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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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公演

 夜明けと同時に目覚めた十四郎は、周囲の騒がしさに気付いた。テントを出ると、そこには大勢の人が集まっていた。


「十四郎……この人達」


 先に起きていたビアンカが驚いた表情で問い掛けるが、十四郎にも事情が分からなかった。


「色々な人がいますね」


「何、落ち着いてるんですか」


 他人事みたいに言う十四郎の腕を、泣きそうな顔のビアンカが揺さぶった。老若男女、町人から騎士までが集まり、その表情はどれも笑顔に満ちていた。


「公演を見に来たのさ」


「まだ、夜が明けたばかりですが……」


 マルコスは背伸びしながら平然と言うが、公演は昼過ぎで時間はまだ相当早い。ビアンカは唖然と呟く。


「待ちきれないんですよ。それに、あそこを見て下さい」


 マルコスが指した方角には、広場の周囲に並んだ出店が用意を始めていた。


「祭りの様ですね」


 賑やかな周囲の状況に十四郎は微笑むが、ビアンカは目を見開いて固まった。公演と言っても、こんな街外れ。殆ど見る人もいなくて、お茶を濁せばいいと思っていた。さっさと終わらせ、直ぐに出発だと睨んでいた予想は、完全に外れた。


「さあ、これだけのお客さんだ。下手な演技は見せられないぞ」


 マルコスは、ぞろぞろ起きて来た皆に、嬉しそうに声を掛けた。殆どは、目を見開き茫然とするが、リルやノインツェーンは、手早く朝食の準備に取り掛かり、ラナも負けじと慣れた手つきで手伝いに入る。


「ラナ様……」


 唖然と呟くランスローに、ラナは優しい表情を向けると仕事を続けた。


「……何の騒ぎ?」


 寝乱れてボサボサのリズが、最後にテントから出て来てビアンカに聞くが、その寝ぼけた顔がビアンカの緊張を解き解した。


________________________



 あっと言う間に昼が来て、公演の時間が迫った。各自が衣装に着替え、出番を待った。


「さあ、開幕だ!」


 道化師の恰好をしたマルコスが、皆に号令を掛け公演は開幕した。初めに演技を行うのはココとリルで、ココの玉乗りとリルの弓技で集まった観衆の喝采を浴びた。


 ココが玉乗りで広場の中央を一周し、途中頭と両手に乗せたリンゴを、台の上からリルが射る。見事に命中すると、大きな拍手が会場を埋め尽くした。


 次の演技は十四郎で、アルフィンと共に会場ををゆっくり回る。次の瞬間、さっと鞍の上に立ち、拍手を浴びると、そのまま倒立、更に拍手を受けた。


 後は後ろ向きに乗ったり、背中で寝てみたり、簡単そうな技を繰り返すが、馬が身近である世界の人々には、その技が高度な技術であり馬との信頼関係に基づくのだと理解され、拍手喝采を浴びた。


 そのまま、十四郎は会場中央の丸太の前に行った。一抱え程ある丸太の前で、やや体制を低くすると、鯉口に左手を添え、そっと右手で柄を握る。観衆は固唾を飲むが、誰が見ても不可能であり、出来るはずはないと口々に言い合った。


「さて、お集まりの皆さん。何人か、丸太を調べて頂けますか?」


 マルコスが大声で、丸太に仕掛けが無い事を確認させる。数人の男女が丸太の傍に行って、叩いたり触ったりするが、どう見ても普通の丸太だった。

 

 人々が元の場所の戻ると、十四郎はゆっくりと丸太に近付く。手前で止まると、観衆は息を殺し見守った。


 次の瞬間! 超速抜刀! 下方から斬り上げ、返す刀で丸太を袈裟切り! 素早く刀を仕舞うと背を向けた。暫しの間を開け、音も無く丸太は切れて地面に落ちる。


 その切口は鋭利で、固い木がまるで果物の様な切断面を見せていた。観衆は呆気に取られ拍手さえ忘れ茫然とするが、一人の拍手が呼び水となり大喝采が会場を埋め尽くした。


「何度見ても凄いな……」


 戻って来た十四郎に、呆れ声のマルコスが肩を叩く。ランスローなどは、置物みたいに固まり、ツヴァイやココは自分の事の様に喝采を受ける十四郎を誇らしく思っていた。


「会場に三人……」


 急にマルコスは真剣な顔をして、ココを見る。ココはツヴァイとゼクスに目配せをすると、素早く姿を消した。


「確かに不審な人がいましたけど、何か?」


 十四郎が気付いていた事にマルコスは驚くが、敢えて聞いてみる。


「どう思う?」


「多分、動向を探ると言う類ではないと思います」


 普通に答える十四郎の表情でマルコスは占うが、十四郎の真意は分からない。


「なら、何だ?」


「腕に覚えがあるのでしょう。だから、気を発散してます。手練れの忍びなら、あんなに分かり易くしませんよ」


「忍び?」


「ええ、あの……マルコス殿みたいな人です」


 マルコスは気付いていたのかと苦笑いした。十四郎の言う通り、マルコスはモネコストロ随一の諜報者であり、裏の仕事の総帥でもあったのだった。


 マルコス達が見えない敵の同行をある種の緊張で模索している時、ビアンカは違う緊張に押し潰されそうになっていた。この衣装で、大勢の人前に出る……考えただけで、顔からは火が出そうだった。


___________________________



「ビアンカ、行くよ」


 押された背中がリズの手の温もりを伝える。振り返ると、そこにはリズやノインツェーンの笑顔があった。


「恥ずかしくない。見ろ、恥ずかしいのはコイツだ」


 リルはノインツェーンの衣装を指差す。試着した時より更に露出度は増し、殆ど裸に近い格好になっていた。


「あの、えっと……観衆の目を引き付け、ビアンカ様の緊張を解そうと……」


 赤面するノインツェーンは、リルの背中を押した。それは、リルとノインツェーンが二人で考えた結果だった。観衆の目が一所に集中すれば、ビアンカの緊張を少しでも緩和できると考えたのだった。


「う~ん。発想はいいけど、かえってビアンカの清楚さが引き立たない?」


 呆れ顔のリズは、ビアンカと見比べながら溜息を付いた。


「ありがとう、ノインツェーン、リル」


 だが、ビアンカは笑顔で二人に礼を言った。嬉しかった、そして心配を掛ける自分が情けなかった。


「まあ、踊り子を目指してる訳じゃないからね」


 肩を抱いたリズの言葉も、ビアンカを楽にさせた。


「さあ、行こう」


 リズは皆に笑顔を送ると、先頭に立って踊る位置に向かった。


 ダニー達の民族音楽の演奏が始まる。笛や太鼓、レベックといった弦楽器などので構成される小規模な楽団ではあったが、立派な演奏を奏でていた。


 中央にはノインツェーンとリルが立ち、端はビアンカとリズが担当した。目前の大観衆はテントから出ただけで、大喝采となった。直ぐにビアンカの心臓は高鳴るが、優しい演奏は次第に落ち着きを取り戻させた。


 踊りが始まる。何回も練習した出だし……微かに曲げた指先が太陽と交差すると、ビアンカの頭の中は、真っ白になった。体が自然に動く、シースルーの衣装から見え隠れする美しい肢体が光と音楽を反射する。


 ノインツェーンのグラマラスなボディや、リルやリズの健康的な美しさも、ビアンカの前では引き立て役に過ぎない。観衆の目はビアンカの動きに釘付けになり、言葉や動きを観衆から奪い去った。


「女神だ……」


 見ていたランスローは唖然と呟き、ラナでさえも言葉を失った。



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