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番外編:ハロウィン始めました

※注意※

この話は番外編です。本編の進行には一切関係ない上に時系列が多少ズレていますので、本編と似た別の世界線のパラレルワールドのお話だと考えていただけると幸いです。


「じゃあ、あたし先に入ってるから!お兄ちゃんもすぐ来てよ!」

「はいはい。いつもの所に集合だろ?これ終わったらすぐ行くから先入ってろよ・・・って、もういないし」


ピュ、ピュ~と、明日も追い越す速度で飛び出した翼を追うように俺も自室に戻りFWOの起動準備を始める。


今日は10月31日。ハロウィンだ。

FWOでもハロウィンイベントが開催されるらしく俺達もそのイベントに合わせてリアさんの所で待ち合わせをしている。イベント内容は秘密らしいので翼ほどでは無いにしても俺も結構ワクワクしている。


「ダイブイン!」


さて行きますか。


----------------------------------------------


「うおおぉぉぉおおう!?」


ログインするとそこはゴーストタウンだった。いやゴースト (物理)タウンだった。

辺りを歩く人々はプレイヤーもNPCも問わずお化けばかりで、厚い雲がかかった薄暗い月明かりが照らす町並みもハロウィン仕様になっており所々にカボチャやデフォルメされたお化けのイラストがあしらわれていたり不気味な感じに捻れていたりしている。


・・・あの捻れてる家、中どうなってんだろう?ぐるっと一回転してるんだが・・・


ま、まぁ、それはさておき。気になるのは今の自分の格好だな。


いつものうさぎさん装備は跡形も無く消え去りタキシード姿に足首まで届く程の、裏地が赤の黒マントを装備している。

そっと歯に触れば一部が鋭く尖っていたからドラキュラの仮装で間違いないだろう。良かった、まだ人間に見える仮装で。

通りを歩く人々はスケルトンとかの人外もチラホラいるからな。あんなん誰か見分けつかんだろう。むしろモンスターが紛れ込んでても分からないレベル。


あ、鑑定すればいいのか。


・・・およ?鑑定結果に仮装内容が書いてあるな。

どうやら俺の仮装はバンパイアだったらしい。・・・ドラキュラとどう違うのだろうか・・・分からん。


----------------------------------------------


「『サモン・ボーパル』」

「『サモン・ミズキ』」

「『サモン・アイギス』」


一通り現状把握を終えた後。待ち合わせ場所に向かいつつ、皆を召喚する。召喚した皆もハロウィン仕様の仮装をしていた。


「メェェェェ?」


ちょっとくぐもった鳴き声を上げ鬱陶しそうに体をこすりつけてくるアイギスは全身火傷の患者みたいに体中に包帯をグルグル巻きにされていた。種族はマミーらしい。

どう見ても動きにくそうなんだが通常状態と同じように動けるみたいだな。


・・・まぁ仮装に行動が縛られるのなら骨しかないスケルトンとか若干宙に浮かんでるゴーストとか身動きとり難いわな。見た目そんな次元じゃないが、あくまでも”仮装”だしな。見た目だけ変わっているんだろう。


「ホー!!」


ミズキはシーツを頭から被って目の位置だけ穴を空けたようなチープなお化けスタイルだ。

胴体部分が大きく取られており翼の部分が短い手のように膨らんでいるのだが、羽ばたくたびにその手がピコピコ動いてて可愛い。

某胃袋ブラックホールなピンクボールみたいな飛びかただな。


「きゅい!」


ボーパルは・・・何と言うか、

トランプのマークの描かれた体の真ん中までのサイズのチョッキに、シルクハット。自分の身長の半分以上もある大きな懐中時計を背中に斜め掛けしている。種族は白ウサギだそうだ。


・・・お化け?

某不思議な国への案内人にしか見えないんだけど。いや可愛いけどさ。すごく可愛いけどさ!


まぁハロウィンの仮装ではアリス系は定番だけども、明らかに他と方向性違うよね?

ハマリ役というか明らかに製作陣の作意が入ってるよねコレ。スケルトンの彼との落差がひどい。


まぁこんなに可愛いウサギならホイホイ付いていくのも分かろうというものだけどな!

縞模様の猫も探さないと。俺あの猫大好きなんだよね。


----------------------------------------------


「およ?きたきた。お姉ちゃーん!こっちこっち!!」


百鬼夜行の向こうからシルフの声がする。見た目がアレだけど声は変わらないから声を頼りに探せばすぐ見つけられるかな。


「えーと?あっちか?」

「こっち!こっちだってば!」

「きゅい!」

「そっちか。おっ、いたいた。シr、誰だお前!!」


そこには顔が半分爛れたシルフとリアさんとレン君とがいた。

顔が爛れて左目が零れ落ちそうなシルフは絶対ゾンビだと思ったのにグールだった。相変わらず違いは分からない。


「ボーパルちゃん達も久しぶり!って、キャ~!!!なになになにボーパルちゃんのその格好ちょー可愛い!モフらして!そのまま夢の国につれってってぇ~」


シルフよ。夢の国だとウサギじゃなくてネズミだ。


いつもどおりボーパルにすりすりと頬ずりをするシルフだが流石に今のシルフ(グール)に頬ずりされてはボーパルも嫌そうに顔を避けている。別に本当に腐ってるわけでも爛れてる訳でもないけど確かにアレは嫌だ。


