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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  格闘術

 城の南側、一番広い庭が武闘大会の場所だった。外周は馬術競技の為のコースや障害が置かれ、その中央に闘技場があった。正面には国王が見降ろす高い貴賓席があり、その両側には各騎士団幹部や貴族、役人などの席があった。


更に近隣諸国からも王族や貴族も訪れ、一国の武闘大会を遥かに超えた盛況ぶりだった。


 一番外側には一般兵や、裕福な街の人々の席が配置された。そこにはメグとケイトも招待されてはいたが、喜ぶメグとは対象にケイトはただ十四郎の無事を祈るばかりだった。勿論、アミラはメグの膝の上で、大欠伸をしていた。


「あなたが緊張してどうするの?」


 貴賓席で隣に座るビアンカはガチガチだった。溜息混じりの声を掛けるリズ。


 確かにそうだが、ビアンカに出来る事は十四郎の代わりに緊張するしかなかった。視線の先の十四郎には全くの緊張感は無く、大男達の中で場違いな子供が居るとしか見えない。


 しかし、その十四郎の落ち着いた様子は、期待感を漂わせていた。


「もう、そんなに心配なら控え場所に行けば?」


「いいの?」


 子供みたいにリズを見上げるビアンカに、リズは背中を押す。


「正騎士は、出場者にアドバイス出来るでしょ」


 リズの言葉と同時にビアンカは掛け出した。ふと見ると、大事そうに抱えていた包みは席に置かれたままで、リズがそっと開けると輝く青のマントだった。察したリズは微笑むと包みを閉じ、きちんと椅子の上に置き直した。


 近くから見ていたザインは、二人のやり取りを優しい表情を浮かべ見ていた。


___________________________



「何故、魔法使いが居るのだ?」


「はい、二名の騎士の推薦で、正式なものです。騎士団長ザインの了承もあります」


 貴賓席の端でエオハネスが怪訝な顔でジスカームに聞いた。


「そうか……まぁ、よい。見極めの良い機会じゃ。諸国にも存在を知らしめる絶好の機会になるやもしれん。それより分かっておるな」


「はっ、抽選を細工致します。かの者を試すには丁度良いかと」


「ふむ、私は陛下のお傍に行く、後は任せた」


「分かりました」


 街では魔法使いの噂は既に広がり、事実として認識され、宮廷内でも非公式だが周知の事実となっていた。ならば出来る事は真相の究明と、その後の対策を早期に構築する事だった。


 遠く十四郎を見たエオハネスは、ざわめく会場の雰囲気に胸騒ぎを感じるが、その胸騒ぎが何故か悪い気分ではない事が不思議だった。


_________________________



「どれが魔法使いじゃ?」


 貴賓席の皇女が、お付きのバンスに声を掛ける。


「あの者でございます」


 指差す先には十四郎がいた。


「子供ではないか?」


「その様で……」


 驚いた声を上げたのが、隣国アングリアン王国の第三皇女、ライア・エリザベート・スライヤーだった。全体にウェーブの掛ったベビーブロンド、美しい翠の瞳、穏やかで優しそうな外見とは裏腹に、勝気がドレスを着て高飛車の冠を被ってる様な姫様だった。


「わざわざ見に来て、あれが魔法使いとは……」


「やはり、噂の範疇の様で……」


 冷や汗がバンスを覆う、帰った後の姫の暴れ様を頭に浮かべながら。


______________________



 十四郎の最初の相手は格闘士だった、武器を使わず素手の格闘を得意とする。十四郎はコイントスで負けて素手での勝負となった。


「十四郎!あの者はギルトル。この国でも並ぶ者は居ない剛力です!」


 駆けつけたビアンカが、背中越しに十四郎に叫ぶが。振り向いた十四郎が、ニッコリと笑った。驚いたのはビアンカだけでは無い、他の出場者も目を丸くする。当然、笑ってる場合かよと言う気持ちを込めて。


 上半身は筋肉の塊、スキンヘッドの顔は十四郎を睨み付ける。優に倍近くの身長、体重は何倍かという検討もつかない。試合開始の合図の後、一度吠えたギルトルは猛然と突進した。


 次の瞬間、十四郎を掴もうと延ばされたギルトルの腕を取ると、背負い投げで地面に叩き付ける。背中からモロに落ちたギルトルは呻き声を上げた。


 十四郎はゆっくりと、ビアンカの元へ戻ろうとする。


「まだです! 相手が気を失うか、負けを認めるまで終わらない!」


 更に雄叫びを上げたギルトルが迫る。振り向いた十四郎に体ごとぶつかる、そのまま両腕を取ると巴投げで再び地面に叩き付けた。しかし、今度も地面では致命傷にはならない。


 起き上がろうとするギルトルの上腕部を自分の両脚で挟んで固定し、同時に親指を天井に向かせる形で相手手首を掴み、自分の体に密着させた。いわゆる腕挫ぎ十字固めである。


 苦痛で顔を歪めるギルトルだが、中々根は上げない。これ以上だと、腕が折れると判断した十四郎はギルトルの片腕を前に引き出し、引き出した腕と逆の自分の脚(膝裏)を相手の首にかけて前に崩す。


 首にかけた脚の足首を立てた状態で、もう一方の自分の脚をかぶせ、相手の肩と頭が抜けないようにしながら、一気に絞める。これは三角締めと呼ばれる技だった。


 流石のギルトルも数秒後には失神した。今度は完全に勝負が付いたと、十四郎は穏やかな顔で息も乱さず、ビアンカの元に戻った。見守る群衆も唖然として、勝者への拍手はかなり遅れて鳴り響いた。


「今のは何なんですか?」


 呆然としながらも、ビアンカが聞いた。


「柔術と申します……助かりました。相手の方が力勝負に出てこられたら、歯が立ちませんでした」


 頭を掻きながら、他人事みたいに十四郎は言った。勿論、周囲を取り巻いていた他の出場者達は、海が割れるみたいに十四郎に道を作った。


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