95匹目 即効性と遅効性
「お邪魔しまーす!……って誰も居ないのか?工房の奥に引っ込んでるのかね?」
「きゅい~?」
シルフと分かれた後も、まったりと休憩を楽しんだ俺達は店員さんにお礼を告げてアトリエにやってきた。
ティータイムは大事にしないとねー。まぁ飲んでたのはコーヒーとミルクだからどっちかと言えばコーヒーブレイクだけど。
コーヒーブレイク……強そう(小並感)
「ホー!」
「ん?どうしたミズキ?それは?」
俺が余計なことを考えている間に机に降り立ったミズキが、机に置いてあった文字のかかれた紙をくわえて俺の方へと見せてくれた。ちゃんと読める様に紙の上の方に移動してからくわえてくれるミズキ賢い!
ん~、エルの書置きっぽいな……え~と、なになに?
「『素材が足りなくなったので近くのお店に買いに行ってくるデス。すぐ帰ってくるのでお店番お願いするデス!――――エル』……って、普通に鍵あけっぱなうえ無人なんだが……」
ついでに言えばOPENの札もかかってた。おそらくこの書置きはフィアちゃん宛てなんだろうけど、肝心のフィアちゃんが居ないんだが、何処行ったのかね?まだ寝てるのか、あるいは本屋にでも行ったのかな?本屋って用事が無くてもつい行きたくなるよね。分かる分かる。
「んじゃ、エルもフィアちゃんも居ないみたいだし出直そうか……と思ったけどアトリエの鍵あけっぱなんだよな……」
なんて無用心な。しゃーないな。エルが帰ってくるまで留守番でもしてようかね。店番は無理でも留守番ぐらいなら出来るだろ。まぁ、家主が居ないんだから外で待ってる方がいいのかも知れないけど……
「きゅい~」
「ホー……」
「メェェ……zzz」
「~~!~~!」
「……んにゃあ……」
既に皆が寛ぎモードに入ってるんだよなぁ……というかもう条件反射みたいになってない?別にアトリエに来たからって問答無用で寛ぐ必要は無いんだよ?イタズラも駄目だからなティーニャ。下手に触って爆発とかしたら困るし。
「……」
……
「すぴー。すぷすぷすぷ……すぴー。すぷすぷすぷ……」
暇だ。そして眠い。
今日中に月光草は渡してしまいたいからこうしてエルの帰りを待っている訳だが、このままじゃ寝落ちしそう。これも全部気持ちよさそうに鼻ちょうちんを作りながら寝ているアイギスが悪い。
既に定位置になりつつある部屋の隅でのびのびと体を伸ばして横になって寝ているからな。
野性はどこへ行った野性は。山にいたヤギたちは膝を折って四つん這いみたいな体勢で寝てたぞ?流石に無警戒すぎやしませんかね?まぁ、それだけ信頼してくれてるんだろうけどさ。
んー、お?椅子の上にフィアちゃんの本が置いてある。どれどれ、どんな本を読んでるのかなー、っと。
……うへぇ。片ページに3段びっしり文字が刻まれてるよぅ。挿絵が一切無いよぅ。
ちらっと見ただけで頭が痛くなった。戻そうとして落として足の小指が痛くなった。……精神的に。
「……なにやってるんですか……」
「およ?フィアちゃん居たの?」
無言で足の小指を押さえつつ、そっと本を戻していると後ろからフィアちゃんに声をかけられた。
勝手にフィアちゃんの本を捲っていたのを見られたバツの悪さを顔に浮かべつつふりかえると、どこかやれやれといった雰囲気を纏ったフィアちゃんが背後に立っていた。
……ちゃっかり回収したボーパルを抱き締めつつ。
「……お店を開けているんですから居るに決まってるじゃないですか……ちょっと用事で奥に行っていただけです」
あー、そう言えばエルも言っていた気がする。エルかフィアがアトリエにいて起きている時が営業時間だって。
でも、アトリエにいてもお客が来たときに出てこなかったら意味無いと思うんだが……
「……たまたま手が離せなかったのです。声であなただという事は分かりましたし急いで来たのですが……」
「えー、そこは大きな声で返事をするとかさ……」
「……それは……大きな声を出すとか……恥ずかしい……ですし……」
照れるフィアちゃんかわいい!