「おーい、シルフさんや。ボーパルも嫌がってるからその辺にしてやってくれないか」

「なん・・・だと・・・」

「きゅいー!」


俺の言葉にシルフが硬直し、拘束を緩めるとボーパルが逃げるように俺達の方に跳んできて後ろに隠れる。それを見たシルフがまたへこんでいる。


うん。気持ちは分かるぞ。俺もボーパルにスキンシップを断られたらこの世の終わりみたいな顔すると思うし。


「あらあら。シルフちゃん振られちゃったわね」

「うーん。でもボクもいきなりグールに頬ずりされたら逃げると思うな」

「あ、リアさんとレン君もお久しぶり」


地面に手と膝をつきうなだれるシルフを苦笑とともに見守っている二人にも挨拶をする、


「ええ、お久しぶり。と言ってもほぼ毎日顔合わせてるけれどね」


クスクスと笑うリアさんは片手に顔のついたカボチャ(ジャックオーランタン)の上と中身をくりぬいて取っ手を付けたようなカゴを持ち、頭には反対にカボチャの上半分のような帽子。全身は一枚のワンピースにこれまたジャックオーランタンの絵が描いてある。また、スカートの下からカボチャぱん・・・もといカボチャ型の・・・パニエ?スカートを膨らませる風船みたいなものが見えている。モロ見えである。


・・・もうちょっと年齢を考慮した仮装は無かったのか。シルフが着たらお似合いのカボチャ装備だと思うんだがリアさんじゃ・・・いや、何も言うまい。

何も言いませんから無言で視線を飛ばすのはやめてください。お願いします。


「ボクはお久しぶりだね!会いたかったよみんな~」

「きゅいー」

「ホー」

「メェェ」


ボーパル達3人を一緒にむぎゅ~っと抱きしめているレン君は、ねじれた角にコウモリの翼。先端が矢印になっている細いシッポの生えた悪魔スタイルだ。

ちなみに尻尾は感覚が無く自分の意思で動かすことも出来ないらしい。

トラブルが起こらないようでなによりだ。


・・・種族はデビルか悪魔だと思ったのにデーモンだった。違いはry


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「この世界は間違っている・・・!」


「そうね。・・・あっ、カボチャクッキーを作ってきたのだけれど、お1つどう?今日に限り『トリック・オア・トリート』って言えば品質の劣化無しにお菓子を渡せるみたいなのよ。断ってもイタズラはされないけどね」


さすがリアさん。スルースキルはんぱねぇ。テンション上がってるときのシルフの扱いを良く分かってらっしゃる。


「へー。じゃあお言葉に甘えて『トリック・オア・トリート』」

「じゃあボクも『トリック・オア・トリート』」

「『きゅいっきゅ・きゅい・きゅいーきゅ』!」

「『ホー・ホー・ホー』!」

「『メェェ・メェ・メェェェ』!」


俺とレン君と一緒に3人も鳴いている。なに言ってるかは分からないけれどたぶんトリック・オア・トリートって言ってるんだろうなあ。可愛いすぐる。


「あらあら、うふふ。いっぱい作ってきたから皆で食べましょう?」


「ちょっと!あたしを無視しないでよぉ!くっ、コレも全部グールが悪い!魑魅魍魎(ちみもうりょう)も恥らう乙女にグールってあーた。もっと他に可愛いのがあるでしょうに!あっ、リアさんクッキーあたしにもちょうだい。『トリック・オア・トリート』!」


相変わらずFWOに入ると情緒不安定になるヤツだな。


「はいはい。勿論シルフちゃんの分もあるわよ。はいどうぞ」

「わーい。ありがとー」


さっきまでへこんでたくせにクッキーを受け取った途端上機嫌で端っこから齧りだすシルフ。

シルフはお気に入りのクッキーとかはチビチビと端から削る様に食べる癖がある。お菓子のカスが零れるからやめれと言ってるのにこっちの方がおいしいからと言ってやめない。困ったものだ。


ちなみにボーパルも両のお手手で支えておんなじ様にカシカシと食べてた。可愛いぞ。もっとやれ。


「そういえばタク君は?」

「んー?待ち合わせの時間は過ぎてるしもうすぐ来ると思うけど」

「すまん。遅れた!」


お化けをかきわけ合流したタクはTシャツにジーパン姿なこと以外いつもと全く変わらない様に見えるな。


「噂をすれば何とやらってやつね。タク君は何の仮装・・・あっ」


その瞬間俺達は、いや俺達だけじゃない通りを歩いていた人たちも一斉に立ち止まり空を見上げる。


「月が・・・」


そう呟いたのは誰だったのか。ログインしてからずっと月を覆い隠していた厚い雲が嘘の様に消え去り、手を伸ばせば届きそうな程近くに感じる大きな満月が顔を出していた。


「キレイ・・・」

「ああ、・・・そろそろイベント開始時間だしそれに合わせた演出ならずいぶん気のきいた粋な演出だなぁ。・・・なぁ、タ・・・ク・・・」


全員が上を見上げてるなか。一切じゃべらない悪友の方を見て絶句した。

さっきまでの普段着姿のタクはどこにもおらず、代わりに居たのは・・・着ていたTシャツが内側から弾けとび顔を含んだ上半身が大量の体毛に覆われたジーンズを履いた毛むくじゃらの何かだった。


「キモッ!毛深!キモい!タク何その毛むくじゃら、キモ!気持ちわる!」

「えっ?うわっキモ!えっあの毛玉、タクさん!?うわぁ・・・ちょっとこっち来ないでください」


「ひでぇ!お前ら兄妹はいつも俺に対してだけ容赦が無さ過ぎる!ってかシルフの見た目も相当ヒドイじゃねえか!お前には言われたくねえ!」

「あ゛あ゛ん?それはあたしに喧嘩売ってると見ていいですよね?いいんですよね?」

「お、おう。どんとこいや!」

ポチポチ「あっ、すいません今掲示板にタクさんの黒歴史の数々をカキコするのに忙しいので少し黙っててもらっていいですか?」

「すんませんしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。自分が調子乗ってました!謝りますんでどうか!どうか!それだけはご勘弁ぉぉぉぉぉ!!」


タクがスライディングDOGEZAで間合いを詰めると、シルフの足元にすがりついてる。

どこが指なのかも分かりにくい毛玉が足首を這う感触の気持ち悪さに、シルフがキモイキモイと連呼しながらタクの手を蹴り払っている。確かにアレは気持ち悪いな。生理的にムリ。


そんな攻防を続けながらも両方ともが俺に何とかしてくれと視線を送ってくるし・・・

・・・はぁ。全く、タクもシルフに勝てたことないだろうに何故挑むかね?バカなのかね?


