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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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決意の向う側

 イタストロアの領海に入ると、戦いが夢であったかの様に波は穏やかで美しいエメラルド色の海が続いていた。


「十四郎は何をしておる!」


 不機嫌なナラがバンスに怒鳴る。もう、二日も十四郎の顔を見て無いラナは苛立っていた。


「それが、大道芸の練習とかで、ずっと船倉におられます」


 冷や汗を拭いながら、バンスが答えた。流石に皇女が船倉に立ち入る事は出来ず、待つしか出来ない事でラナの機嫌は最悪だった。それなら呼べばいいと、バンスが進言すると急に赤面して黙り込むのだから、バンスは頭を抱えていた。


「どうされました?」


 ランスローの落ち着いた言葉が、更にラナを苛立たせた。だが、自分でもどうしていいか分からず、言葉さえ出なかった。


「ラナ様、魔法使い殿とは住む世界が違います。今回は、この船旅までで帰られる事をお勧め致します」


「途中で帰れと申すか?」


 ラナは思い切りランスローを睨んだ。


「先の戦いをご覧になりましたか? 敵はマカラ兵までも使います。彼らには兵も姫様も関係ございません。そして、これから先は船室で見ている訳には参りません。実際の戦いに身を晒す事になるのです」


 跪いたランスローは、深く頭を下げた。


「当たり前じゃ、自ら望んだ事じゃ!」


 立ち上がったラナは、強い口調でランスローの上から言い放った。


「如何に変装しましても、あなた様がアングリアンの皇女殿下である事には変わりありません。万が一、敵国に捕まればアングリアンは最大の危機となります。それを防ぐ為には、自らのお命を絶たなければなりません……その覚悟が、おありですか?」


 静かに言い返すランスローに、ラナは何も言わない。そして、顔を上げたランスローは、ラナの表情に驚いた。優しく、穏やかな笑みをラナは浮かべていたからだった。


「今頃、本国ではライア姫の国葬が行われております」


 驚くランスローに、穏やかな声でバンスは更に驚愕の言葉を向けた。


「何ですって? 仰る意味が分かりません」


 体を震わせるランスローは、穏やかな表情のラナを信じられないという顔で見た。


「今回の事に関しましては、国王陛下の逆鱗に触れました。それでも姫様のご意志は変わりませんでした……姫様は、全てを捨てられたのです……旗艦、プリセス・オブ・ライアの使用は国王陛下から最後のはなむけでした」


 ゆっくりとした口調で、バンスは語った。全く予期しない話は、ランスローを激しく混乱させた。


「何故、それ程までに……」


 ランスローは出発の前に王妃に呼ばれ、ラナの事を頼まれた事を思い出した。凛とした態度は何時もと変わらぬ王妃であったが、帰り際に何も言わずにランンスローの手を強く握った事が、今の話と繋がった。


 その瞳は憂いに満ちていたが、その時は気付かなかった。知らないのは自分だけ……茫然とするランスローだったが、ラナの穏やかな瞳が無言で語っていた。多分、自分に余計なプレッシャーを与えない様に、敢えて言わなかったのではないかと。


「艦長のクックル殿にも、さる貴族の令嬢としかお知らせしていません」


「分かりました……」


 バンスの言葉の後、ランスローは静かに言った。喉の付近まで出た、言葉を飲み込みながら。そして、同時に十四郎に寄り添うビアンカが脳裏に浮かんだ。今は嫉妬と言うより、ラナの事を考えながら。


____________________________



 船倉では、ビアンカ達の踊りの練習が続いていた。演奏するダニー達も、慣れないアングリアンの音楽に手間取りはしたが、なんとか様に成りつつあった。


 ツヴァイやゼクスはフォトナー達と、テントの設営やその他の雑用の打ち合わせなどに多くの時間を費やしていた。初めて戦闘訓練以外の事に従事するツヴァイやゼクスは、新鮮な体験に興奮していた。


 世の中には、自分の知らない事が沢山ある……それだけで気分は高鳴り、自分からどんな些細な仕事でも買って出ていた。


「ツヴァイの奴、張り切ってますね」


 そんなツヴァイ達を微笑みながら見ていたココは、十四郎に声を掛けた。


「そうですね、なんだか生き生きとしてますね」


 同じ様に微笑んで見守っていた十四郎も、なんだか嬉しくなった。そこにマルコスが割って入る、心なしか表情を曇らせて。


「青銅騎士は、幼い頃に選別される。素質のありそうな子供が、幾重の試験を潜り抜け選ばれる……家柄や関係無い。例え平民であっても、その家の子供が選ばれれば恩賞と共に家も騎士の待遇が受けられる。そして、七騎士ともなれば、家は貴族として迎えられる」


「聞いた事があります、アルマンニでは子供達は家族の為に厳しい訓練をしていると」


 ココも聞いた事のある青銅騎士の事を、十四郎に話した。十四郎はその話を、少し目を伏せ静かに聞いていた。


「青銅騎士になる為に死に物狂いでやって来た子供達に、戦う事以外は何もない……見ろ、ツヴァイ達の嬉しそうな顔を」


 少しトーンを落としたマルコスが、ツヴァイ達の方を見た。子供みたいに興奮するツヴァイやゼクスの表情が、十四郎の胸を締め付けた。


「……選ばれたと言うより、作られた兵士ですね」


 ココは声を落とすが、十四郎は複雑な思いがココの中で葛藤していた。


「お前は、奴らを救ったんだ……」


 俯く十四郎の肩を、マルコスは優しく叩いた。そして、十四郎の視線は今度はダニー達に移る。王政を倒し平等な世界を作ると言ったダニーの真剣な声が耳の奥に蘇り、同時に血の様な赤い目のマカラ兵達が霞む視界の向こうで血飛沫を上げた。


「十四郎様……どうしました?」


 俯いたままの十四郎に、ココが心配そうに声を掛けた。


「……理不尽、ですね」


 俯いたまま、十四郎が声を絞り出した。


「それが、今のこの世界だ……どうする? 見過ごすか?」


 真剣な声のマルコスが、遠い目で呟いた。黙ったままだが、十四郎は静かに拳を握り締めた。



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