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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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愛憎

 脚の激痛に耐え、ラドロは立ち上がる。十四郎に対する怒りより、自分自身の不甲斐なさで全身が震えた。


 周囲に目をやると、ダンテを初めとする手下達の士気は落ち次々にマルコス達弓隊に次々と倒されていた。


 ツヴァイ達は赤い仮面に押され目立つ動きは無いが、孤軍奮闘するノインツェーンとマルコスにココとリル、正味四人の敵にアリアンナの部下を含めた味方の手勢は翻弄されていた。


 ラドロにもイタストロア随一と言われたプライドがある、激痛で片足が足が動かなくても、肋骨や鎖骨を砕かれても倒れる訳にはいかなかった。


「動くのは右手だけ……」


 ラドロの様子を見たアリアンナが呟く。胸の痛みは更に増すが、何故胸が痛むのかはアリアンナには分からなかった。


 だが、自分でも分からない胸の奥の濁った思考が絡み、傷だらけのラドロから視線を外せなかった。


「父上を斬ります」


 振り返った十四郎がアリアンナを真っ直ぐに見詰めた。直ぐに返事が出来ないが、少し間を空けアリアンナが叫んだ。


「斬れ!」


 十四郎はアリアンナを見詰めたまま、刀を下げる。その後ろから、ヨロヨロと近づくラドロがクレイモアを振り上げた。


「十四郎!」


「十四郎様! 後ろっ!」


 ビアンカとリズが叫ぶが、十四郎は全く動かない。ただ、アリアンナの瞳の色を十四郎は見詰め続けた。


「斬れっえっ!」


 ラドロのクレイモアが十四郎に直撃する瞬間! アリアンナが叫んだ。十四郎は振り返る事無く、振り降ろされたクレイモアを最小限の動きで躱すと刀を一閃! ラドロの右腕が宙に舞った。


 アリアンナの瞳孔が開く、目の前で噴き出す血飛沫! 言葉すら出ずに、猛烈に体が震えた。


「止血を」


 十四郎は刀の血を掃うと、またアリアンナを真っ直ぐ見詰めた。ラドロはクレイモアを杖に倒れはしなかったが、朦朧とする意識の中でも十四郎に近付いた。


「今なら、助かります」


 アリアンナを見詰めたまま囁いた十四郎は、ゆっくりとラドロに向き直った。そのまま刀を上段に構えると、その状態で制止する。


 足元をふらつかせ、それでもラドロは十四郎に近付く。アリアンナの胸の中では言葉は失われ、激しい葛藤が渦巻いていた。


_____________________



「腕を斬り落した……」


 唖然と呟いたリズが、ビアンカの手を握り締める。


「どうして……」


 その言葉しかビアンカは言えなかった。娘の目の前で父親の腕を斬り落とす、自分だったら耐えられないだろう。


 しかし、斬る前に十四郎はアリアンナに何か言っていた……ビアンカの思考は混乱し、思わずローボを見た。


「何か聞きたそうだな?」


 振り向いたローボは、口角を上げた。


「十四郎は何故……」


「ラドロと言う盗賊は今まで残虐の限りを尽くして来た。今、ここで殺された方が多くの人には有益だ。だが、十四郎は娘に問うたのだ……」


「でも、生き残れば改心するとは思えない……それどころか、一生賭けても十四郎を付け狙うと思う」


 正直な気持ちだった。だが、その可能性は限りなく100%に近い。


「十四郎は賭けた……ゼロでは無い可能性に……改心させる事が出来るとするなら、肉親の決意しかない」


「無理よ! 普通の盗賊じゃない! あのラドロよ! 娘だって盗賊よっ!」


 ビアンカは無理だと叫ぶが、アリアンナの様子に心が揺れた。アリアンナは少し前屈みになり、遠目にも震えてる様に見える。そして、激しく葛藤している事がビアンカにも分かった。


「娘の目だ……あの目は真の悪人ではない……十四郎も気付いたんだろうな」


 ローボは振り向かないで言う。


「十四郎……」


 胸のモヤモヤが急に晴れる。ビアンカの胸は、更なる十四郎への思いで大きく膨らんだ。


__________________



 剣の届く距離、ラドロは途絶えそうになる意識を強引に引き戻す。しかし、今までの怒りや憎しみ、プライドが不思議と緩和されていた。


 その原因は、泣きそうな顔のアリアンナだった。何故、そんな顔をする? 目の前で死にゆく男は母親の仇、憎悪の対象ではないのか? 自問する自分を、ラドロは外側から他人事の様に考えていた。


「時間がありません」


 十四郎は構えた刀を微妙に動かす、その度にアリアンナの胸が張り裂けそうになる。


「……」


 だが、どんなに考えても、どんなに時間が迫っても言葉が出なかった。そして、先に手を出したのはラドロだった。十四郎は簡単に下がって避けると刀を振りかぶる、その瞬間! アリアンナは指笛を吹いた!。


 超速で赤い仮面三人が十四郎に迫る! しかし、ビアンカが見たのは口元を綻ばせた十四郎の横顔だった。


「早く止血を!」


 叫んだ十四郎は、三人の赤い仮面と対峙した。


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