40匹目 妖精
くそう、いつか入れようと思っていた「た~る♪」のネタが大御所に先を越された!
あれ可愛いよね。新作出たらとりあえず町中のタルをチェックしちゃう。
その子は小さな女の子だった。それはもう。身長15センチぐらいの物理的に小さな女の子だった。
背中からは透明な4枚の羽が生えておりキラキラと小さな光の粒を零しながら宙に浮かんでいる。
服装は大きな花の花弁をひっくり返して頭を出す穴を開けたものを、腰の辺りで紐で縛った様なものを着ている。小さな手は花びらの隙間から出していた。
……なんだろうむしょうにひっくり返したくなる。性的な意味でなく純粋な好奇心で。嫌われそうだからやらないけど。
モンスター フェアリー Lv8
状態 パッシブ
「~~?」
エメラルドグリーンの髪を揺らし可愛らしく小首を傾げながらこちらへと近づいてくるフェアリーが、小さな鈴を転がしたような澄んだ声で何かを言っているがなんて言っているのか分からないな。
シルフでも連れてきたら分かるかな?エルフだし。
あ、いや何言ってるのか分からなかったって言ってたなそういえば。
「メェ?」
「いや、コイツは敵じゃないから食べてていいぞ」
フェアリーについてはシルフから聞いたことがある。森で1人で狩りをしていた時にたまたま出会って仲良くなって妖精の住処に連れて行ってもらったって。
シルフの着ている妖精シリーズの装備はそこで貰ったものらしい。なかなか会えないらしいから出会えた俺達はラッキーだな。
「メェ」
俺の敵じゃない発言を聞いてあっさりと食事に戻るアイギス。……一応目の前にモンスターがいる訳ですが。警戒心がないのか食欲が暴走しているのか……いや、ここは信頼されていると思おう。うん。
「~~♪」
「きゅい!きゅい!」
そのフェアリーだが今はボーパルの耳をつんつんして遊んでる。触るたびにピクピク動くのが楽しいらしくクスクスと笑ってる。ボーパルはイヤイヤと首を振っているが今度はそれによってぶるんぶるんと振られる長い耳を追いかけて遊びだした。……ボーパルが優しい子で良かったな。レベル差的にボーパルの後ろ足が掠っただけでたぶん死んじゃうからね。キミ。
「~~!」
「ホー!?」
ボーパルで遊び終わったフェアリーが今度はミズキのフカフカの胸の毛に全身で抱きつきモフモフしてる。
何それ気持ち良さそう!変わってください。むしろ体ごと変わってください。
フェアリーの小さい体だからこそ出来ることだな。あれだ。でっかいテディベアにヒシっとしがみついている外国人の幼女みたいな構図だな。ミズキがフカフカ過ぎて殆ど埋まってるけど。息苦しくないのかな?
「ホ~」
ミズキが助けを求めるようにこっちを見てくるが俺は静かに首をふって答える。ミズキはフェアリーの好感度稼ぎの犠牲になったのだ……。
「~~?」
「メェ!」
ミズキを体全体で満喫したフェアリーは今度はアイギスが食べてるシチューに興味を持ったらしく手を出そうとして怒られてた。
うん。まぁ流石にフェアリーの方が悪いな。食事中のとこに横から手をだされたら怒るわ。
「ほら。俺のも同じシチューだから欲しいならこっちをどうぞ」
顔だけで自分の全身と同じぐらいのサイズがあるアイギスに怒られて薄っすらと涙を浮かべながらもキッとアイギスを睨みつつシチューに手を出す隙を伺っているフェアリーににんじんを1つ掬って差し出してあげる。
見た目はちっちゃくて可愛いけど結構気が強いのかな?涙目だけど。
「~~♪」
何となくのイメージで肉じゃなくてにんじんをあげたけど正解だったかな?
