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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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父と娘

 アリアンナは嬉しさに舞い上がりそうだった。小さい頃から密かに憧れていた魔法使い……その存在はアリアンナにとってよても重要だった。


「さあ、見せて……本当の魔法を……」


 嬉しそうに笑うアリアンナを見て、ダンテは顔色を変えた。既にアリアンナは十四郎の魔法に掛かってるのではないのか? それは、予感では無く確信に近かった。


 十四郎は戦い方を変えていた。ラドロの剣を同じ様な撃ち込みで受け続け、何時もの様に抜刀術を使わない。見ていたビアンカやリズも違和感を覚えた。


「十四郎様……攻撃を受けるばかり……」


「自分からは攻撃しない……」


 リズの疑問にビアンカも同調するが、ふと視線を向けたアリアンナの事が気になった。もしかしてと、リズに聞いてみた。


「リズ……十四郎、アリアンナがラドロの娘って知ってる?」


「ええ、マルコス殿の話は聞こえたと思う」


 リズの返答はビアンカに予感を与え、ローボが具現化した。


「娘の前で、父親は殺せない……十四郎には」


「……例え、凶悪な盗賊でも……親子だから?」


 ビアンカは理不尽にも感じた。他人を平気で踏み躙る盗賊が、親子だからと言って許されるのかと。


「でも……それが、十四郎様……」


 十四郎の背中を見ながらリズが呟き、ビアンカの胸がチクリと痛んだ。十四郎にとって、相手が誰かなど関係ない。そんな事知ってたのに……自分は、まだまだ十四郎になれないなと少し笑った。


「だが、相手は相当怒ってる……十四郎が手を抜いてる事を分かってる」


 ローボの言葉通り、ラドロの怒りは頂点に達しようとしていた。自分では渾身の一撃を繰り返しているのに、十四郎は簡単に受ける。


 そして、自分からは攻撃をしてこない。それは、腕に絶対の自信があるラドロにとって最大の屈辱であり侮辱だった。


「手の内を見せろ! 本気を出せっ!」


 叫ぶラドロに対し十四郎は全く表情を変えない事が、更なる怒りに火を点けた。


「ラドロ様! 奴の挑発です! 怒らせてペースを乱す作戦です!」


 青褪めた顔のままダンテが叫ぶが、頭に血が登ったラドロには届かない。


「お前、あんなクソオヤジによく付いて行くな? あいつは自分以外の事などに興味はない……手下なんか、何人死んでも眉一つ動かさない……家族だって同じさ。母さんが死んだ時もアイツは普段と全く変わらなかった……全く、気にもしなかった」


 言葉の最後は少し震え、アリアンナはラドロを睨み付けた。ダンテは何も言い返せず、目を伏せるしか出来なかった。


_____________________



 狂った様に剣を振りかざすラドロ、十四郎はその剛剣を受け続ける。周囲から見ても全力で打ち込み合う二人の体力には、溜息さえ出る。


「魔法使いよ! 遠慮はいらない! そいつを倒せ!」


 十四郎の戦いぶりに、興奮したアリアンナが叫んだ。


「貴様っ! 親を裏切るのかっ!」


 ラドロはアリアンナの態度に、切れて怒鳴り付けた。


「親だと? 母さんを殺したのは、お前だっ!」


 負けじと怒鳴り返すアリアンナの脳裏には、ボロ布の様に捨てられ死んでいった母親の事が蘇った。貴族の元に生まれ、高貴で優しかった母親……だが、その美しさが災いし、ラドロにさらわれアリアンナが生まれた。


 だだの一度も抱いてくれた事はなかった、娘として接した事もなく、親子の思い出などは皆無だった。


 その瞬間、怒りに我を忘れたラドロが腰の短剣をアリアンナに投げた! だが、短剣はすぐ傍の地面に落ちた。何が起こったのか? あまりに一瞬の事でアリアンナにも投げたラドロにも分からなかった。


「ラドロ様が投げた瞬間、魔法使いの剣が……」


 目を見開くダンテが見たのは、投げた瞬間に短剣を払い落とした十四郎の刀の凄まじい速さだった。当然、刀身など見えるはずもなく、ダンテはただ茫然とした。


 我に返ったラドロが十四郎を見ると、その顔には怒りの表情が浮かんでいた。


「そうだ、その眼だ!」


 ラドロが叫んだ瞬間! 十四郎が超速で間合いを詰める。即座の攻撃を察知したラドロは、クレイモアで防御の態勢を取るが、物凄い衝撃が顔面を襲いそのまま後ろ向きに吹っ飛んだ。


「今、左手で……」


 唖然と呟くアリアンナは確かに見た。ラドロが構えるより早く左手で鞘を抜くと、十四郎はラドロの顔面を張飛ばしたのだった。


「レオンの時と一緒……」


 ビアンカに記憶が蘇る……レオンが自分に向けて剣を投げて……十四郎がレオンに対する怒りを表した時の様子が。


「今のは効いた……」


 口元から血を流し、ラドロが立ち上がる。その顔は笑いと怒りが混じり合う凄まじい形相だった。だが、十四郎は猶予を与えない。さっきよりも更に速く接近すると、上段から斬り下ろす!。


 クレイモアで受けようとするラドロだったが、確かに受けたはずが、まるで自分の剣を通り抜ける様にして十四郎の刀が鎖骨にめり込んだ。そのまま超速で引かれた刀は、手首を返すと同義に横に薙ぎ払われラドロの肋骨を粉砕した。


「ぐっ……」


 雷の様な痛みが脇腹を襲った瞬間、十四郎の蹴りが今度は蟀谷に炸裂した。一瞬、意識が飛びそうになるが、歯を食いしばり意識を引き戻す。薄れれる意識の中でも、ラドロはクレイモアを横に一閃する。


 だが確かに間合いも合ってるはずなのに、手応えは空気を斬るような曖昧な感じで手の中で空回りした。


「何故、だ……」


 言葉にしたつもりでも声さえ喉の手前で空転し、強烈な吐き気が胸を襲った。そしてまた、物凄い痛みが今度は太腿付近を襲った。


 十四郎はラドロの横薙ぎを瞬時に下がって躱し、その瞬間に前に出てラドロの太腿付近に渾身の峰打ちを見舞ったのだった。


 片足の大腿骨は砕け、ラドロはバランスを失い倒れる。その様子に、アリアンナにとって何故が胸の奥が痛んだ。自分でも分からなかった、本気でラドロが倒されればいいと思っていた。


「どうして……」


 ラドロが敗れる……死ぬかもしれない……呟いたアリアンナの思考は胸の中の、かなり上部で停止した。



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