「まぁまぁ、シルフもそれぐらいで許してやれよタクも謝ってるんだし。何よりこのままだと鬱陶しいし」

「ちっ、しょうがないから許してあげます。このまま付きまとわれたら鬱陶しいですし」

「ハハー、アリガタキシアワセ・・・」


すげー片言で感謝を告げてから立ち上がる毛玉、もといタク。種族は狼男らしいがどこら辺が狼?

黒色のム○クか雪男の方があってね?

ムックロか黒雪男とか・・・うん。ハトのポケットに入るモンスターと加速する蝶のアバターの姫しか思い浮かばないから却下だな。


「おお!」


雲ひとつ無くなった紫色の空から街中に大量の流れ星が落ちてくる。

キラキラと光の帯を引きながらゆっくりと落ちてきた流れ星達は地面スレスレまで降下するとポンッとコミカルな音をたててアメ玉になった。ちょっと離れたところではチョコレートやカップケーキなんかもある。ただし、その全てにこれまたマンガチックな手足が生えていて好き勝手に動きだしてるが・・・


《イベントクエスト『イタズラお菓子を捕まえろ!』を受理しました》


ふむ。この歩くお菓子たちが今回のイベントのキーになるのかな?

ざっくりとイベント内容を纏めるとこんな感じだな。


1 概要 街中に溢れた動き回るお菓子たちを捕獲しよう。

2 動き回るお菓子は捕まえたらイベント限定のお菓子になる。

3 街中でのイベントのためダメージを負うことはない。街から出たらイベントの効果は無くなる。

4 街なかに現れる動くお菓子の出現数は固定で減ったぶんは流れ星になって降ってくる。

5 殆どのお菓子は触れば捕まえられるが一部には条件を満たさなければ捕獲できないお菓子がいる。

6 同時出現数1体のお菓子を捕まえた場合。今着ている仮装の引き換え券がもらえる(譲渡可)。

7 イベントは日付が変わったら終了する。


と、まぁこんなところか?情報量が多いなつまりどういう事だってばよ。


「きゅい~」


ピョーンと飛んだボーパルが近場を転がっているアメ玉をタシッと捕まえるとポフンという気の抜けるような音とともにアメ玉がアメ玉になった。うん、分かりにくいこれからは動き回るほうのお菓子はお菓子のお化けと呼ぼう。そうしよう。


「お菓子のお化けを捕まえればそのお菓子になると。コレは純粋なスピード勝負になりそうだな。タク達はどうす・・・っていねぇし。どこいった」


「タク君たちなら説明の途中からお菓子を追いかけに行ったわよ?今の仮装を直ぐにでも変えたいんですって。ついでにレン君も帰ったわね。なんでも大量ゲット用の網を作るとか・・・」


「全員自由だな・・・」


イベント前にわざわざ集合した意味よ。顔合わせしかしてねえ。タクに至っては漫才しかしてなくね?


「・・・タク達に負けてられないな。俺達も行くぞ!」

「きゅい!」

「ホー!」

「メェェ!」


「行ってらっしゃい。私は運動は苦手だから近くに寄ってきたのだけ捕まえることにするわね」

「はい。行ってきます。・・・あっ、ボーパル。それは食べちゃっていいからな」

「きゅい!」

「メェェ!?」


両手を掲げてさっきのアメ玉を俺に渡そうとするボーパルにあげると言うと何故か驚くアイギス。

そしてキラキラと目を輝かせ周りのお菓子のお化けを探しだす。

あー、これは自分も捕まえてお菓子を食べようとしている顔だな。

しまったな早まったか?まぁいいかアイギスよりも早く見つけて捕まえればいいだけの話だしな!


まぁ最後には山分けして皆で食べるつもりではあるんだけども。


----------------------------------------------


「ひにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「きゅい!?」

「うおっ!?何だ!?」

「ホー!」

「メェェ?」


順調にお菓子のお化けを捕まえつつ、流れ星を追って裏路地まで迷い込んだら聞き覚えのある声で聞き覚えの無い悲鳴が聞こえたぞ!?


「いやぁぁぁ・・・こ、こないでぇぇぇ・・・」


一回目よりも掠れていて聞こえにくいが間違いない。場所はいつものとこか!


「むり・・・おばけぇ・・・」


「フィアちゃん!?大丈夫か!?」

「きゅい!」

「ホー!」

「メェェ?」


鍵が開けっ放しの扉を潜りアトリエの中に滑り込んだ俺達の前には、宙に漂いフラスコと何か良く分からないキノコを振り回して遊んでいる。巨大なロリポップの棒部分からこれまた棒人間の様な手足の生えたお化けがいた。


「えーっと、フィアちゃん?どこ?」

「!!誰!?お化け!?」


「いや、お化けじゃないぞ。お化けの仮装はしてるけども」

「きゅい!」


ただでさえもちみっこい体をさらに縮めて机の下に隠れていたフィアちゃんは、ツバが長く天辺が折れ曲がっている黒い三角帽子に、同じく黒い足首まで届く黒マントを装備した魔女っ娘コスだな。

