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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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烈火の魔女

 打ち降ろされる剛剣! 火花を散らして受け流すビアンカの姿は見る者を驚愕の境地に誘い込む。優に倍以上の体格差を跳ね除け、ビアンカは互角以上に戦っていた。


「ビアンカ凄い……あのラドロを押してる」


 唖然とした表情のリズは呟くが、マルコスの顔色は悪かった。


「今の所はな……あの男がイタストロアで随一の盗賊になったのには訳がある」


「訳?」


「その訳は一つ……ラドロは疲れない……奴の体力は無尽蔵だ。最初は押してる様に見えても、相手は徐々に疲れ出す。そして、最後に立っているのは何時もラドロだ」


 マルコスの話にリズの胸が凍り付きそうになった時、早くも兆候が現れ出した。ラドロの剣を受け流し続けるビアンカの表情が、苦痛に歪みだしたのだった。


「ほう、苦痛に耐える顔も美しい」


 際限無く振り降ろされる巨大なクレイモアの威力は、徐々にビアンカの体力を奪う。如何にスピードや瞬発力で勝っていても、ラドロの棍棒の様な筋肉の腕と、か細いビアンカの腕ではあまりにも差が有り過ぎた。


 ラドロの剣を受ける度、ビアンカの両腕が悲鳴を上げる。軋む関節や激痛の走る手首、腕全体から乳酸が噴き出す感覚にビアンカの表情は更に歪んだ。


 初めのうちは攻撃も出来ていたが、今は防御が精一杯で攻撃の余裕がない。ビアンカに勝機があったとすれば序盤だったが、十四郎の様にと拘った結果、唯一のチャンスは水泡となった。


「このままじゃビアンカが!」


「そうだな、ビアンカ様の体力も長くは持たない」


 マルコスも支援を考えるが、真っ先に飛び出したのはランスローだった。


「来るなっ!」


「ビアンカっ!」


 叫んだビアンカの前を通り越し、ランスローはラドロに渾身の一撃を加えるが、ラドロは腰の短剣を抜くとラドロの剣を簡単に受けた。


「何だお前?」


 睨み付けるランスローを、比較にならない凶悪な顔でラドロは睨む。ビアンカとランスローの剣を両手で受けても、ラドロの勢いは止まらない。その時新たな敵が戦線に加わった。


「マルコス殿! 新手が!」


 ツヴァイは側面の森から新たに加わる一団を見て叫ぶ。


「そんなはずは無い! 確かに周囲にはいなかった!」


 偵察をしたココは叫ぶが、事実は変わらない。しかし、その集団の先頭に立ち指揮をする人影にマルコスは愕然とした。


「アリアンナだ……」


 その愕然とした顔に、リズも血の気が引いた。


「何者ですか?」


「ラドロの娘、烈火の魔女アリアンナ……オヤジ以上に強烈な盗賊だ」


 近くで見るアリアンナは身長はビアンカと変わらない位だが、ノインツェーンを遥かに凌ぐ妖艶なボディに、魔女と呼ぶに相応しい神秘的な美しさをまとっていた。


 銀色に輝く全体にカールした髪が腰の辺りで色香を発散させてはいたが、魔女と言われる所以、危険を匂わせるオーラも半端なく漂わせていた。


「いい女ですね」


 少し見とれたツヴァイが呟くが、マルコスは即座に否定した。


「イタストロアの女は強烈に気性が荒い、その中の頂点に立つのがアリアンナだ。外見に惑わされると、痛い目所じゃ済まないぞ」


 有利に傾きかけていた戦況は、アリアンナの出現で、あっと言う間に逆転された。


________________________



「おう、アリアンナか? 手助けは無用だ!」


 剣を振り下ろしながらラドロは叫ぶが、アリアンナは見向きもしなかった。


「ダンテ! 魔法使いはどいつだ!」


「アリアンナ様、ラドロ様の支援にいらしたのでは?」


 少し震えるダンタに、アリアンナは妖艶な笑みを浮かべた。


「オヤジなどどうでもいい! アタシが来たのは魔法使いを見る為だ!」


「あそこに……」


 ダンテが指差す方向には、ビアンカの戦いを見詰める十四郎の姿があった。イメージとは随分違うが、寄り添うような巨大な銀色の狼と十四郎の優しい面持がアリアンナの中で絶妙にマッチした。


