34匹目 VSアント
「ちっ、ハズレか」
地を這う俺の上から夜の砂漠の空気よりも冷たいシルフの声が降ってくる。
「あんまり動くと呑まれるから動かない方がいいよ。直ぐ片付くからね」
モンスター アリジゴク Lv3
状態 アクティブ
ホントだ!よわ!見た目キモこわいのにレベル低!いや、街からすぐの場所に居るモンスターにしては高いのかもしれないけれども……
「さ、ちゃちゃっと封印しちゃってー、もっと奥までいくよー」
とか、なんとか驚いてる間にシルフがサクっと仕留めちゃった。俺達出番なし。
見た目キモイから召喚することは無いと思うが封印数確保のために一応封印。召喚はしないがな。
「はぁ、ビックリした。んで?さっき聞きそびれたんだけど、ココには何のモンスターが出るんだ?」
「きゅいきゅい」
「メェェ」
俺にはしっと抱きついていたボーパルと、回転しながら滑り落ちていたアイギスも口々に驚いたといっている……気がする。
こういうときは地形効果に左右されない飛行ユニットのミズキはうらやましいなぁ。
「夜の砂漠にでるモンスターは2種類だね。さっきのアリジコクと、あ、アレアレ」
モンスター アント Lv4
状態 パッシブ
砂漠をサクサク歩いていたのは体長1mぐらいの黒光りする大きなアリだった。……他意はない。
「んー、ちょっとレベル低いかな。5,6レベルぐらいだったら丁度いいんだけどっ!っと」
これまた、ボーパルに匹敵するほどの恐ろしい速さで駆け寄ったシルフがスパパパパ、スパンと連続突きから首を落として終わった。この間1秒前後。
いや、刺突武器のレイピアで切り落とすって、そんなに脆いのか?レベル差がだいぶあるのかも。
……ならレベル上げには向いてなくね?まぁいいけどさ。
「ボーパルとミズキに索敵してもらうか?見晴らしもいいし足音もするから索敵向けだと思うけど。敵も弱いみたいだし」
森の狩りよりも回転率はよさそうだな。
「あー、それでもいいんだけど今日はあたしに任せといて。……そういえば、聞き忘れてたけどおねぇちゃん範囲魔法は使えるよね?」
「使えるぞ。ついでに言えばミズキも使えるぞ」
「ホー!」
「ヘー!フクロウって魔法使えるんだ。珍しいオッドアイだしミズキちゃんすごいんだね~」
「ホ~」
「まぁ、ミズキはただのフクロウじゃないからな」
マジカルオウルだし。この名前で魔法が使えなかったらウソってもんだろう。
「はいはい。親バカ乙。いい感じの獲物も見つけた事だし戦闘に入るからね」
シルフの向かう先にいるのはレベル6のアントが一体。
やっぱり経験値の足しになるとは思えないんだがアレでいいんだろうか。
「シルフ、助太刀は?」
「今はいらない。むしろ手はださないでね」
「あいよ」
「きゅい」
「ホー」
「メェェ」
これ俺達いるのかね?パワーレベリングに連れてってくれてるつもりなら不要なんだけど……むしろ森の方に連れて行いってあげようかな。
「よっと」
「ギイィィィ!」
プスプスと危なげなくシルフがアントにレイピアを突き刺している。
速攻で首を狩ったさっきとは違い、いたぶる様に、恐怖を煽るようにプスプスプスプスとちょっとずつ、ちょっとずつHPを削っている。
「ギィィ!ギィィィィィィ!!」
細い足の関節を突き壊され、殆どダルマ状態になり声を上げる事しか出来ないアントをそれでもまだプスプスプスプスプス……
あわ、あわわわわわわわ。やばい。シルフがヤバイ。えっ?何?シルフってそっち系の趣味がおありになる人だったの?巨大な虫を責めたてて興奮するお方だったの?
「あわあわあわあわ」
「きゅ、きゅいぃ……」
「ホー……」
「メェェ……」
シルフの根源的な恐怖を呼び起こす所業にボーパル達も僅かにカタカタと震えながら俺に寄り添ってくる。
「みんな……あんまりシルフと喧嘩しないようにな?俺も気をつけるから……」
「きゅい」
「ホー」
「メェェ」
「ギィィィィイィィィィィイィィィィ!!!」
「きゅい!?」
シルフの知らないところで俺達の絆がより一層深まっていた頃。アントから断末魔と言える程の酷い悲鳴が響き渡る。
おそろしやぁ……虫が悲鳴をあげるって、シルフさんどんだけヤバイことしてんだよ。アイギスとか生まれたての仔ヤギみたいに足プルプルしてんじゃん!
「よしOK」
「どこが!?」
悲鳴を上げ続けるアントの首をサクっと落として止めをさしたシルフが、振り向きざまにいい笑顔で言い放った言葉についツッコミをいれてしまう。
えっ?いや本当になんなの?こんな時どんな顔をすればいいか分らないよ!笑えばいいの!?
「と、とりあえずお疲れ。大丈夫だ。たとえどんなでもシルフは俺の妹だからな」
「?何言っているのか良くわかんないけど、本番はこれからだよおねぇちゃん。ボーパルちゃん達と抱き合ってないで戦闘準備して。ていうかあたしが戦ってる間に遊んでたの!?ズルイ代わって!」
「いや、コレはお前が、ぁ、ああ?」
さっと、冷水をかぶったように体の熱が冷め。内側からぞわぞわと這いずるように鳥肌が立つ……ような感覚に襲われる。
「きゅい!!」
俺と同じものを感じたであろうボーパルも俺にしがみついていた体を離し、忙しなくミミを動かして辺りを探り始める。
だがその行為にどれほどの意味があるだろうか。何故ならば集中して探るまでもない。奴等がいるのは、
「「「「ギィィィィィィィ!!」」」」
「メェ!?」
「ホー!」
ここら一帯全てなのだから。
「『ウィンドストーム』」
「「「ギ、ギィィ~~~~!?」」」
そして登場と同時に木っ端の如く体もHPも吹き飛ぶアント達。
「……で、ですよね~」
数が多い上に、突然現れたからビビったけど相手は吹けば飛ぶ様な(文字通り)格下なんだし、範囲攻撃使いが3人とスピードファイターが2人いるんだ。なにも問題無いじゃない。
……若干1名役無しが居るような気もするけど、合計5人だからピッタリだな。うん。
「うし、終わり」
「きゅい~」
「ホー」
そんなことを考えてる間にシルフとボーパルの高機動組とミズキがアントを1体残して全滅させてしまってるし。そして残ったアントはシルフの拷問コースへご案内……
「そうだ、ミズキちゃん。魔法はあんまり使わないでね。あたしのMPが切れたら初手範囲魔法を代わって貰いたいから。もちろんおねぇちゃんもね」
「あいあい」
「ホー」
魔力タンクの代わりですね分かります。
「よーし、それじゃあ3人のMPが切れるまで連戦行くよ~!」
「……マジで?」
「きゅい!」
「ホー」
「メェ~」
「ギィィィィイィィィィィイィィィィ!!!」
マジで?
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