前が開いているマントの中に着ている服はアニメとかの制服でありそうな可愛らしいミニスカセーラーだ。当然ストッキングも装備していて絶対領域が眩しい。

フィアちゃんが見た目学校に通うような年齢だからか制服がとてもよく似合っている。

うーん、フィアちゃんにはセーラーがとても良く似合っているけれど、ブレザーも絶対かわいいよな。袴姿もいいと思うけども。


あー、お持ち帰りして着せ替えしたい。家にはフィアちゃんに合うサイズのブレザーも袴も無いけれども。・・・今度ネットで探してみようか・・・。


「ユっ・・・あなた、でしたか・・・あっ。ボーパルちゃんお久しぶりです。その仮装も可愛いです」

「まるでボーパルが本体みたいな対応された!むー、フィアちゃんの悲鳴が聞こえたから急いで駆けつけたのにー」


「・・・!べ、べつに悲鳴なんてあげてません。あなたの聞き間違いです」

「えー、本当に?」

「・・・本当ですっ」

「ホー?」


俺とボーパルに遅れてミズキもフィアちゃんの様子を見に来た。

ちなみにアイギスはずっと空飛ぶロリポップと激闘 (一方的にからかわれているだけ)を繰り広げている。

物は壊すなよー。


あ、ちょっと待った。今のミズキがフィアちゃんの前に出てきたら。


「ひゃああああああああ、おばけええええええええ!」


ヒシッ!


「うおっ!っとと」


ミズキの姿を見てお化けかと思いビックリしたフィアちゃんが、正面から、がっしりと、小さな体をきゅっと縮めながら、プルプル小さく震えて、抱きついてくる。


うわー、何ていうかうわー。


反射的に抱きしめちゃったけどどうしよう?とりあえず頭撫でとこう。

スゲー可愛い。可愛いんだけど、なんかすっごいムズムズする。

今すぐベットに飛び込んでゴロゴロしたい感じ。

あ、勿論フィアちゃんもオプションでお願いします。


抱き枕サイズのボーパルでもいいよ!

むしろバッチコーイ!


「・・・おばけぇ・・・いやぁぁぁ・・・」

「あー。大丈夫、大丈夫。こいつはお化けに見えるけどミズキだから。大丈夫だから、な?」


「・・・おばけ・・・ちがう?だいじょぅぶ・・・?」

「はうぅ!」


ヤバイ。なにがヤバイってマジヤバイ。

破壊力がハンパない。涙目の上目使いで俺の服をきゅって、両手を肩の位置に添えてきゅってするんだよ。きゅっ♪て。

フィアちゃんの顔の周りにキラキラと謎のエフェクトが飛んでいるようにも見える。


これが世に聞くギャップ萌えというやつか・・・。

精神に受けた衝撃がダメージに変換されてたらHPはとっくに消し飛んでいただろうな。

これがキュン死というものなんだろうな。意外と悪くないかもしれない。


「メェェェェェェェェ!!」


俺がフィアちゃん相手にはうはうしてるとアイギスが勝ち鬨を上げた・・・勝ち鬨?


高く雄たけびを上げるアイギスのひづめの下には、すでにただの巨大なアメになったロリポップが転がっていた。


あ、うん。捕まえたのね。良かったね。・・・でも、もうちょっと遅くても良かった気もしないでも無いけれども。


「ほら。ロリポップのお化けもアイギスが捕まえたから、もうお化けはいないぞ~」


そう言って抱きついてくる・・・というか、抱きしめてくるフィアちゃんの背中をぽふぽふ叩いて離す。

名残惜しいけど。


あー、もうちょっともふもふ、フカフカしてても良かったかもな。役得役得。


「・・・おばけ・・・いない・・・?よかっ・・・!?・・・」


「きゅい~?」

「ほ~?」

「メェ!・・・ッ!メェェ!!」


俺からヨタヨタと距離を取った後、片手でマントの下のスカートをぎゅっと握り締め、反対の手でトンガリ帽子のつばを押さえ、下を向いてプルプル震えるフィアちゃん。

トンガリ帽子の広いツバで顔を隠しているが、もともと色白なフィアちゃんは帽子を押さえる手までうっすらピンク色になってきてる。おそらく今顔をのぞいたら耳まで真っ赤になってるんじゃなかろうか。


ボーパルとミズキが、プルプル震えているフィアちゃんを心配して下から覗きこんでいるが、俺が同じ事をしたら怒られるだろうか?ちょっと見てみたいんだが。


あっ、ちなみにアイギスはロリポップの包み紙がひづめじゃ剥がしにくて悪戦苦闘してる。どの道そのままじゃ口には入らないのだから砕いて破ればいいのに・・・そんな考えは無いらしい。


「・・・てく・・・さい」

「ん?」


「・・・忘れて、ください」

「えー、そんな忘れろっていわれてもー、そう簡単に忘れられるものでもないしー」


忘れたくもないしー。


ジャララッ、ドスン。


「忘れろ」

「忘れます」


断ったら記憶とぶまで殴るって事ですね、分かります。


「さて、と。お化けも倒したし、フィアちゃんの可愛い姿も見れたし、色んな意味で。そろそろ行こうか。あれ?そういえばエルは?」

「・・・まっ・・・あ、ね、姉さんなら『おみあげいっぱいかってくるデース!』って言って飛び出して行きました」

「似てる似てる」


『かってくるです』は買ってくるじゃなくて狩ってくるなんだろうなぁ。


「んじゃ、街で見かけたら挨拶しとくけど一応俺がよろしく言ってたって伝えといて。エルの仮装見たかったなーって言ってたって」

「・・・ん。分かりました。でも姉さんの仮装は、動く人型スライムだから見ても誰か分からないかもですが」

「エルはスライムなのかよ・・・エロいな」

「・・・はぁ、何でそうなるのですか・・・」


触手とオークとスライムは字面だけでエロくない?いや、字面だけならそうでもないか。

個人的に陵辱系はキライだしどうでもいいや。くっころ。


「うーし。じゃあそろそろ帰るぞー。しゅーごー」

「・・・っ!まっ・・・」


「メ゛ェ゛ェ゛」

「きゅいー!きゅいー!」

「ホーホー!」


「・・・何やってんのあいつら・・・」


アイギス達の声のするほうへ振り向くと、そこではアイギスの口から生えるロリポップの棒を2人掛かりで引っ張るボーパルとミズキと、反対方向へと体ごと引っ張っているアイギスがいた。


こう描写するとまるでロリポップを奪い合っているように見えるがアイギスがめっちゃ涙目で悲壮な声を上げているのとあきらかにおかしい角度でかじりついている大口を見るに、アイギスが限界まで口を開いてロリポップに噛り付いたはいいものの今度は外れなくなったのでボーパル達が外すのを手伝っているとみた。


「はぁ。まったく・・・何やってんだよ・・・」


そも、アメは噛り付くものじゃなくて舐めるものだぞ?


