家族
赤い仮面が、ゆっくりと十四郎を取り囲む。
「ウーノ! 脚を止めろ! ドゥーエ! 間合いを取らせるな! 二人を守れ! トーレ! 攻撃に集中しろっ!」
アリアンナは三人の赤い仮面に指示を飛ばすと、自分の袖を破りラドロの肩をきつく縛る。
「俺が、死んだ……方が、よかった……ん、じゃないか?」
途切れる言葉で、ラドロが呟く。
「黙れ! 動くな! ダンテ! 火をおこせ! 剣を赤くなるまで焼け!」
アリアンナはラドロを一喝すると、ダンテに叫ぶ。慌ててダンテが火をおこし、剣を焼いた。
「あの、三人で、魔法……使いを……止められる、のか?」
血を吐いたラドロは、折れた肋骨を押さえながら苦しそうに言った。
「うるさい、静かにしてろ!」
早く剣が焼けないかと、アリアンナは苛立つ。
「確か……ローレルの村……の」
「そうだ、お前が皆殺しにして壊滅させた村だ! その生き残りだ……あいつらは、目の前で家族を殺されたショックで言葉と意志を失った……あの仮面は、あいつらのココロだ」
言葉の最後は消えそうだった……そして、またラドロに対する怒りが、アリアンナの胸の奥で湧き出した。
「あの三人に……今なら……俺を……仇が……取れ、る」
「それでいいんだな?」
ラドロは薄笑みを浮かべるが、アリアンナは強く目を見る。ラドロの目は朦朧としながらもアリアンナを見詰めていた。
「アリアンナ様! 剣が赤く焼けました!」
「押さえろ!」
そこに赤く焼けた剣を持ってダンテが駆け付け、アリアンナがラドロを押さえ付ける様に指示する。体全体を使いラドロを押さえ付けようとするが、体格差は如何ともし難くダンテは部下を呼んだ。
「二三人来い! 押さえ付けるんだ」
四人がかりでラドロを押さえると、アリアンナは斬られて血の吹き出す腕に押し当てた。
「ぎゃあぁあ~」
物凄い悲鳴でラドロは暴れるが、弱った体では押さえ付けられ身動きが出来ない。やがて、焼け爛れた傷口は塞がり、止血は終わった。あまりの激痛に気を失ったラドロを見下ろし、アリアンナは剣を投げ捨てた。
「魔法使い……か」
何故、自分がラドロを助けたのか? 自問するアリアンナは十四郎の背中に視線を移した。
__________________________
両手に短剣を持つウーノが十四郎の動きを牽制し、槍のドゥーエが十四郎が近付かない様に槍で十四郎の間合いを切る。剣を持つトーレは戦闘態勢を維持し、攻撃の機会を待った。
「見事な連携だな、完全に十四郎の動きを封じている」
他人事みたいにローボは言うが、ビアンカは十四郎が笑ってる様に見える事が気になった。
「十四郎……どうして笑ってるの?」
呟くビアンカに、溜息交じりのローボが呟く。
「あの娘がラドロを助かけたからだろう」
その言葉はビアンカの胸を熱くさせ、十四郎の気持ちが伝わるが、三人の赤い仮面は簡単にツヴァイ達を翻弄した。その強敵に対し、現状の事など忘れ微笑む十四郎が気が気ではなかった。
「あの三人、とても危険な感じがする……」
少し声を震わせるビアンカに振り返ったローボは、全く心配してない様な声で言った。
「確かにあの三人は危険だ。人ではない、獣の臭いがする」
「お願いローボ! 十四郎を助けて!」
「私は十四郎に頼まれた。お前達を頼むと」
ローボは普通に拒否した。
「私はもう回復した! 大丈夫だから!」
叫ぶビアンカに、ローボはゆっくりとした口調で言った。
「落ち着け、十四郎の戦いをじっくり見るんだ……そうすれば、お前はもっと強くなる」
ローボの言葉は衝撃だった。もっと強くなれば、十四郎を自分の手で助ける事が出来る。ビアンカは、小さく頷くと、十四郎の動向に視線を集中した。
「ビアンカ、ローボは何て言ったの?」
さっきからビアンカがローボと話してるのを見て、不安そうなリズが聞いた。
「十四郎を守りたいなら、強くなれ……と」
「あなたなら、出来そうな気がするよ」
リズはビアンカに優しい瞳を向けた。
______________________
一旦刀を仕舞った十四郎は、三人の取り囲む中央で自然体に構える。アリアンナは三人から仕掛けない事に首を捻った。今まで、三人が敵を取り囲んで様子を見るなどなかった事だった。
「どうした?! 仕掛けろ!」
アリアンナの命令にも動こうとしない三人。それはまるで、獣が自分より強い猛獣を前に動けなくなっている様にも見えた。
「分かるのです……魔法使いの恐ろしさが」
ダンテの言葉が分かる気がした。アリアンナには十四郎の漂わる”気”は穏やかに感じるが、三人にとっては触れてはならない”圧倒的な強さ”に感じるのだろうと。
だが、先に動いたのはウーノだった。瞬時に地面を蹴り、見えない位のスピードで十四郎に迫る! 同時にドゥーエが十四郎もカウンターを防ぐ為に槍を突き出す! トーレは構えた剣で十四郎が動いた所を斬りつけ様と脚を踏ん張った。
ビアンカの目が見開かれる! 三人が同時に飛び掛かった様に見え、思わずリズの腕を掴んだ。リズの目には刀さえ抜かいない十四郎が何を考えてるのかは分からないが、ビアンカの手を握り返し、大丈夫だとココロで叫んだ。
それは、一瞬の出来事だった。甲高い金属音がすると、ウーノの二本の剣が宙を舞い、ドゥーエの槍が真っ二つに斬れた。そして、トーレの剣さえも根元から折れ地面に突き刺さった。
その後、ゆっくりと倒れる三人。十四郎はゆっくり刀を仕舞うと、アリアンナに向き直った。
「剣を何時抜いた?……」
「確かに寸前まで抜いてませんでした」
唖然と呟くアリアンナの声に、同じく唖然としたダンテが呟いた。
「もう、いいでしょう。引いてはもらえませんか?」
十四郎の表情はとても済まなそうで、アリアンナの胸は経験した事の無い痛みに襲われた。