6匹目 商人
「すごいお姉ちゃん!勝っちゃった!」
「ああ。ボーパルとの連携もなかなかだったな。特に最後の追撃とか」
「……のんきに見学しといてよく言うな」
そう。こいつら自分の分を倒したあと加勢もせずに俺達を眺めていやがったのだ
「いや~意外といい感じに戦っていたし、まぁいっかと思って」
「実際2人とも無傷だったしねー」
まぁそうなんだけど。そうなんですけど。何だろうかこのもやもや感は。
それはとりあえず横に置いておいて野犬を封印すると一回で50まで封印率が上がった。
野犬が5匹いたことを考えて1匹当たりは10%か。ウサギやイモムシの半分だな。
まぁ前2匹に比べて好戦的だったし群れて出てくるのも考慮されているのかもな。
「さて、ボーパルの戦闘力も確認した。レベルも上がった。時間もいい感じだし街へ帰るか」
「さんせー」
「そうだな。ちょっと休みたいしな」
てなわけで自動生成のミニマップを見つつ森を抜け草原を抜け街へと帰ってきた。
途中キャタピラー2匹を封印しつつ戻ってきた街は人は多かったけれど混雑って程では無かった。
むしろ平原の方が混んでたまである。ボーパルがウサギを見つけてもだいたい他のプレイヤーが戦ってたしな。
「……リアさん、転移門南の通りにいるみたい」
「南ならあっちだな」
「そして今、俺達は2人のベータ時代の知り合いだって言う人のところへ向かっているのだった」
「ユウ?誰に話しかけてるんだ?」
「気にしちゃだめだよ。あれはお姉ちゃんの発作みたいなものだから」
「だれが病気か。で?そのリアさん?って人はどんな人なんだ?」
「んー、リアさんは商人だね。後料理もちょっとやってたなぁ。他の色々な生産職と同盟みたいのを組んでてその仲介役みたいな?女ボスみたいな?そんな感じ。リアさんのところに行けばだいたいなんでも揃う感じ」
「あら、女ボスとは言ってくれるわね」
突然横合いから声を掛けられる。声の聞こえたほうに振り向くと1つの屋台?で女性がこちらに小さく手を振っていた。
「り、リアさん……」
「あなたがユウちゃんね。シルフちゃんからお姉ちゃんで妹なお兄ちゃんを紹介するって謎かけみたいなメールが届いたのだけれど」
「ども、シルフの兄です」
柔らかく微笑みを浮かべるリアさんはとてもシルフが言うような女ボスにはとても見えない。
ただなぜかシルフは金縛りにあったように固まってるけど。
「ふーん。……性別の変更機能が追加されたって話は聞かないけど?」
「いやいやコイツはリアルでもこんな感じですね。まぁ髪は短いですけど」
「あら、タクくんもお久しぶりね。ここに来たってことは買取かしら?」
「はい、ウサギの毛皮の買取を少し、それとコイツ用に杖を1つください」
「杖……ねぇ。ちょっと待ってて。レンくんに適当に見繕ってきてもらうから」
「おっレンの作成品なら期待できますね」
「ふふっ、スキルレベルがリセットされてるから他とあんまり差は無いと思うけどね?」
リアさんに目上の相手様の対応で親しげに話すタクの横で直立不動で黙っているシルフ。
家の妹様は割と怖いもの知らずな性格だと思っていたんだがリアさんみたいなタイプが苦手なのか?わからん。
「なあレンって言うのは?ベータプレイヤーなのか?」
「……ウッドワーカー。つまりは木工専門職の人。まぁ自称だけどね。杖とか弓とか家具とか作ってるんだけどレンくんはベータ時代3本の指に入るぐらいのすごい腕だったの。それこそブランドができるぐらいに」
「そりゃすごいな」
とりあえずそのレンって人が自作の杖を持ってここに来てくれるそうなので待つことに。
「それじゃあ先に毛皮の清算をしてしまいましょうか。いくつ持ち込んでくれたのかしら?」
「各1枚ずつの計3枚ですね」
「……こう言ってはあれなのだけど随分と少ないのね?」
「ああ、こいつがサモナーなんで」
タクがそう言うって俺の肩に手を置いてニヤッとドヤッの間の様な顔をしている。戦闘とゲーム知識で多少見直したかと思ったけどやっぱキメェ。
リアさんは一瞬キョトンとした後すぐに俺たちの顔を見て苦笑を浮かべた。俺がどんな顔をしていたかはご想像にお任せします。
「ども、サモナーのユウです」
「きゅい!」
自分もいるぞと屋台のカウンターに飛び乗ったボーパルが片手を挙げて鳴く。かわいい。
「あらあら、まぁまぁ。サモナーはジョブ選択時に出てくることが珍しいレア職な上に癖が強すぎるって有名だからもしかしたら第一世代でサモナーは貴方だけかも知れないわねぇ。これはサービスしておくべきかしら?」
まじか。サモナーが少ないとは聞いていたけどまさか俺一人ってことは……いやさすがに無いだろう。
無いよな?
