謝るんですか?!」


 俯く十四郎が謝る事さえ、ビアンカには耐えられない痛みだった。


「私が……」


「もう、いいっ! ほっといて!」


 十四郎の腕を振り払おうと、ビアンカは暴れた。だが、十四郎はその腕を離さず、思い切り引き寄せた。その勢いで、ビアンカは十四郎の胸に飛び込む。咄嗟に逃れようとするが、十四郎の腕がビアンカの背中に回った。


 そのまま強く抱き締められると、ビアンカの全身の力が抜ける。自分の意志とは関係なく、ビアンカの腕は十四郎の背中に爪痕が残る位に、強く強く抱きしめ返す。


 涙が溢れた。十四郎の匂いに包まれ、息が出来ないくらい思い切り泣いた……十四郎は黙って、ビアンカを抱き締め続けた。


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