「・・・!大変です。今ハンマー持ってきます。どこに置いたか探さなきゃいけないので、少しこの部屋で待っていてください」


ガチャ


「・・・ ・・・ ・・・どうしてもと言うのならば付いてきてもいいです」


いつもの倉庫への入り口を開け、真っ暗な廊下を前に一歩が踏み出せず、硬直した状態のままフィアちゃんが言う。

怖いのか。怖いんだな。可愛いなぁ。

未知のアトリエ倉庫も気にならないわけじゃないが今回に限ってはフィアちゃんに怖い思いをさせてまで行く必要はあるまい。


「アイギス、『送還』んで『サモン・アイギス』」

「きゅい~~」

「ホー!」

「メエ?」


アイギスを一旦送還したことで綱引きの相手が急にいなくなったボーパルがコロンコロンと後方でんぐり返しを繰り返しながらこっちへ転がってきたので両手でポフンと受け止めた。

きゅ~っと目が回ってふらふらしてるボーパルも可愛いなぁ。

ちゃっかり上空に退避していたミズキも、ロリポップを引っぱりながら合流する。


・・・アイギスはもう諦めなさい。後で砕いてあげるから。


「ありがとなー、ミズキ。あっ、フィアちゃんは俺達が帰ったらちゃんと戸締りしておけよ?まーた、お化けに入られるぞ?」

「・・・っ、分かりました。誰が来ても絶対に開けません」

「いや、エルが帰ってきたら入れてやれよ」


おみあげ持って帰ってきたのに妹に締め出されるとかかわいそうすぎる。


「それとも・・・俺達と一緒にまわるか?お菓子いっぱい食べられるぞ?」

「・・・ ・・・いえ、お菓子をあげると言われても知らないおじさんには付いて行かないと姉さんと約束していますので」

「俺は知らない人でもなければおじさんでもないよね!?でもその約束は大事だ。お兄ちゃんとの約束な。フィアちゃん可愛いから誘拐とか心配だし」


1人でお留守番かわいそうだったから誘ったのに振られちゃった。エルもなんでフィアちゃんを連れて行かなかったんだろう?テンション上がりまくって飛び出しちゃったのか?


「・・・かわっ・・・とか・・・からかわないでください」

「ははは、ごめんごめん。流石に知らない人についていくほど子供じゃないよな」


「・・・いえ、そうではなく・・・はぁ。もういいです」

「そうか、じゃあ俺達はもう行くから。またなー。良いハロウィンをー。でもあんまり夜更かしはしたらダメだからなー」

「きゅいー」

「ホー」

「メェェ」


「・・・言われなくても分かってます。皆さんも良いハロウィンを。『トリック・オア・トリート』」

「・・・はっ!俺としたことがフィアちゃんにお菓子をあげるのを忘れていただとぉ!?今すぐあげるから待ってて!あっ拾い物しかないけどそれでもいい?いや、待て。ここでお菓子を渡さなければフィアちゃんにイタズラしてもらえるということで・・・!?俺は天才か・・・いや、だがそのためにフィアちゃんを悲しませる訳には、うぉぉぉぉ!俺はどうすればいいんだ!?」


「・・・とりあえず黙ればいいと思います」


「そげぶ!・・・ハッ!い、いや違うんだフィアちゃん。さっきのは口が勝手に俺の意思に反して動いたんだ。言うなれば宇宙の意思が俺に喋らせたんだ。あっ、コレあげる。カボチャパイ。俺的に一番おいしかったやつ」


「・・・はぁ。あなたはいつもそんな感じじゃないですか。バカなこと言って騒いで。フィアのことを困らせて。・・・これだけ騒がしくしたらお化け達もビックリして逃げていってしまいますね」

「あれ?フィアちゃん笑って、」


「・・・フィアは1人でも大丈夫です。貰ったかぼちゃパイを食べながら気長に姉さんを待つことにします。それではお休みなさい」

「フィアちゃん?フィアちゃーん。もう一回!もう一回顔見せてよぉ!今度はSS撮るから!心のアルバムにも永久保存するから!おーい。フィアちゃんてばー!」


・・・それからしばらくドスドスとアトリエの扉を叩いていたけれど結局フィアちゃんは扉を開けてくれなかった。


はぁ、しかたない。イベントの時間は有限だしいつまでもここに張り付いてもいられないか。

とりあえず目指すはイベントボスだな。引換券を最低1枚。出来ればもう1枚は欲しいからな。

サクサク、ザコを倒しながら行きますか。


----------------------------------------------


『ヤホホホホホホホホ』


「いたぞ!あっちだ!捕まえろ!」

「きゃあああああああ!」

「何だ!?突然泥沼が!?」

「いや・・・この匂いチョコだ!チョコ沼だ!」

「あっ、ちょっ、チョコが固まって身動きが!」


『ヤホホ』


ボスっぽい固体を発見するのはさほど難しくはなかった。そもそも一体しか出ないとはいえ出現場所は街の中に限られている上に今は街中にプレイヤーが溢れかえっている。

ちょっと騒がしい所を中心に回るだけであっさり発見できた。


発見はできたんだが・・・そこで詰まってる。


ボスの姿は、中に火の灯ったジャックオーランタンの頭だけが宙に浮遊しており、その下部にくっつくように真っ黒のボロのコートが風に靡いている。また、そのコートの袖の先には白い手袋がこれまた宙に浮かんでおり右手には灯りの灯ったカンテラをぶら下げている。