……おいそこな二人。なぜ黙って目をそらす。なにゆえ慰めるように肩を叩く!?
「そう言う事ならボクにも1枚噛ませて欲しいな」
俺達の会話に割り込んできたのは一人のボーイッシュな女の子。いや?ボーイッシュな男の子だ。
?ボーイッシュな男の子って意味被ってるな。要はボーイッシュな女の子みたいな男の子だ。
こんなにかわいい子が女の子なわけないじゃない。
「おまいう」
タク黙れ。
「やはやはー。タクくんとシルフちゃんはベータぶりー。そっちのお姉さんは始めましてかな?レンっていいます!職業は気分的にウッドワーカーやってます!。よろしくね?」
「レンレン、やはやはー。こっちのユウちゃんはこう見えてもあたしのお姉ちゃんです!」
あっ、シルフが再起動した。でも目線はリアさんに一切向けていない。何がそんなに怖いのか……わからん。
「ども、シルフの兄でサモナーのユウです。こっちはウサギのボーパル。あと、お姉ちゃんいうな」
「きゅい!」
よろしく!って感じで手を挙げて挨拶するボーパル。
「もーう。ボーパルちゃんは賢いなぁ」
「きゅいぃぃーーー」
カウンターの上に立つボーパルにヘッドスライディングをかますように抱きつきそのまま頬ずりをするシルフ。ボーパルも苦しいのかもがいてるが、悲しいかなウサギの筋力じゃファイターのシルフには勝てないようでやがて諦めたのかクタっと力を抜いていた。
……いや、あれ落ちてないよな?ただでさえもボーパルはまだHPがフル回復してないんだから手加減してあげて!!
「じゃあユウさんはボクとおなじ男性型アバターなんだね!仲間だね!」
「お、おう。」
なんか仲間意識持たれてしまった。タクも男性型アバターなんだが……女性に間違えられる男性仲間だろうか。嬉しい様なそうでもないような微妙な関係だな。
「あっそうだった!杖だよね!ボクが作ったのでも性能高めなの持ってきたから好きなのを選んでよ!リアさん机借りるね!」
「あっ、ちょっと……もう」
カウンター狭しと並べられていく大小、長短、太細様々な杖たち。
「材質はほとんどカシばっかりで追加効果も無いのばっかりだけどさすがに勘弁してね。……そういえばユウさんはワンドとロッドのどっちを使うの?ああ、ワンドって言うのはね所謂短杖のことでロッド……長杖に比べて魔法使用の効率が……」
「これ……だな」
なにやら楽しそうにマシンガントークをしていたレンには悪いが俺は一目見た時からコイツにしようと決めていた。長さは1m30cm半程ほどで今日レンが持ってきた中では一番長いやつだ。頭に行くほど太く石突にいくほど細く装飾なんかは付いていない長い円錐の底面に半球を付けた様な杖だ。本音を言えば杖じゃなくて杖が欲しいところだが、この中では一番コレがしっくりくるかな。持ってみた感じだとちょっと細めか?まぁあくまでも俺の感覚の問題だが。
【武器:杖・棍】カシのロッド レア度1
攻撃力+10 魔法攻撃力+5 重量2 耐久値300
カシの木を削り作られた長杖
物理攻撃に向いており魔法発動の補助も行うが効果は低め
「……ほう」
中心の下を持ち軽く振ってみる。
作成者の腕がいいからか綺麗に重心が取れていて振りやすい。欲を言えばもう少し重量があった方がいいがまぁ初期装備としては上出来だろう。
「これ、いいな。これください」
「……だろうねぇ」
「まぁユウだしな」
おいこら、俺の行動を俺だからで片付けるんじゃない。
「うーん。そのロッドは杖って言うかほとんど棍に近くて魔法攻撃はあんまり上がんないんだよね。性能はそこそこだけど需要がぜんぜん無いからね。ユウさんとの出会いを祝してプレゼントしちゃおう!」
「えっ?いいのか?売り物なんだろ?」
「そうだけどこのまま売れ残って倉庫でほこりをかぶっているよりはユウさんに使ってもらったほうがこの子も嬉しいと思うんだ。それに、ユウさん実はお金あんまり持ってないでしょ?」
「あっ」
考えてみればウサギの毛皮一枚分の金しか持ってない。それじゃあ……まったく足らんわな。
「やっぱりね。サモナーはどうしても序盤はお金が足りなくなるらしいからね。小遣い稼ぎの為にも何か生産系のスキルはとっておいたほうがいいよ」
「ああ、その、悪いな。ありがたく貰っていくとするよ」
「うん。これからもどうぞご贔屓に。なんてね?」
イタズラっぽく笑うレンはなるほど女の子と間違えられるのもわからんでもなかった。
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