 馬を止め、そのまま十四郎から視線が外せなくなったアリアンナは、そのまま十四郎の背中を見続け、傍に付き添う三人の男達に命令を下した。


「あの男を引き離せ」


 黙って頷く三人の男は体格は三人三様だが、全員が赤い無機質な仮面を付けていた。


「あれは”赤き死の仮面”……噂には聞いていたが」


 マルコスは握る弓が小刻みに震えながら青褪めた。アリアンナに付き従う三人の死神……それは、まさしく”死”の仮面。


 物凄い速さでランスローに突進する、小柄な男は両手の短剣でランスローの剣を受けラドロから引き離す。大柄な男は巨大な槍で、更にランスローを遠くに追い遣った。最後の男は長剣を背中から抜くと、ランスローが近付かない様に牽制した。


「ツヴァイ! ゼクス!」


 マルコスの叫びでツヴァイとゼクスが支援に駆け付ける。


「無用だ!」


 言葉では拒むが、ランスローの剣を握る手は汗でびっしょりだった。ツヴァイもゼクスも剣を握る手が汗で滑る。青銅騎士の彼らでさえ、仮面の男達の異様な殺気に生唾を飲んだ。


________________________



「余計な事を……」


 怪しい微笑みでラドロはアリアンナを見るが、アリアンナの視線は十四郎に向けられたままだった。ビアンカは突然現れた仮面の男達に一瞬気を取られるが、視線を強めてラドロに集中する。


 ラドロがアリアンナに気を逸らせた瞬間に斬り込もうとしたが、震える脚が既に言う事を聞かなかった。


「もう限界か?」


「……」


 挑発する様なラドロの言葉にも、ビアンカは答える声さえ出なくなっていた。少しでも気を抜けば、クレイモアはビアンカの身体を切り裂くだろう。


 だが、ビアンカを支えているのは、すぐ近くで心配そうに見詰める十四郎の存在だった。自分で言っておきながら、体力が続かない事が情けなくなるが、歯を食いしばって耐えた。


 ラドロは少し飽きて来た。確かにビアンカは美しく、剣の腕前もたいした物だが、ビアンカを見ていると絶対に手に入らないと分かる。


 確かに胸を刺された時は怒りで我を忘れそうになったが、弱って行くビアンカを見てると所詮そんなものかと気分は落ち着いた。


 そうなれば他人の手に渡すよりはと、考えが変わる。


「そろそろ終わりだ、もういい」


 ラドロはクレイモアを持つ手に力を込める。意識が朦朧とするビアンカは、次の一撃は受けれないと悟った。ラドロは今までより、大きく振りかぶるとビアンカ目掛けてクレイモアを一閃した!。


 飛び散る火花と甲高い金属音! しかし目を見開いたビアンカが見た物は、ラドロの剣を受ける十四郎の姿だった。


「ビアンカ殿、もう止めましょう」


 耳元で囁く十四郎の声に、迷いは無かった。


「ローボ殿、ビアンカ殿を頼みます」


 直ぐ様、ローボはビアンカを背中に乗せて距離を取りながら言った。


「もう、大丈夫だな」


「はい」


 しっかりと返事した十四郎は、ラドロと正対した。


「魔法使いはオヤジに勝てるのか?」


 馬から降りたアリアンナは、口元を綻ばせた。


「アリアンナ様、あの魔法使いは危険です。如何にラドロ様と言えど……」


 後ろから声を掛けるダンテを、振り向いたアリアンナは美しい瞳で見据えた。


「言ったはずだ、オヤジなどはどうでもいい。アタシが興味あるのは魔法使いだけだ」



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