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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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迫り来る圧力

「何をしてる! 行けっ! 殺せっ!」


 最早、ダンテに試している余裕など皆無だった。ついさっきの十四郎の動きが、まるで夢が幻の様に感じるが、立ち止まる事は右腕と呼ばれるダンテでさえ許されない。


 十四郎はゆっくりと刀を抜く。残った男達は動けないでいたが、我に返ったダンテの叫びに無意識に体が反応した。それは血の掟、戦いを前に逃げる事は”死”と同義なのだ。


 例えどんな恐ろしい敵が待ち受けていても、戦いを挑むしかなかった。戦えばコンマ1%でも助かる確率はあるが、逃げれば100%の死が待っているだけなのだから。


 斬り掛かって来る男達の形相は物凄い。特に十四郎の魔法の様な技を見せられた後では、挑んで来る迫力が段違いだった。


「うぉおおお!」


「はぁあああ!」


 物凄い雄叫びで男達は切り掛かる。だが、十四郎の刀は剣を握る男達の親指を的確に打ち砕く。今度こそと、ダンテが物凄い集中で動きを追うが、十四郎が一度しか振り下ろしていないはずなのに、男達の両方の親指が同時に砕ける。


「有り得ない……何故なんだ……」


 見えない程の速さで二段打ちしているとしか、考えれらない。実際、十四郎は超々速で二段打ちをしているのだが、ダンテには俄かには信じられなかった。


 十四郎は次々に相手の親指を打ち砕いた。ダンテが考えを巡らせている間に、立ってるのはダンテだけになっていた。


「帰って伝えて下さい。全員の手を使えなくすると」


 刀を仕舞った十四郎の低い声はダンテの背筋を凍らせ、馬に跨ると一目散に走り出した。何度も振り返り、後ろを確認した。恐怖で脚が震え、手綱を持つ手に汗が滲んだ。


_____________________



 ビアンカの元にアルフィンが帰って来た。十四郎が乗っていない事に、ビアンカの心臓は止まりそうになる。駆け寄りたくても足が動かず、声は喉の手前でカラ回りした。


 アルフィンは必至で状況を説明するが、ビアンカの頭には何も入って来なかった。だが、急にビアンカの背中を強く何かが押した、振り返るとシルフィーの真剣な瞳が見詰めていた。


「しっかりしなさい。アルフィンの言葉を皆に伝えられるのは、あなただけなのよ」


 初めて聞くシルフィーの叱咤する様な言葉に、ビアンカは我に返った。大きく深呼吸して、マルコス達に話すと、マルコスの表情が変わった。


「もしかしたら、ラドロかもしれない」


「ラドロ? 誰ですか?」


 マルコスが呟き、ビアンカは胸の鼓動を抑えながら聞き返す。当然、マルコスの真剣な表情が事態の深刻さを表していた。


「イタストロア最強最悪の盗賊だ。強いだけじゃなく、頭も切れる……もし奴なら、かなり厄介だ」


 聞いた途端、ビアンカはシルフィーに飛び乗った。当然、アルフィンも後を追って走り出した。


「ビアンカ! 待って!」


 リズの叫びも今のビアンカには届かない。リズの胸は物凄い力で圧迫されるが、ビアンカがマルコスの言葉を聞いた時の泣きそうな顔が脳裏にそっと蘇る。


「ほんと……分かり易いんだから」


 真っ直ぐで、正直なビアンカ……”敵わないな”……ココロで呟いたリズは、大きな溜息を付いた。


 唖然と見送るマルコスだったが、大きな溜息の後に指示を出した。


「ココ! 道を見付けろ。後方に回り込む。ラナ様と坊主達の護衛を残して後に続け」


「ランスロー、行きなさい。バンスがいるから大丈夫」


 走り去ったビアンカの後姿を茫然と見ていたランスローに、ラナが落ち着いた声を掛ける。ランスローは真剣な顔で一礼すると、直ぐに馬に飛び乗りビアンカの後を追った。


 結局、バンスが筆頭になりラナとダニー達を守り、フォトナー以下の部下が護衛に付く事となった。万が一を考え、ラナ達一行は途中の町に向け引き返す手筈になった。


 それはラナの言い出した事であり、バンスはラナを穏やかに見詰める。


「何だ? 私に出来るのは、十四郎の足手まといにならない様にする事だけだ」


「それで、よろしいのですか?」


「それしか……出来ない」


 バンスの問い掛けに、ラナは少し微笑んだ。


「強くなられましたな」


「そんな事は、ない……」


 ラナは遠くに見える森の方を見ながら、誰にも気付かれ無い様にそっと手を握り締めた。


______________________



「お頭! 魔法使いは本物です!」


 ラドロの元に飛んで帰ったダンテが、馬から飛び降りながら叫んだ。


「そうか。で、他の奴は?」


 少し笑ったラドロは、ダンテが一人だけな事に首を傾げた。


「全滅です。皆、指をやられました。二度と剣はつかえません。そうだ、魔法使いは全員を剣が持てなくすると言いました!」


 思い出したダンテの顔が蒼白になり、小刻みに震えた。


「全員と言う事は、俺もか?」


 物凄い視線、ダンテは心臓が凍り付く程の恐怖を覚え、違う意味の震えが全身を襲う。


「敵襲!!」


 その時、はるか前方で声が響き渡り、悲鳴と怒号が空間を交差した。


「何事だ!」


 立ち上がったラドロが前方を凝視するが、遠く霞んで音だけが飛び交っていた。


「分かりません、前の方に敵が現れたみたいです」


 報告する男も事態の把握など出来るはずもなく、ただ焦っているだけだった。”現れた”その言葉は震えが止まらないダンテを強烈に圧迫した。正直、ラドロは恐ろしい……だが、十四郎の放つ恐怖は人知を超えダンテを物凄い圧力で追い詰める。


「見て来い!」


 男はラドロの怒鳴り声に、弾かれた様に走って行った。直ぐにダンテが血相を変えて叫ぶが、ラドロは最後まで言わせない。


「お頭! あの魔法使いは危険です! 直ぐにこの場から!……」


「逃げろと言うのか? この俺に?」


 その凄まじい形相は、ダンタからそれ以上の言葉を奪った。


「あそこです! 一人です!」


 ダンテの恐怖を、他の声が救った? 否、その恐怖に拍車を掛けた。目を凝らしたダンテの視界に、確かに十四郎の姿が映った。


「あいつか?」


 仁王立ちのラドロは、ダンテを振り返る事なく十四郎に祖先を固定したまま恐ろしい声で呟いた。


「あいつです! あれがモネコストロの魔法使いです!」


 叫ぶダンテを置き去りにして、ラドロは身も凍る微笑みで遠く十四郎を見据えた。



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