厄介なのが空を飛んで移動していることだな。跳べば届きそうな低空飛行ではあるが普通に手を伸ばしたところで届かない。嫌な高さを保ちジャックオーランタンはプレイヤーから逃げ続けている。


ジャックオーランタンの特殊能力も厄介だ。

事前にイベント内容に書いてあった通りダメージは無いのでその能力はプレイヤーの足止めが主となる。


一つカンテラを振ると地面がチョコ沼に変わってプレイヤーの足を取る。

二つ笑えばプレイヤーの顔の目の前。回避不可能な距離にカボチャパイが出現しプレイヤーの視界を塞ぐ。

三つコートを大きく薙げばその身がタダのカボチャを残し忽然と消えて、プレイヤーの手をかわす。


他にも坂道では上から大量のアメ玉を転がしてきたり、傘の持ち手型のキャンディーを大量に地面から生やしたりしてプレイヤーの阻害をしてくる。



・・・だが、たかがその程度でうちのエースは止められない。止まらない。

チョコの沼をノンストップで駆け抜け、回避不可能な距離に現れたハズのパイをイナズマの様なステップで慣性を無視して垂直に曲がることでかわし、触れる直前に転移したジャックオーランタンの方へと空中に残ったカボチャを踏み台に軌道を制御してなおも追いすがる。


転移直後は動けないのかそれとも驚愕しているのか固まったジャックオーランタンの元へとついにその足が届いた。


ミズキの足が。

一拍遅れてボーパルもヒシッと。あるいはぺちっとそのカボチャ頭に抱きつく。


・・・まぁミズキは空を飛べるんだから捕まえるのはたやすいわな。足止めは多いけど素の速度はそんなに速くないし。


・・・え?アイギスはどうしたかって?最初のチョコ沼で沈んでいますが何か。

最初はチョコ食べ放題に喜んでいたんだがチョコが冷えてくると毛の間に入り込んだチョコが固まってちょっと悲惨なことになっている。


後で火魔法で軽く炙ってから水魔法で流しておこう。


『ヤホ、ヤホホホホホホホホホ』

「きゅい!?」

「ホー!?」


ここでちょっと予想外の状況になった。今までのお化けは直接触れるか、ある程度押さえていたらお菓子になったんだがジャックオーランタンはまったくお菓子になる気配もなく、しばらくもがいた後ミズキ達を振り払って転移してしまった。


と言ってもそんなに遠くには飛べないらしく、見える範囲にはいるんだが。


まぁ、そうだよな。わざわざ捕獲に条件のあるお化けもいるって公式が明言してるんだから。ボスは当然特殊条件持ちだよな。問題はその捕獲条件がさっぱり検討もつかない事なんだが。

まぁ、まだ時間はあるし他のプレイヤーのやり方を見学していようか。



・・・そして今にいたると。

未だにジャックオーランタンを捕獲できた人はおらず俺達と同じジャックオーランタンの後をつかず離れず追いかけつつ思いついた事があれば近づいていく消極的なプレイヤーだけがどんどん膨れ上がっていく。


最初は後追い組みどうしで牽制していたんだが、いつまで経っても誰も捕まえられないのと捕まえてもすぐに復活するだろうから現在では皆で協力して攻略法を模索している。

たとえ突撃が失敗しても死なないというのも大きいな。チョコまみれ、パイまみれにはなるが死ぬほどではない。死ななければ安い。


とはいえコレまでのストーキングで分かった事は余りにも少ないが。

1つ捕獲条件は人数ではないらしいこと。ジャックオーランタンがプレイヤーで見えなくなるくらいの人数で覆いかぶさったのに捕まえられなかったからコレは間違いない。


2つ街中に散らばっているプレイヤーに情報提供を求めたが碌な情報が無かったこと。


以上である。


後追い組の意見としては何か見落としている事があるのか、もしくは時間が経てばヒントが出るのかで意見が分かれているが俺的には何か見落としがあるのだと思っている。


ぶっちゃけリアルでもそろそろ夜が更けてきてる頃合だし、深夜にプレイしないとボスが倒せないなんていうそんなアホな話はないだろう。


つまり俺達は何かを見落としているんだ。出されたヒントを、あるいは答えそのものを。


考えろ。お化けを捕まえる方法を。

お化けを捕まえてお菓子を手に入れる方法を。


・・・ん?


そうだな。あくまでも目的はお菓子を手に入れる事であって、お化けを捕まえるのは手段でしかないわけだ。


・・・いけるか?まぁ試す価値はあるか。


「次俺達が行く!合わせてくれ!」

「「「おう!!」」」

「きゅい!」

「ホー!」

「メェ!」


チョコ沼の射程圏外で一塊になって走っていた集団から前へと飛び出す。

後追い組の皆も俺達の動きに合わせて掛け声を上げ、既に最適化されかけてる各々の行動を開始する。


『ヤホホホホホホホホ』


射程に入った俺へとジャックオーランタンが手にもつランタンを一振りすると俺の前面の地面が一斉に溶けた様にチョコになる。このまま突っ込んだら足を取られて終わりだが・・・


「『『『ウォーターストーム』』』」


味方の援護魔法で冷えて固まったチョコの上を走る。

街の中ではダメージを食らわない。その特性を生かした強行突破だ。渦巻く水の中に突っ込んで行くのも、最初はためらったがもう慣れた。同じく水の嵐を突破してきたボーパルとアイギスと共に前へ。前へ。


『ヤホホホホホ』


ジャックオーランタンが笑えば顔の正面。回避不可の所にかぼちゃパイが現れ・・・


「『カバー』」


瞬間俺の正面に1つの人影・・・いや、骨影が出現する。


グッ!


