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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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怪物の復活

「七子様……魔法使いの動向を掴みました」


 部屋に入って来たドライが鋭い眼光で、七子を見た。


「続けろ」


 視線を向けないまま、七子は椅子に片肘を付く。


「魔法使いは現在イタストロア国内にいます。大道芸人として、旅をしている模様です」


「大道芸人だと……」


 口元を綻ばせ、七子がドライに視線を向けた。


「はい……しかも、イタストロアの入国にはプリンセス・オブ・ライアを使っていました」


「マカラの船を沈めたのは、十四郎と言う事か?」


 七子の中で何かが繋がった。


「おそらく」


「お前の考えは?」


 視線を外さないままで、七子はドライの目を見据えた。


「本当の意図は分かりませんが、予測でよければ」


 ドライの口調は、あまりにも淡泊で七子は少し苛立ちを見せた。


「勿体ぶるな」


「イタストロアの動向を探る為にしては大人数ですし、姿を見せた場所がエスペリアムに近い事が気になります。やはり、真の目的はエスペリアムにあると」


「エスペリアムと、どういう関係がある?」


「それはまだ……」


 言葉を濁すドライだが、口調は変わらない。


「目的を探れ」


 七子は言い放ち、席を立とうとするがドライは続けた。


「はい……もう一つ、ご報告が」


 ドライは頭を下げたまま言った。


「アインスの件か……」


 浮かした腰を椅子に戻すと、七子は小さく溜息を付いた。


 十四郎に打ち負かされて以来、アインスは魂を失った人形の様になっていた。一言も言葉を発さず、膝を抱えたまま部屋に閉じ籠っていた。


「先日行われました、青銅騎士のランク決定のトーナメントに出て来たのです」


「ほう……何があった?」


七子はドライの報告に口元を綻ばせた。


「推測ですが……名前を失う事が、戦いに敗れた恐怖に打ち勝ったのかもしれません」


「そうかもしれんな」


 相槌を打った七子も、そう思った。青銅騎士は序列に拘るが、特にアインスは異常に執着する事は周知の事実だったから。


「暫定のナンバーワンより、確定のナンバーワンに返り咲き、アインスの名前を守りました……八人を惨殺して」


 ドライは抑揚の無い声で言った。


「また、使えそうか?」


「剣は格段に速くなっています……そして、残虐性も以前にも増して更に」


「そうか……」


 一言だけ言った七子は、ゆっくりと背を向けた。怪物が永い眠りから目を覚ました……本当の怪物となって。


 七子は嫌な予感に包まれるが、それを楽しみに思う自分と少し冷めた目で見ている、もう一人の自分の存在が確かにあった。


_____________________



 窓の無い部屋だった。ドアを開けたドライは小さな蝋燭の向こうに座るアインスを見て、背筋が冷たくなった。


 無垢な子供の様な容姿のアインスは、そこにはいなかった。顔立ちは然程変わらなくても、その瞳はガラス玉の様に光を吸収していた。


「どうだ、また七子様の為に働けるか?」


「僕に言ってるの?」


 声は変わらないはずなのに、ドライの耳にはアインスの声が人の声には聞こえなかった。まるで、本当の悪魔がいたなら、多分こんな声だろうとドライは真剣に思った。


 口元だけで笑うアインスの顔は更にドライに冷や汗を促し、自分でも気付かないうちに華奢な体が小刻みに震えていた。


「あの、魔法使い……殺していいなら、七子の為に働くよ」


 まるでドライの緊張を楽しんでるかの様に、アインスは暫くして答えた。


「それは、七子様が決める事だ」


 口では命令調に言ったが、まだドライは震えが止まらなかった。


「そうだね……決めたら、また来て」


 やっと会話が終わったと言う安心感にドライは包まれ、部屋を出て行こうとしたが、その背中に氷の様なアインスの言葉が投げれた。


「よかったね……ドライ」


 ”何が良かったのだ”……ドライは背筋を凍らせながら、心の中で呟いた。


________________________



「予定変更だな」


 出発して直ぐにマルコスが十四郎に耳打ちした。


「その方がいいかもしれませんね」


 直ぐに十四郎も賛同した。イアタストロアと言う国柄、ビアンカが踊る事はトラブルに巻き込まれる可能性を限りなく100%に近付ける。マルコスは他の者にも意見を聞いたが、ビアンカを除く全員が賛成した。


「どうして公演を止めるの?」


 全く自覚の無いビアンカの問いに、呆れ顔のリズが説明した。


「この国であなたが踊る事は、盗賊の輪に中で金銀財宝を見せびらかすのと同じなの」


「えっ?」


 まるで分ってないビアンカに、またリズが大きな溜息を付いた。


「バンス……もし、私が盗賊に捉えられたら、十四郎は助けに来てくれるだろうか?」


 馬車の中で、ラナは十四郎の背中を見ながら、そっとバンスに語り掛けた。バンスは小さく頷くと、小声で答えた。


「多分、あの方は命を懸けて助けに参るでしょう」


 その答えは、本当はラナにも分かっていた。例え相手が誰でも、きっと十四郎は助けに行くだろうと。それが、悔しかった……自分が唯一の存在でなく、誰でも一緒と言う事が。


 しかし、女の勘はビアンカだけは違うと分かっていた。同じ様に命を懸けて救われても、ビアンカは違うのだと……その悔しさが、自分を今この場所に来させたのだと……認めたくはなかった。


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