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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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届かぬ想い

 ビアンカは涙に濡れた瞳で、十四郎の前に立っていた。


「今のあなたは、違う人に見える……私の知ってる十四郎は、そんなんじゃない……」


「私は……ただ……」


 言葉を詰まらせ、真っ直ぐに見返せない十四郎にビアンカは涙声で言った。


「本物の柏木十四郎が、どんな人なのか教えてあげる」


 ビアンカはそう言うと、ポケットからリボンを取り出し髪をポニーテールに結んだ。そして、強い視線をラドロに向けた。


「なんと美しい……もしかして、あれが踊り子か?」


 敵意の視線さえ、見詰めれらた者を虜にするビアンカの瞳の輝き。ビアンカ自身が気付かないだけで、その引力には例外はなかった。


「聞いた事があります……大陸でも屈指の美貌と言われる女騎士の噂を……確か、モネコストロ近衛騎士団のビアンカ・マリア・スフォルッア 」


 記憶を探るまでもない。ビアンカの美貌は天馬アルフィンさえも置き去りにする程に、大陸中で有名だった。


「必ず手に入れる……」


 ラドロの目付きが変わる。ビアンカを前にすれば、十四郎さえ最早眼中になかった。


「お前がラドロか?」


 思い切り強めるビアンカの声だが、ラドロにとっては天使の囁きに聞こえ、その顔は歓喜に歪んだ。


「お前が我が物になれば、他の者は見逃してやろう」


「見逃すだと? 状況が分かってない様だな」


 ゆっくりと刀を抜いたビアンカの前に十四郎が出ようとするが、ビアンカは振り向かずに片手で制した。


「……あなたは、そこで見ていて。言ったはず、本物の柏木十四郎の戦い方を見せると」


「お前は見てろ」


 ローボもまた、十四郎を制した。


「しかし……」


 食い下がる十四郎に、ローボは強い視線で言う。


「今のお前は普通じゃない。気付いていれば正す事も出来るが、気付かない事が最悪なのだ」


 確かに自分では気付かない、ビアンカやローボの言葉や態度が十四郎を追い詰めた。だが、ローボもビアンカも決して見捨てた訳ではない、十四郎の為に出来る事をしようとしているのだ。


「分かりました」


 身を引く十四郎には、それだけしか確実に分かる事はなかった。


________________________



 刀を構えるビアンカにラドロは不思議な感覚を抱く。強いとの噂を聞いていたが所詮女、簡単に叩き伏せられると鷹を括っていた。だが、ビアンカの構えには不思議な威圧感があり、ラドロの思惑は混乱した。


 顔や体を傷付けずに倒すのは、どうやればいいか? そんな事を考える脳内はビアンカの構えで考えを改めさせられる。


「ラドロ様! 油断を……ぐっ!」


 言い掛けたダンテを張飛ばし、ラドロは巨大なクレイモアを抜いた。普通の人間なら両手でも持て余す大きさと重さだが、ラドロは軽々と振り回す。


 一度片手で構えるとラドロはクレイモアを振り、様々な型を披露して威嚇する。クレイモアが振られる度に空気さえ震わせ、風を切る音が周囲に鳴り響いた。


「師匠! ビアンカ様がラドロに!」


 ココが叫ぶが、マルコスは落ち着いた声で制した。


「十四郎が付いている、余所見をするな。今のうちに敵を殲滅しろ」


 頷いたココは矢を射り続けるが、横目で見た十四郎の姿が気になって仕方なかった。ビアンカの後方で、肩を落とし茫然と立ってる様に見えたのだ。


「ココ! 十四郎は大丈夫だ!」


 思い掛けないリルの大声に、ココは我に返る。戦い続けるリルの顔には一転の曇りもなく、信じている事が言葉にしなくても伝わった。ココは大きく深呼吸し、気を取り直すと必殺の矢を射続けた。


「ゼクス! ノインツェーン! 一気に殲滅するぞ!」


 ツヴァイも十四郎の事は気になるが、今は敵の殲滅に専念する事を優先させた。ゼクスもノインツェーンも同じ気持ちだった、ビアンカに任せるのが最善だと、立ち向かうビアンカの背中に思っていた。


「ビアンカ……」


 呟くリズは、ビアンカの背中がとても遠く見えた。駆け付けたい衝動はあるが、剣を振る事で精一杯だった。リズとて盗賊などには引けは取らないが、十四郎やビアンカの様な戦い方には不慣れで苦戦を強いられていたから。


__________________________



 ラドロのパフォーマンスにビアンカは眉一つ動かさない。それどころか、ジリジリと間合いを詰め攻撃の機会を狙っていた。構えた刀を八双に構え、やや半身に構えるその姿はラドロでさえ警戒させた。


 多分、異国の物であろう細身の剣が、しなやかな腕に美しくマッチしている……そう考えるラドロだったが、傷付けずに攻略する糸口は見付けられないでいた。


 だが、ビアンカの剣を吹き飛ばせは、組み付いて押さえる事が出来る。作戦を決めたラドロがクレイモアをビアンカの刀目掛けて振り下ろす。


「何っ!」


 振り下ろされたクレイモアを簡単に受け流すと、ビアンカは横薙ぎ一閃! ラドロの鎧に猛烈な一撃を加えた。一瞬、苦痛に顔を歪めるが、お構い無しにクレイモアを返すと、下方から切上げる。


 当然、直撃は避ける威嚇の攻撃だが、まるで意図が分かる様にビアンカは避ける事はせずに反対に距離を詰め、突きを繰り出した。それは切先だけが鎧に刺さる突きで、物凄い速さで三段突きを見舞う。


 三か所の傷跡は、ラドロのプライドを引き裂いた。流れ落ちる自分の血を舐めたラドロは、悪魔の様な形相でビアンカを見る。


「お前は……天国で、俺の物にしてやる」


「出来るものなら、やって見ろ」


 刀を構え直したビアンカは、負けない視線で言い放った。



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