ポッと桜色に染まった頬を隠すように首とお尻を抱えて丸めたボーパルを顔の前に持ってきて盾にしているんだが、ボーパルあれ完全に寝てるよな?抱き上げられた上に盾にされても起きないとか信頼されているとかを通り越して睡眠薬でも盛られているんじゃないかと心配になるレベルだな。
まぁ、状態異常は何も表記されていないから違うだろうけどもさ。
「……こほん。それで今日はどんなご用事ですか?もしかして月光草を採取してきたのですか?」
「おう。持って来たよー」
咳払いを1つしてすっかり平静にもどったフィアちゃんが仕切りなおすのにあわせてストレージから月光草を3つ取り出す。
結局3つしか見つけられなかったけど試作用には十分だよな?
「……はい。確かに受け取りました。月光草は3つとも魔力の回復薬にするんでしたよね?」
「うん、よろしく!」
ん?フィアちゃんに月光草を渡したのにクエストの達成メッセージが出ないな。報酬のMP回復薬がまだ出来ていないからかな?まぁ、いっか。
「……それで魔力の回復薬なのですが……姉さんが調べたところ、実は2種類あるみたいなんです」
「え?2種類?」
ポーションとハイポーション的な?なら効果が高い方がいいんだが……
「……はい。即効性と遅効性……具体的には飲んだ瞬間MPが少し回復する薬と、飲んでから一時間魔力の回復量がちょこっと上昇する薬の2種類です」
「少し……ちょこっと……」
ま、まぁ回復するだけマシだよね。たかが1でも0と1の差は大きいものだしね。
「……最終的な回復量は遅効性の薬の方が多いですね。ちょびっとですが」
「ちょびっと……えーっと、一個の回復量は低いみたいだけど、いっぱい飲むのは大丈夫なの?」
「……そうですね。味は作ってみないと分かりませんし、液体だったらお腹がちゃぷちゃぷに、丸薬だったらお腹がゴロゴロになりそうですが効果はあるはずです……姉さんに塗り薬に出来ないか聞いてみましょうか」
「んー、でも塗り薬は戦闘中に使いにくいんだよなぁ……」
かといって服用タイプの薬にすると一番MPを使う上に一番体積が小さいティーニャがピンチだな。薬漬けになっちゃう。しかもエルの薬って今のところ全部まずいんだよなぁ……
「じゃあ、即効性の飲み薬と塗り薬。遅効性の薬を1つずつお願いしようかな。ちょうど月光草も3つ持ってきたし」
「……はい。分かりました。姉さんが帰ってきたらさっそく調合を……姉さん……帰って来ませんね……」
せやな……書置きにはすぐ帰ってくるって書いてあるけど俺がアトリエにきてからもう結構時間たってるぞ?
「……どうしますか?いつ帰ってくるかは分かりませんが姉さんが帰ってくるまで待つのならお茶を用意しましょうか?」
「うーん……お誘いはありがたいんだけど時間がかかりそうなら今日はお暇させてもらおうかな。薬は明日……じゃなくって今日の夜に取りに来るからさ」
「……そうですか……分かりました」
心なしかフィアちゃんが残念そうな表情をしている気がする。
俺だって本当はフィアちゃんと一緒にお茶したいんだが、そろそろ睡魔がヤバイ!今だって話しながらねそうだし……ちくしょうアイギスめ。幸せそうに寝やがって。お前を枕にしてやろうか!!
「……それでは、今日の陽が暮れるまでには用意しておきますね」
「うん。お願いね。おーい!みんな起きろー!帰るぞー!」
その後はぐずるみんな(特にアイギス)をたたき起こしてフィアちゃんに見送られてアトリエを出た後でログアウトした。
……にしても、エルはどこへ行ったのかね?ハッ!まさか誘拐とか!?……無いか。持ち物は全部ストレージに入ってて自分以外は取り出せないし、最悪死んだら逃げられるしな。大方珍しい素材でも見つけてハッスルしてるんだろう。
ふぁ~あ。眠い。今日はさっさと寝て明日は朝から夜の森でキツネ狩りだな。
んじゃ、おやすみ……
もふもふ!
誤字脱字ありましたら感想のほうへお願いします。
あー、忙しい。本当に忙しい。執筆する暇も無いぐらい忙しい。・・・本当だよ?