頭蓋骨をパイまみれにしつつサムズアップしたスケルトンの彼は一言も発さずにクルリと踊るように回ると、迫る俺を見事に回避して後ろの集団に飲み込まれていく。


スケルトンの彼ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


「くっ、彼の犠牲は無駄にはしない。総員突撃!」

「きゅいっ!」

「ホー!」


下からのボーパルの跳び蹴りと上からのミズキの降下攻撃の多段攻撃がジャックオーランタンに迫る。


『ヤホホホホ』

「きゅい!?」

「ホー!?」


ボーパルの跳び蹴りを空を飛ぶことで回避し直後の方向を調整したミズキの攻撃は転移でかわされた。


・・・ねらい目は転移直後の今!再出現地点は跳躍を使っても手が届く高さではないがボーパル達がせっかく作ってくれた隙だ。ココで決める。


「アイギス!」

「メェ!」


俺は跳躍で跳び上がり、アイギスは壁を使った三角跳びで宙を舞う。

だが、ジャックオーランタンまでは届かない。だがコレで足りる。


「『『『ウィンドボール』』』」


「メギュ!?」

「だぁらっしゃー!!」

『ヤホ!?』


ちょっと予想よりも多くのウィンドボールがアイギスの下っ腹に炸裂し、その勢いで跳ね上がってきたアイギスの体を踏み台に二段ジャンプをする。

単純にウィンドボール命中の衝撃でも空に打ちあがる事は出来るのだがコレは飛行方向の制御がとても難しい。故の踏み台ジャンプだ。


流石のジャックオーランタンも空中で仲間に魔法をぶつけた上に踏み台にしたのには、ビックリ仰天したようで目の穴から中の炎が噴出して驚いている。目が飛び出る演出なのかも知れないが怖い。


「捕まえた!」

『ヤホ!?』


ゴッチンと空中で激突したジャックオーランタンを羽交い絞めにして互いにもつれながら墜落してくる。


余談だが俺がココまでして跳躍した距離をボーパルは1人で跳びあがった事になるが。ボーパルのやることなので気にしてはいけない。


「よっし!よくやったぞアイギス!」

「・・・つい、サポートしちゃったが味方に魔法をぶつけて射出した上にその味方を思いっきり踏みつけるって、なかなかの鬼畜の所業だよな・・・」

「・・・しかも自分には逆らえない召喚モンスターを使うとか悪魔か・・・いや、バンパイアか」


うん。外野の声は気にしない。いくらHPが減らないとはいえ、ちょっとやりすぎちゃった感はあったしな。すまんアイギス。お菓子多めに割り振るから許せ。


「きゅいー」

「ホー」

「メ、メェェ」

『ヤ、ヤホホ』


地に落ちたジャックオーランタンにボーパルとミズキも追いついてきた。


まだ、タックルからの、墜落のショックから立ち直っていないジャックオーランタンへと、それぞれが手や足を乗せるのを確認すると。今日だけでもう何度も聞いたあの言葉を発する。


「『さぁ、捕まえたぞ(トリック・オア)お菓子をよこせ(・トリート)』!」

「『きゅいっきゅ・きゅい・きゅいーきゅ』!」

「『ホー・ホー・ホー』!」

「メ・・・『メェェ・メェ・メェェェ』!」


『ヤ・・・ホ・・・』


ジャックオーランタンがボロの端からちょっとずつ溶けていったと思ったら。一気に消えて後には大きなかぼちゃ(ジャックオーランタン)が残った。残ったかぼちゃは天辺が蓋になっているようで中にギッシリと詰まっているかぼちゃのお菓子と引換券らしき紙切れが開いた蓋の隙間から覗いていた。


「「「「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


「きゅい!?」


一瞬の静寂ののちに沸き起こった天地を揺るがすような大絶叫にボーパルが長いお耳を両手で押さえてビックリしてる。かくゆう俺もつい体がビクッとなってしまった。


「やりやがった、本当にやりやがったそ!!」

「捕獲条件は触れた状態で『トリック・オア・トリート』だ早く拡散しろ!」

「急げ!次からは早い者勝ちになるぞ!今出てる流れ星を全て覚えろ!しらみつぶしだ!」


停滞していた空気が一気に崩れて、場が流れ始める。

もう1枚引換券が欲しかった所だがこの様子じゃ難しいかもな。なにより目標だったジャックオーランタンを捕まえたことでやる気がごっそり抜け落ちちゃったのもある。


「お疲れ~」

「きゅい~」

「ホ~」

「メェェ・・・」


ボーパル達も緊張の糸が切れたのかその場にフニャンと垂れている。可愛い。


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「ナイスファイト」

「GJ」

「引換券ってどんなの、ちょっと見せてくれない?」

「頼む!仮装の引換券売ってくれ!」


などなど、戦後の俺達に声をかけてくる沢山のプレイヤーから逃げるようにあの場をさりリアさんの元へと戻る。


あ~ダメだ。完全にスイッチ切れちゃったな。目の前をトリュフチョコのお化けが転がっていっても捕まえる気もおこらない。


あっ、待って。かぼちゃパイは欲しい。かぼちゃケーキも!あれは良い物だ。ゲームだからどれだけ食べても太らないし。お腹もふくれないけど。


「ただいまー」

「きゅいー」

「ホー」

「メェェ」


リアさんのお店ではリアさんとレン君が紅茶を飲みつつ談笑してた。

・・・どうでもいいけど、リアさんあれメッチャ座りにくそうだな。バランスボールの上に座っているような感覚になってるんじゃないか?


