3匹目 サモナー始めました
「町から一歩でも外に出たらもういつ戦闘になるか分からないぞ武器は抜いておけ」
そう言い虚空から一振りのロングソードとレイピアを取り出すタクとシルフ。
俺も二人にならい自分の武器である本を取り出す。
「おお。ちゃんと出てきた」
このFWOでは防具は着っぱなしだが武器は装備しているものに限り出現させたり消したりできる。
これは両手斧や両手剣のうちでもでかい方の武器を常に持ち歩いていたら重いわ、あちこちぶつけるわ、で苦情がきて本サービスから採用されたシステムらしい。逆にこの機能で出現させた武器以外は武器としての判定がないらしい。
武器は装備しないと意味が無いぞ!
「それじゃ行く―――」
「「―――いやいやいやいや、ちょっとまって!!」」
「ん?」
「いやいや、ん?、じゃねえよ何だよその本は!」
「マジックユーザーの初期装備ってワンドのはずだよね!?」
「へ?いや、俺マジックユーザーじゃないし」
「え、でもその服は冒険者のローブだし……」
「初期装備が本のジョブなんて……」
「?」
そこで初めて俺の鑑定画面をしっかり見たのか2人が頭を抱えだす。あれ?なんか嫌な予感。
「もしかしてもしかしなくても。サモナー(召喚師)って、弱いのか?レア職かと思ったんだが……」
「いや、FWOには癖の強いジョブはあっても弱いジョブは無い!」
なぜかドヤ顔で叫ぶタク。きめぇ。
「サモナーは地雷職だよお姉ちゃん!」
シルフ、曰く、サモナーは倒したモンスターを本に封印することで取り込んだモンスターを召喚、使役できる職業である。
曰く、モンスターが強いほど召喚できるようになるまでに封印しなければならない数が増える。
曰く、モンスターを本に封印した場合ドロップが発生しない。
曰く、召喚したモンスターはサモナーのパーティメンバー扱いになりパーティの最大人数である6人、サモナーを抜いて5体までしか召喚できない。もちろん5体召喚したら他のプレイヤーとパーティも組めない。
曰く、最初の1体以外は5体封印完了状態になるごとに召喚できるモンスターの枠が1つ増え、再選択は出来ない。つまりパーティの上限である5匹召喚が出来るようになるまでには20体のモンスターを封印完了状態にする必要がありこれがなかなか大変である。
曰く、サモナーの得意武器であり、専用武器でもある本だが杖や剣などと比べ作成のハードルが高く序盤では宝箱からのドロップ以外で装備を手に入れるのが難しくそのドロップ率もとても良いとは言えない。
曰く、FWOではスキルの取得にSPというポイントを消費し、その消費量は職業によって変動するのだがサモナーは消費ポイントが総じて高い。その上当然だが専門職に比べ効果が低い。
「分かる?お姉ちゃん。サモナーが地雷職って言われるのは戦闘職の収入源であるドロップが封印している間まったく取れないのと、サモナーの本体とも言える強力な召喚獣を出すためには今まで組んでいたプレイヤーとパーティが組めなくなることなんだよ。だからサモナーと組んでくれるプレイヤーなんてほとんどいないしサモナー自身はスキルが全然取れない上に使えないからマジックユーザーの劣化版にしかならないし、1人で5匹召喚できるところまで上げるのは大変なんだよ!ドロップでないし!つまり……」
「つまり……?」
「モフモフの子を召喚したらモフらせて!」
「つまりの前後で話が繋がってねえ!」
タクうるさい。
「あ、じゃなくって……えーと、そう!あ、あたしたちが協力してあげてもいいんだからね!勘違いしないでよね!レベル上げのついでなんだからね!」
「唐突なツンデレ!そしてあたしたちってサラッと俺まで巻き込まれてね!?」
「タクさんうるさい」
「ゴフッ、唐突な腹パン、だと……理不尽、すぐる……ガクッ」
シルフのノーモーション、ノールックパンチが腹にクリティカルヒットしたタクは腹を押さえてうずくまる。
……え?だいじょうぶなのあれ、
「な、なあシルフ」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。痛覚設定はデフォでオフになってるから」
「そ、そうかじゃあタクのは単なるネタか……」
「ただ苦しいだけだから」
「タク!無事か!死ぬな!」
いまだ腹を抱えてうずくまるタクに駆け寄り助け起こすと、あっさりと復活したタクが立ち上がった。
「あー苦しかった。死ぬかと思った」
「もう大丈夫なのか?」
「ああ、毒とか欠損とかの継続ダメージで無ければそう長くは続かないからな。まぁそれはさておき俺もお前の狩りを手伝うのは賛成だ。ここらの敵の素材で作れるような装備はいらないし金もあるからなレベ上げついでだ」
「持つものの余裕が腹立たしいが助かる」
「お前の発言もちょくちょく一言多いよな」
てなわけでやっと念願の初戦闘。
だが、
「はああああああああああああ」
「やぁあああああああああああ」
「ぎゅぎいいいいいいいいいい」
哀れタクたちに見つかってしまった一羽のウサギが見敵必殺とばかりに一撃で沈められる。
かわいらしいウサギさんだったのに、身動きをとるまもなく断末魔を上げて動かなくなる。
「かわいそうに……」
「「ついカッとなって殺った。反省はしていない」」
「……封印さえさせてくれれば別にいいんだけどね」
『封印』
倒れていたウサギが光の粒になって俺が開いた本へと吸収されていく。が、ウサギから出た光は全ては吸収されず半分以上が消えて無くなってしまった。
光の粒が全て消えて無くなった後、白紙だった本。正式名称封魔の本の1ページ目にさっきのウサギの絵と封印率20パーセントと書かれたページが追加されていた。かわいい。
「へー、サモナーの封印ってそんな感じなんだ。始めてみたけどキレー」
「ああ、だが勿体無い気もするな。アイツからは毛皮が剥げるんだがな」
「どうも後4羽で封印率が100パーセント行きそうだしそれまで付き合ってくれよ。後俺にも戦闘させてくれ」
「って言われてもなあ?」
「お姉ちゃん本でどうやって戦うつもりなの?」
「……角で殴って?」
「お姉ちゃん……」
「前衛職でもないのに殴るって、しかも攻撃力もリーチもない本で……」
「ううっ」
「まぁまぁ、ここはあたしたちに任せといてよお姉ちゃん!」
「そうだぞユウ。街に帰ったらいいロッドかワンドを一緒に探してやるからな」
「ああ、頼むわ……」
なんかほんと情けないな俺。ちなみにロッドとは敵を殴ることも考えた長い杖、ワンドは魔法発動のためだけの短い杖らしい。
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