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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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意図

 船底の倉庫にやってきたビアンカは、そっとシルフィーの首に抱き付いた。心配掛けたくなくて、会いに来るのを我慢していた。


「何かあったの? 凄く騒がしかったけど」


「大丈夫……ごめんなさい、ずっと来なくて」


 言葉は少ないが、二人? は抱き合ったままお互いの体温を感じ合った。


「あのぉ……十四郎は?」


 少し妬けるのか、アルフィンが割って入る様に呟いた。


「十四郎ね、少し忙しいんだ……後で来ると思うよ」


 アルフィンの鼻を撫ぜ、ビアンカは微笑んだ。その笑顔に嘘は感じられず、アルフィンは小さく頷く。そこに、丁度十四郎がやって来て、嬉しくて思わずアルフィンは叫んだ。


「十四郎! 何してたのよ!」


「すみません、アルフィン殿」


 小さな声で謝った十四郎は、アルフィンを抱き締めた。暖かい感触は、不安だったアルフィンのココロをそっと癒す。見ていたビアンカとシルフィーのココロまで暖かく包み込んだ。


「もう少しで、陸です……アルフィン殿、頼みますね」


「分かった、十四郎。任せといて」


 アルフィンの嬉しそうな声で、ビアンカまで何だか嬉しくなった。


______________________



「七子様、軍艦リットオが行方不明になりました。おそらくは沈没したかと」


 ドライの報告に、椅子に座ったままの七子は表情を変えなかった。


「そうか……あれは、確か全てマカラ兵で構成された船だったな」


「曹禺したのは、アングリアンの軍艦の模様です」


「アングリアンの軍艦?」


 ドライの報告は、七子の胸に不穏な空気をもたらせた。


「マカラ兵は戦闘では最強ですが、接種後は次第に思考まで侵されます。誤って軍艦を攻撃したのでしょう」


「アングリアンの軍艦は、それ程強いのか?」


「普通ではマカラ兵の船が有利なのですが、相手がアングリアン最強の船、旗艦のプリセス・オブ・ライアでした」


 ドライの発案で、海賊などを使いモネコストロ近海で通商破壊活動を行っており、最強の武器としてマカラ兵を使っていた。


 隣国フランクルはアルマンニと紛争が続き、イタストロアと紛争中のモネコストロは地続きの通商は事実上困難な状態にある。


 唯一の残された海上通商を封鎖されれば、モネコストロは孤立化と共に疲弊の坂を転げ落ちて行く。陸上食料の自給はなんとか出来ても、漁業の妨害や最大の輸入品目の薬が入手困難になって行くのだった。


「やはり、全てをマカラ兵にするのは無理があるか……今、アングリアンと事を構えるのは得策ではない。沈没させられたのは、むしろ運が良かった」


 椅子に片肘を付いた七子は、窓の外に視線を移した。


「同意します。マカラ兵は奥の手として使い、運航は普通の兵の方が良いでしょう。しかし、取り扱に問題があります……時間の経過で命令さえ把握出来ず、味方でさえ襲います」


 表情は変えてないが、ドライは言葉を慎重に選んだ。


「使い方か……改善の余地があるな。それから、黄金騎士の動きはどうだ?」


 呟いた七子は、ドライに視線を戻した。


「今の所、変わった動きはありません。ですが、引き続き監視を続行します」


「分かった、頼む」


 ドライの返事を聞いた七子は、また窓の外に視線を向けた。その瞳には、以前にあったギラギラしたものが薄れている様に感じたドライは、七子と同じ方向に目を向けた。


________________________



「出来るだけエスペリアムに近い港と思ったが、予定変更だな」


 船底の貨物室では、話し合いが行われていた。マルコスは予定の変更を考え、他の者にも意見を求めた。


「まだ、モネコストロを出たばかりです。イタストロア横断となると、どの位掛かるか見当も付きませんね」


 台の上に広げられた地図を見ながら、ツヴァイは首を捻った。


「モネコストロ国境をスタートしたとして、陸路を突っ走れば二十日位だが、怪しまれない様にゆっくり行けば一月以上掛かる。今回は、少しでも距離を縮める為に海路を使ったのだがな」


 マルコスは大体の日数を説明した。


「マルコス殿は、どう言う予定を組んでいたのですか?」


 ビアンカも広げられた地図を見ながら質問する、当然距離感や掛かる日数など全く想像出来なかった。


「降りる港の候補は七か所です、エスペリアムに一番近くで降りれば七日、後は離れる程に三~四日づつ増えると言った所です。当然最初の予定では、一番近い港を考えてました」


「師匠、それなら直接エスペリアムに行ったらいいじゃないですか?」


 不思議そうな顔で、ココが呟いた。


「それが出来れば苦労しない。我々が乗ってるのはアングリアンの軍艦だ。アングリアンとエスペリアムには国交は無い。親善訪問を申し込むとして、返事が来るまでどれ位の日数が掛かるか見当も付かん」


「そうですね。訪問の大義名分も無いし、我々はライア姫のおかげで便乗出来てるだけで、アングリアンが正式に我々に味方している訳ではないですから」


 腕組みしながら答えるマルコスに、リズも考えを述べた。


「それにアングリアンの軍艦を使用するのは、政治的にもリスクが大きい。イタストロアなら、アングリアンと国交があるが、当然アルマンニの監視もある。アングリアンが正式にエスペリアムを訪問する事は、崩壊寸前の政治バランスを崩す可能性が大なのだ」


「要するに、近道を止めて陸を行こうって事でしょ」


 深刻な顔をするマルコスに対し、頬杖を付いたノインツェーンは他人事みたいに言った。


「お前は黙ってろ」


 ゼクスが慌てて制するが、ノインツェーンは平気な顔で頭を掻いた。


「我々は、マルコス殿の指示に従います」


 背筋を伸ばして聞いていたフォトナーは、真剣な顔でマルコスを見た。話し合いの輪の中に入れないでいた十四郎も、穏やかな顔で頷く。


「敵船の狙いは何だったのでしょうか? 我々が乗っているのを承知でも、果してアングリアンの軍艦、それも旗艦を襲うものでしょうか?」


 胸の中で渦巻く疑問、ビアンカは真っ直ぐマルコスを見た。


「乗員が全てマカラ兵だったのも気になります」


 深刻な顔で、ツヴァイもビアンカの言葉に同調する。ビアンカは、胸に閊える本当の懸念を口にした。


「裏で糸を引くのは、明らかにアルマンニの魔法使いだと思います。最近になって増えたと聞く我が国周辺の海賊の多さは、確かに何らかの意図を感じます」


 それまで黙っていた十四郎は、ゆっくりと口を開いた。


「私の国は島国で、海路は重要な通商手段でした。大量運送は海路の利点、その封鎖は国の基盤さえ揺るがします。モネコストロの領海でマカラ兵を使った海賊行為は、アルマンニの攻撃であると考えた方が妥当です。マカラ兵だけの船は、おそらく思考や意志は崩壊して無差別に他国の軍艦まで襲ったのでしょう」


 十四郎の的確な見識に、マルコスは目を見張った。確かに、それなら説明は付く。


「その先の見解は?」


 ニヤリと笑ったマルコスは十四郎の方を見詰め、その場の全員も十四郎に視線を向けた。


「イタストロアの領海に入れば、アングリアンの軍艦が襲われる事は無いと思います」


「そうだな……」


 マルコスは、十四郎の意見に大きく頷いた。


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