「あら、おかえりなさい。早かったのね?もうイベントはいいの?」

「ええ。ボス捕まえて引き換え券ゲットしたらなんか気が抜けちゃって。後はボーパル達とまったりイベントを楽しもうかなと思いまして。レン君はもうイベントいいのか?」


「うん・・・ボクはもう疲れたよ・・・」

「ふふふ、レン君はね。お化けを捕まえようと大きなアミを作ったのに、お化けはアミを通り抜けて、代わりに通行人を沢山捕まえちゃったみたいで、さっきまで叱られてたのよ」

「わ~お」


俺達が街中を走り回っているあいだずっと叱られていたのだとしたらすごいな。まぁ、アミを作る時間もあるから一緒じゃないとは思うけど。


「メェェ、メェェェェ」


空いてるイスに座って話を始めた俺のマントをアイギスが引っ張ってくる。

お菓子を出せって事なんだろうけどお前まだ食うのかよ。この数時間で明らかにアイギスの体積よりも多い量のお菓子を食べたと思うんだが?


「はいよ。3人で仲良く食べろよ?別に食べても太らないし健康に悪いわけでも無いだろうから食べるのは止めないけど、お菓子の総量は有限だからな?あんまりガツガツ食べてると直ぐなくなるぞ?」


「メェェェェェェェェ」


「聞いちゃいないし・・・」


顔中にクリームが付くのも厭わずにケーキに頭を突っ込むアイギスを見ていると宥める気も失せるな。

本当においしそうに食べるやつだ心なしかアイギスの鳴き声も「ウメエ」って言ってるように聞こえるレベル。


「いっぱいお菓子取ってきたんで俺達も食べますか。このかぼちゃパイが個人的にオススメです」


「あらあら。それじゃ私はお茶を入れ直してこようかしら」

「ホント!?わ~い。お菓子たべりゅ!・・・舌かんだ・・・」

「ははは、そんな慌てなくてもお菓子は逃げな・・・いや、よく考えたらいっぱい逃げてたわ」


「うふふ。じゃあ逃げないようにさっそく皆でいただきましょうか」


「「「いただきます」」」


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3人で夜のお茶会をしていると直に引き換え券を手に入れたタクとシルフも戻ってきた。


タクは俺に対抗するために、わざわざ探し出したドラキュラの仮装をしてきたが俺と並んでいてもやっぱり違いは分からなかった。わざわざ別枠にした意味よ・・・。

で、シルフはボーパルに頼みこんでお揃いの白ウサギの仮装に着替えていた。仮装をわたす条件でときどき白ウサギの仮装をボーパルに貸してもらう事を約束した。俺の分の引き換え券はもう無かったので、大変満足な取引になった。


脱グールを達成したシルフはボーパルを抱え、自前のクッキーで餌付けして悶えてる。

気持ちは分かるが破産するまで入れ込むなよー。


そんなこんなで、イベントが終了するまで5人と3匹でわいわいとハロウィンパーティを楽しみ、イベントが終了してタクとシルフ以外の仮装が解けた辺りで自然とハロウィンパーティもお開きになった。


「今日はとっても楽しかったな。明日はもっと楽しくなるよな?皆?」

「きゅい!」

「ホー!」

「メェェ!」


「ん、じゃあ。お休み。ダイブアウト」


ログアウトの承認確認をYESを選択し。現実に戻り、そのまま眠る。なんだかいい夢見られそうな気がする。・・・zzz


こうして、俺の長いハロウィンはゆっくりと終わっていた・・・。
















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FWO内、始まりの街某アトリエにて。



「たっだいまデース!」


「・・・おかえりなさい。ハロウィンはどうでしたか?」


「お菓子が大量、大量デース!後で一緒に食べるデース!フィアの方はどうだったデスか?お化けが怖くて泣いたりしてなかったデスか?」


「・・・むー、泣いてなんかいません。いつまでも子ども扱いしないでください」


「えー、ついこの間『お姉ちゃん。ひとりじゃ眠れないから一緒に寝てもいーぃ?』って聞いてきてた気がするのデスが?あっ、今のフィアにそっくりだったデス!」


「・・・全然似てませんし、どれだけ前の話をしているんですか・・・もう」


「うーん。そっくりだと思ったんデスが・・・

およよ?この、かぼちゃパイとクッキーはどうしたんデスか?それにハロウィンは終わったのにどうしてフィアは、魔女の格好のままなんデスか?」


「・・・あわてんぼうの困ったお化けさんが、置いていったんです。(・・・せっかく、クッキー焼いて待ってたのに・・・)」


「え?最後何て言ったか良く聞こえなかったデス」


「・・・何でもないです。姉さんも一緒に食べましょう。早く手を洗ってきてください」


「分かったデース!すぐ戻るデスからちょっと待ってるデスよ!」


「・・・ ・・・ ・・・まったく。本当に困ったユウさんです」


言葉とは違い、どこか楽しげな音色を乗せて呟かれたその言葉は少女以外誰も居なくなったアトリエに染み渡るように溶けて消えてゆく。今少女がどんな表情を浮かべているかを知るものは窓の外に広がる柔らかな闇しかいない・・・


















「からっ!?このクッキーすごく、塩辛いデス!!」


「・・・お砂糖とお塩、間違えました・・・」


急遽改変しましたので誤字脱字、矛盾ありましたら感想のほうへお願いします。


・・・ちゃうねん。書き始めた時はまさか10月末になっても闘技大会が始まっていないとは思ってなかってん。

おかげで3人ほど出番がカットされた上にフィアちゃんの好感度が本編よりあからさまに高いけれど、フィアちゃんは可愛いすぎて出番をカットできんかったんだ。orz


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