自分の顔と同じぐらいのサイズのニンジンの欠片とスプーンに入ったシチューを嬉しそうに頬張っているし。
あ~あ~顔じゅうどころか髪までベトベトに……ああ、手も真っ白になってる。ハンカチハンカチ。
右手を空中でスプーンを固定するのに塞がれつつ左手でハンカチを取り出すとスプーンに載っていた分のシチューを綺麗に食べ終えたフェアリーがお腹をさすさすしつつ、けぷぅと可愛いゲップをしていた。
……明らかにフェアリーの胴回りよりも食べたニンジンの方が大きい事には突っ込んでも無駄なんだろうな。ボーパル達も食べることはあっても出すことはないし。お腹の中に取り出し不可のインベントリでもあるんだろう。
「~~~~~!」
「あんまり暴れると拭きにくいだろ、っと。よしキレイになったな」
満足げに目を閉じてふよふよとただようフェアリーを捕まえて顔と髪。ついでに手も拭いてやる。顔を拭かれるのにビックリしたのか手をワシャワシャと大きく振り回すものだから手間がかかってしまった。
ちょっと力を入れただけで首とかポッキリいきそうなほど小さいから本当に苦労した。
でもハンカチをどかされたフェアリーの顔は心底楽しそうで、その顔を見ただけでこっちも何だか楽しくなってくるのだから可愛いって得だよなぁ。
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「~!~~!」
「ん?どうした?」
結局3人用に出したシチューをアイギスが1人で食べちゃって、最初俺が食べていたシチューをボーパルとミズキにも分けたり、さっき満腹になったはずなのに物欲しそうにこっちを見てくるフェアリーに分けたり、物欲しそうにみてくるアイギスにNO!と言ったりしているうちに既に半分以下になっていたシチューはあっという間に無くなり、手早く片付けをした段階で。
すっかり皆にもなじみ、ボーパルの耳の間に挟まりボーパルが跳ねるたびにきゃっきゃと騒いだり、自前で飛べるのに飛んでいるミズキの足にぶら下がったり、アイギスを足蹴にしていたりしていたフェアリーがフワリと飛び立つと何か言いながら俺の前髪をクイックイッと引っ張ってくる。
うん。どこかに連れて行こうとしているのは分かったから前髪を引っ張るのはやめようか。普通袖とかじゃない?
痛く……はないけども。フェアリーは見にくいし、前も見にくいし。いや体のサイズ的に袖が掴みにくいのも分かるけども。
「分かった分かった。付いていけばいいんだろう?もしかしてキミたちの住処に案内してもらえるのか?」
「~~~!」
そう言うとパッと俺の前髪を離してニコニコ笑顔でコクコクと頷いたのでそうなんだろう。
シルフの話だと2、3回会ってようやく案内してもらえたって言ってたから、本当にラッキーだな。コレもボーパルとミズキの癒しパワーのおかげだな。アイギスも取っ付きやすい空気を作ってくれたんだと思おう。
……にしても、俺はフェアリーの言葉が分からないのにあっちは俺の言葉が分かるんだな。まぁ、ボーパル達も分かっているみたいだし今更か。
「~~!~~~~!~♪」
「きゅい!」
「ホー!」
「メェ」
「あんまし、よそ見してるとぶつかるぞ~」
俺達を先導するように森の奥へ奥へと飛んでいくフェアリーだが、俺達を住処に案内するのが楽しみなのか無駄に蛇行飛行をしたり、その場でターンしたりと楽しそうだ。
一応森に住む飛行型のモンスターだけあって木々を掻き分けて地上を行く俺とアイギスよりもよっぽど移動速度は速いのだが。その無駄な行動のおかげで何とか追いつけていた。
……ボーパルも地上組みじゃ無いのかって?木から木へと猿みたいにピョンピョン跳んで移動していますが何か?
今日の移動はずっとこうだったので俺はもう慣れた。実際地上を行くよりも早いし立体機動のスキル上げにもなるしで否定する理由も無い。
理由は無いんだけど……なんだろうこの胸に渦巻く、コレジャナイ感は……。俺の中でうさぎの定義が揺らぎつつある今日この頃です。
……というかボーパル時々何も無い空中を蹴って軌道を微調整してない?あれか、右足が沈む前に左足をだしているのかな?
……ボーパルなら実際に水の上でも走れそうな所為でネタとしてどうも……。
「~~!!」
「お、到着か?」
ボーパルのNINJA化に頭を悩ませているうちに目的地に到着したようだ。
そこには巨大な木々が立ち並ぶ森の中でも一際巨大な木が立っており丁度俺達の正面が大きな洞になっていた。
「お~、いかにも妖精の住処への入り口っぽい所だな」
いかにもな洋服ダンスが異世界への入り口です。とか言うパターンも想定してツッコミを用意していたが無駄になったな。
「~~!~~!!」
「分かった。入る。入るから前髪を引っ張るな。あんまし引っ張ると前髪だけハゲるだろが。……ったく。ほら皆行くぞ!」
「きゅい!」
「ホー!」
「メェェェェェ」
フェアリーに引っ張られて全員で木の洞に入ると一瞬だけ視界が真っ白になってすぐ元に戻った。
だが周りはさっきまで居たのと同じ木の洞の中にいたので、おかしいなと首を捻りながら、またフェアリーに引っ張られて外に出たのだが、洞の外はさっきまで居た森の中とはまるで違っていた。
柔らかで暖かな日差しの降り注ぐ、色とりどりな花畑とその花畑を飛び交い、笑いあう沢山のフェアリー達。
森で仲良くなった妖精に導かれ俺達は妖精の花園へとやって来た。
もふもふ!
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魔法少女フィアの短編を新しく作った短編集のほうに投稿したので、暇で暇でしょうがない。死にそう。って人は読んでみて下さい。
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