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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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両手剣

 ラドロと正対した十四郎は、一度刀を仕舞う。左手で親指で鯉口を切ると右手を柄に添え、少し膝を曲げ半身に構える。


 見た事も無い構えに、ラドロは間合いの感覚が掴めない。何より十四郎の醸し出す殺気が今までとは全然違った。怒りに任せた感じが消え失せ、澄んだ瞳が静かに闘志を燃やしていた。


「どうだ? 十四郎は?」


 少し離れた場所にビアンカを下ろすと、ローボは落ち着いた声で聞いた。


「十四郎から怒りが消えてる……でも、全てが消えた訳じゃない」


「そうか……」


 十四郎の方に視線を戻したローボの横顔は、笑ってる様にも見えた。


「ビアンカ!」


 駆け付けたリズがビアンカを震える腕で抱き締めた。


「……ごめんなさい、私は大丈夫……」


 リズの背中に腕を回したビアンカは小さな声で言った。


「どうして無茶ばかりするの?!」


 思わず大声になるリズにビアンカは消えそうな声で言う。


「止めなきゃいけないと思った……十四郎が、遠くへ行くんじゃないかと思った」


「確かにいつもの十四郎様じゃなかった。盗賊達は両手の親指を打ち砕かれていた……それは、多分……二度と剣を使えない様にする為だと思う」


「どういう事?……」


 唖然とするビアンカに、リズは少し笑って説明した。


「十四郎様は、怒ってたんだと思う……ビアンカを狙う者達に……」


”誰にも渡さない”……十四郎の言葉が脳裏に蘇り、ビアンカの心臓は止まりそうになる。


「私は……」


 言葉が出ないビアンカ、リズはもう一度強く抱き締めて言った。


「見ていなさい……十四郎様の戦いを」


_______________________



 今まで多くの戦いを経験して来たラドロも、初めての感覚に戸惑う。確かに強さは感じるが、相手を支配する殺気などは漂ってはいない。


 強いと言われた相手と何度も戦って、その中で共通する殺気の存在が十四郎には無いのだ。


「何なんだ? お前は……」


 唖然と呟くラドロは、クレイモアを振りかぶる。ビアンカの時は確かに力を加減していたが、今度はその必要はない。何度も剣ごと相手を真っ二つにして来た剛剣が、十四郎に振り下ろされた。


 十四郎はラドロの剣に合わせて抜刀、やや下方から剛剣を受け止める。飛び散る火花と、豪快な金属音が周囲に響き渡る。一撃は受けると想定していたラドロは、弾かれた剣を大きく瞬時に引くと、更に強く二の太刀を浴びせた。


 弾いた剣の軌道を見ながら十四郎もまた刀を振り上げ、受けるのではなくて斬り込む。その刀の威力は凄まじく、ラドロの剣を弾き飛ばした。


「ほう、大した力だ!」


 叫ぶラドロが、ゆっくりとクレイモアに左手を添えた。


「ラドロ様の両手剣など、初めて見た……」


 茫然と呟いたダンテを尻目に、アリアンナが不敵に笑った。


「オヤジ様も、本気を出さないと勝てないって訳か」


 ラドロが両手で構える。それまでの粗暴な感じが消え失せ、品格? の様な雰囲気が十四郎を包み込んだ。まるで名のある正騎士と対峙している様な厳格な佇まいに、一旦下がった十四郎は刀を構え直す。


「気を付けろ! 元はイタストロアの皇帝騎士団だ! その中でも最強と言われたのがラドロだ!」


 マルコスも戦いながら十四郎に叫ぶ、振り向いた十四郎は小さく頭を下げる。だが、その顔には微笑みがあった。


「笑ってやがる……」


 呆れたマルコスも、思わず笑みを漏らした。


「まるで、楽しんでる様だな……」


 アリアンナは十四郎の態度を見て上機嫌だった。しかし、十四郎の視線は、ラドロと言うより、何度もツヴァイ達に向けられていた。


「仲間が心配で、オヤジなど眼中に無いと言うのか?……魔法使いよ! 片手間で戦える相手じゃないぞ!」


 言葉の後半、アリアンナは十四郎に向けて叫んだ。


「俺の事より、魔法使いを応援している様に聞こえる……ならば、その目の前で魔法使いを切り刻んでやる……大陸最強の正統皇帝騎士の剣でな」


 明らかに不機嫌になったラドロはアリアンナを見据えるが、全く意に介さないアリアンナは十四郎だけを見詰めていた。


____________________



「ランスロー殿! 深追いはダメです!」


 両手剣の赤い仮面に翻弄されるランスローは、次第に苛立ち始める。自分を倒すと言うより、明らかに引き離そうとする意志を感じるが、それを振り解く事が出来ないでいた。


 打ち込む剣は二本の短剣で、ことごとく受け返され、移動しようと突き放しても素早く回り込まれる。ツヴァイの叫びも興奮したランスローに届かず、悪戯に時間と体力を消耗するだけだった。


「素早いだけの両手剣など!」


 叫んで剣を振り下ろすランスローだったが、その赤く不気味な仮面は息一つ乱さずランスローの攻撃を躱し続けた。


 ツヴァイの相手、長剣を持つ赤い仮面もまた自らは攻撃せず、ツヴァイの打ち込みを躱して足止めする事に専念していた。ツヴァイの剣技を持ってしても突破は容易ではなく、守りに徹した相手に苦戦を強いられていた。


「防御だけの相手が、これ程やりにくいとは……」


 呟くツヴァイだったが、ふと相手が反撃に出た場合の事が頭を過る。受けるだけの防御でこらだけ強いなら、本気で向かって来たら……そう考えただけで、背筋を悪寒に包まれた。


 槍を持つ赤い仮面も自らは攻撃せず、ゼクスの動きを封じる。ゼクスの剣技は高速剣、特に槍を持つ相手には有効で、素早い足技で懐に飛び込み槍の死角から倒す事を得意としていたが、相手は槍を低く構え、ゼクスの足技を封じる。


「槍と言うより、長い腕だな……」


 呟くゼクスは何度か槍を払いのけ、懐に飛び込もうとするが、その度に後ろに跳んで間合いを維持された。攻略の糸口が掴めないまま、ゼクスも苛立ち初めていた。


 マルコスを始め、ココやリルの弓手も新たに戦線に加わった集団に手こずっていた。頑丈な盾に身を隠し、攻めると言うより戦線を維持しようとする意図を突破出来ないでいた。


 マルコスの剛弓さえ弾き返す盾に全身を隠す戦法は、一瞬の隙間を狙い腕や脚を射抜くしかないが、普通の兵とは明らかに違う練度で、その隙さえ与えない。


「ココ! リル! 弓を温存知ろ! あの盾は射抜けない!」


 残り少なくなった弓を節約しろと叫ぶしか、今のマルコスには出来なかった。この状況を挽回するには……マルコスは、十四郎の背中に託すしかなかった。


「ツヴァイ達も苦戦してる。こっちに戻ることさえ出来ない」


 ビアンカを抱きしめたままリズは呟くが、ビアンカは一点、十四郎を見詰め言葉を発しなかった。


「心配か?」


 ビアンカとリズを守る様に、傍に寄り添うローボが振り返った。


「……」


 小さく頷くだけのビアンカに、ローボは落ち着いた声で言った。


「十四郎が本気で戦えば、どうなるんだろうな……」



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