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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  槍2  

間合いを開けたまま、微動だにしない二人。ビアンカは睨みあう視線の先に火花が見えた気がした。観衆も静まり返り、息を飲む。


 先に十四朗が動く、構えたまま素早く前に出る。間合いを見きったファルケンは、勝利を確信し、力を込めて突く。


「こちらが速い!」


 ファルケンが前に出た瞬間、十四郎は抜刀? した。風圧さえ感じる太刀筋、その動きがファルケンの視界で残像に見えた瞬間、槍の穂先がファルケンの右首筋を強烈に捉えた。雷にでも撃たれた様な衝撃、意識は瞬間に断たれた。


 倒れ落ちるファルケンを呆然と見ていたビアンカの目には、鮮明な残像が残っていた。抜刀して槍が加速状態の頂点になると、十四郎は握った右手の力を瞬間だけ緩め槍を伸ばす、ファルケンを捉える刹那に再び握ると右手は石突に達し、そのまま渾身の打撃を行ったのだった。


 つまり、物凄く長い刀で抜刀したのと同じ様な状態だったのだ。


 十四郎はファルケンに近付くと、抱き起こし背中に(活)を入れた。意識を取り戻したファルケンは、穏やかに微笑んだ。


「お見事でした……まだまだ、槍にも、使い方はある」


「いいえ、その場凌ぎの騙し手です」


 俯き加減の十四郎は、静かに否定した。


「騙し手、か……ならば、見事な騙し手でした」


 ファルケンは、微笑むと角度を変えて称賛した。


_________________________



「見たかバンス? 槍が伸びよった」


 驚くライアは、興奮気味に立ち上がる。


「その様で……」


 少し震えながらバンスも呟く。


「面白い、実に面白い。妾は魔法使い殿を確信したぞ」


 嬉しそうに笑うライアに、バンスはまた違う冷や汗を流す。頭の中では、何十通りもの無理難題が渦巻き、バンスは頭を抱えた。


_________________________



「ビアンカの時と同じ様な技でしたが、まるで槍が伸びた様な……でも、見事な一撃」


 驚きと称賛を交え、リズが呟く。


「確かに最初は受け身だったが、まさか、あのファルケン殿を一撃で……」


 十四郎の引き出しの多さ、瞬間的機転と、それを支える常人を越えた技術にザインは感銘どころか恐怖さえ覚えた。しかし、それ以上にもっと見てみたいと言う欲望が勝る。


「楽しみだな、魔法使い殿はどんな戦いをするのか」


 自分に言ってる様に呟くザイン。


「確かにそうですね」


 リズも頷くが、遠くに見えるビアンカと十四郎に笑顔を向ける。何故、あんな凄い戦いをする十四郎が畏服の対象ではなく、希望? そんなものに近い感情を抱かせるのかと不思議に思いながら。


__________________________



「十四郎……」


 ビアンカは十四郎が勝って嬉しいはずなのに、何故か不安にも似た気分に包まれる。圧倒的強さとは、何なのかと言う疑問も浮かぶ。しかし、勝者にありがちな高慢さも威圧感も、十四郎には全く無いのだ。


 それどころか、謙遜と謙虚さに満ちた十四郎の態度に今までの常識を覆される。安心感? 安堵感? そんなものが入り交ざる不思議で暖かな感情だけしか残らなかった。


 「すみません、また卑怯な手を使いました」


 すまなそうに頭を下げる十四郎に、ビアンカはぎこちなく笑う。


「いいえ、まるで魔法を見ているようでした」


「魔法と言うより、奇術だな」


 足元のアミラが、背伸びをしなが呟く。


「ごもっともで」


 照れた様に頭を掻く十四郎に、ビアンカは何故か癒された気がした。


__________________



 エオハネスは国王の横で胸騒ぎに囚われていた。十四郎の戦いは派手ではないが完全に民衆の心を捉え、その歓声が今までに感じた事の無い何かを予感させる。


 幸い国王は病気の所為もあるのだろうか、反応はそれ程でも無い様に感じられた。それは安心材料だが、他の試合で心に引っかかる試合を見付けた。直ぐにジスカームを呼び、少し離れた陰で待った。


「もしや、あの男ではないのか?」


「はい」


「何故だ?」


「ある方に……」


「その者の入れ知恵なのか? 何者じゃ?」


「それは……」


 ジスカームが口籠る事自体、あり得ない事だがエオハネスの胸騒ぎは、それだけに終わらない。


「しかし、どうして……あの男は牢獄に居たはずだが?」


「陛下の恩赦です」


「私は何も聞いてないぞ」


「こちらで手を回しました」


「陛下の御採択では無いと申すか?」


「はい……しかし、魔法使いを試すには、この方法しか無いかと」


 試合は始まり、今更後戻りは出来ない。予感は更に大きな胸騒ぎとなるが、エオハネスはジスカームを下がらせた。確かに試さなければならない、その重要性が全ての疑惑を打ち消した。


「この国の行く末が、掛っている」


 呟いたエオハネスは、大きく息を吐くと国王の元へ戻った。


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